第45話『得体の知れぬ少女』


「ここでいいか」



 俺は狙撃ポイントから離れ、森の中の茂みに身を隠していた。


 辺りには俺が仕掛けた罠の数々。


 ここに来るまでの間に少女が罠でやられていればヨシ。


 もしここまで少女が来たのなら――やるしかない。




 ――ドォォォォォンッ

 ――パァンッ

 ――バリィッ




 遠くから俺が仕掛けた罠が作動しまくっているのが聞こえる。


 地雷、対象をその地点に捕らえたら自動で発砲する銃、ワイヤー仕掛けの電流。


 そのどれもがかかったら死んでもおかしくないほどの一撃を秘めている。



「普通に罠にかかったか。仕掛け場所を把握してるリルが罠にかかる訳がないし……。とはいえ、いくらなんでも罠にかかりすぎじゃないか?」


 今も鳴り響いている罠の作動音。


 普通、一つでも引っかかったらアウトのはずなのだが――




 そのまま茂みの中でジッと音を立てないまま周辺を警戒する俺。


 罠の成果を確かめに行きたい気持ちをぐっと抑え、潜伏を継続する。


 そうして数秒が経ち、罠の作動音がようやく途絶え。


 数分時間が経ち。そして――



「――何も起こらない。どうやら終わってくれたみたいだな」 



 そう言いながらも警戒だけは怠らず。


 俺はゆっくりと茂みから出て、先ほど罠が作動したと思われる地点まで静かに進んでいく。

 ゆっくり。足音を立てず。場所が絶対にばれないようにだ。



 そうして数時間くらいかけて罠が発動したと思われる地点まで移動した俺。


 そこには――



「おー。んー? ばりばりない? こわれない? なぞ? なぞなぞ? すごー」



 その手にワイヤートラップで使用されたワイヤーやら俺が設置していた拳銃やらを持ち、ペチペチと叩いている少女の姿があった。


 そして、その前にはリルの姿もあり。



「ねぇアンタ。さっきから私の事ガン無視しすぎじゃない? そろそろ正体とか目的とか洗いざらい吐きなさいよ」



 そう言ってリルはあまり警戒しないまま、少女に話しかけていた。


 だが。



「んー。おしてはなすとばくはつする。こわこわ。これは……ふれたら? げんりわかんない。こわれないぶっしつ? あだまんたいと? おりはるこん? ちがう……ね? なぞ? んむーー。んむーー?」



 俺が仕掛けた罠の数々を目の前に並べ、リルの言葉には反応を示さない少女。


 少女は未知の物を興味深そうに眺め、または触れまくっていた。



「なんか見た目以上に子供っぽいな。もしかして警戒する必要はない……のか?」



 少なくともリルはあまり警戒していないようだ。



「よし」


 

 俺は隠れるのをやめ、立ち上がった。



「――っ!? ……ビャクヤ?」



「ほーい。ビャクヤですよー。ルヴィナス盗賊団の前線基地は焼け野原にしたから後はこっち片づければ万事解決って訳でここまで来たんだけど……今はどういう状況なんだ?」



 いきなり現れた俺の気配に驚いたのか、リルは身構えた。


 だが、その相手が俺だと分かるとすぐに脱力して。



「どういう状況……ねぇ? それを聞きたいのはこっちも同じなのよね」



 そう言って「はぁ」とため息を吐くリル。


 ふむ。

 どうやら一言で表せるような状況じゃないらしい。


 なら、とりあえずこれだけは聞いておこう。



「じゃあ一個だけ質問。この子は敵なの? それとも味方? っていうか何者?」



 俺はそう聞きながら手に持ったショットガンの銃口を少女へと向ける。


 無論、弾は装填済みである。


 遠目で見た感じ、この少女は幼いその見た目とは裏腹にかなりの実力者だ。

 油断はできない。


 ゆえに、敵ならばこのまま撃つのみ。


 そうじゃないなら話し合う余地はあるだろう。


 そんな分岐点を分ける俺の質問にリルは。



「さぁね?」



 自分もそんなのしらないと。そう肩をすくめて答えるのだった。



「最初は敵だったと思うわよ? なんかご主人様とやらの命令でアンタを殺そうとしてたみたいだしね。

 実際、途中まではそのつもりだったっぽいんだけど……なんでか途中でやる気をなくしたのかこの調子なのよ。

 そして今は私たちが仕掛けたアンタの罠にご執心みたい」



「ん~~? かりかり。こりこり?」



 掘り出した地雷の表面をカリカリコリコリと引っ搔いている少女。



「あぶっ――」


 それを間近で見た俺は危険だと一瞬身構えたが、見ればその起爆スイッチ部分には草が巻き付いており、固定化されている。


 地雷は起爆スイッチ部分を押し、そして離せば起爆する。そんな仕組みだ。


 なので、あのように起爆スイッチ部分が押しっぱなしであれば爆発しない。


「よかった……いや、待て」


 安心する俺だが、すぐにそれが異常である事に気付く。


 何か重りのようなものを乗せ、地雷を無力化する。


 地雷の対処方法としては大正解。花丸をあげていいだろう。


 しかし……だからこそ解せない。


 どうしてその対処法をこの少女は知ってるんだ?



「ちなみにこの子ね。私たちが仕掛けた罠に片っ端から引っ掛かりに行って、その効果とかをすっごく興味深そうに見てたわ。

 その時、手足が2,3本飛んで行ったけど……なんか治癒魔術で自分で治してた。呆れるわよね? 普通、そんなの高度な治癒魔術でも不可能なのに」



 その言葉通り、呆れたような目で少女を見るリル。


 なるほど。


 確かにいくつかの罠が普通に発動してたのは音で分かってるからな。


 少女は地雷に対する対処法を知ったのではなく、色々と試してみて理解したと。


 そう言う事なのだろう。



「マジかよ……」



 地雷に対する最適解。


 この少女はそれをたかが何回か試しただけで理解し、それを実践したと?


 未知の罠に対してそんな最適解をものの数回試しただけで導き出したと?


 あまりにも馬鹿げた話だ。


 本当にそんな事を為せるとしたら世紀の大天才様くらいのもの。


 だというのにその大天才様ときたら。


「んぅ~~? かんかんこんこん? お~~」



 能天気な顔で未だに興味深そうに罠を弄っている大天才様、もとい少女。


 こんな少女が大天才様だと?


 そんでもってとんでもない実力者だと?


 正直言って、とても信じられる話ではない。


 だが、この少女が俺の狙撃を避けた事は確かだ。


 そもそも、俺はリルの事を疑うつもりもない。


 つまり、この少女が桁外れの力と知性を持った存在と言う事であり――



「むーー。む? おぉ~~?」



 掘り出した地雷をカリカリコリコリと弄っていた少女。


 しかしその行為にも飽きたのか。


 少女の瞳は俺の方へと向いていた。


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