第46話『得体の知れぬ少女-2』



「な、なんだ?」


 得体の知れない少女。


 今まで俺が仕掛けた罠である地雷やらを興味深そうに見て、触ってと繰り返していた少女。


 その少女の瞳が今、俺の方へと向いていた。


「きょうみ? しんしん? しんしんとーっ! みたことない。んむ? んむむー? ジジジジー」



 たどたどしい口調で興味津々だと語る少女。


 その少女は変わらず俺の事を見つめていて……いや、違う。


 この子が見ているのは正確には俺じゃない。


 この子が興味を持って見ているもの。


 それは俺が持っているショットガンだ。



「………………(少女に銃口を向けたまま、無言でショットガンを左右に移動させてみる)」



「ジー。ジジジー。ジジジジー」




 俺が手に持つショットガンを左右に移動させるのに合わせ、少女の視線もショットガンを追って左右へと移動する。


 その姿はなんだかエサのお預け喰らった子猫みたいでちょっと微笑ましい。


 もっとも、興味を示すものがショットガンなのはどうかとしか思わないが。



「……バーンッ!!」


 俺は引き金を引く振りをしてみた。


 銃口は少女をむいたまま。


 しかし少女はといえば。



「む? むむー?」


 一歩間違えれば目の前にある銃口から弾が出てくるというのに、顔も逸らさないまま俺の持つショットガンを興味深そうに見つめていた。

 

 その顔には一片の怯えも、害意すらも見当たらない。


 少女の手は血に塗れているが、俺は不思議と無垢という印象を受けた。


 なので俺も毒気を抜かれてしまい。

 


「さて……どうしたもんかねぇ」



 俺はそんな少女に銃口を向けたまま、これからどうしたものかと頭を悩ませる。


 このまま引き金を引けば簡単に、このトンデモ少女を始末できるだろう。


 ただ、少なくとも今はこちらに敵意を抱いていないようだし。


 なにより、こんな無抵抗でこっちを警戒すらしていない女の子を相手にショットガンをぶっ放すのは……さすがの俺も心が痛む。


「何と言っても美少女は世界の宝だしな。

 それに……白髪赤目の美少女とかなんかノラネコ少女っぽくて可愛くない?

 こんな感じで相手の話も聞かず自分の感じるまま思うがままに行動してるのもそれっぽいし」


「何を呑気な事を言ってるのよアホビャクヤ。

 言っとくけどね。こいつが本気で暴れたら私でも抑えきれるかどうか未知数なのよ?

 ……もっとも、とてもそうは見えないから警戒しにくいってのは分かるけど」


 俺の馬鹿なぼやきに付き合ってくれるリル。


 そうして彼女は少し非難めいた視線を少女に向け。


「そもそも、この子が敵かそうじゃないかもまだ分かってないんだから。

 私がその辺りの事を聞いても聞く耳持たずだったしね」


 そう言ってため息を吐く。


 確かに。


 さっきも軽く見たがこの子、罠に興味津々でリルの言葉に耳すら傾けてなかったからなぁ。


 とはいえ、このままじゃどうしようもないのも事実。


 なので、



「なぁお前さん。お前さんは一体何者なんだ?

 聞けばご主人様の命令とやらで俺を殺そうとしてたみたいだが……それはもういいのか?」


 ショットガンの銃口を少女の方へと向けたまま。


 俺は少し緊張に汗をにじませながらそう問いかけた。


 この俺の問いに反応していきなり襲ってくるかもしれないしな。


 そう俺は身構えていたのだが。



「ん~~? ごしゅじんさま? めいれい? それはないなった。えと……むこう? だってごしゅじんどーんってなった。せいたいはんのうきえた。えっと……ごりんじゅう? しぼう? だからわたし、ごしゅじんさまないなった。つぎのごしゅじんさままち?」



 たどたどしい言葉遣いで、しかしきちんと俺の問いに応えてくれる少女。


 どうやらリルの時とは違い、俺にはきちんと答えてくれるらしい。



「なによ。私の時は完全に無反応だったってのに……こいつ、ビャクヤに気でもあるのかしら?」


「いや、多分だけど俺の持ってるショットガンに興味持ってるからついでに俺の事を認識してくれてるってだけだとおもうぞ?」


 今まで効く耳持たずだった少女が俺の問いには答えた事でちょっと不機嫌になるリル。

 俺はそれを軽くフォローしつつも、少女の言った内容を軽く整理してみる。



「えーとつまり? この子のご主人様とやらはドーンと爆発して死んだから俺を殺せとかいう命令は無効となり? そんでもってこの子は次のご主人様待ちと。

 そういう理解でいいのかね?」


「いいんじゃない? この子のご主人様って多分ルヴィナス盗賊団の誰かでしょうし。

 ――あ。そういえば……さっきあいつらの居た方向から爆発音が聞こえたけどうまくいったの?」



 あぁ、そうか。


 ルヴィナス盗賊団の前線基地を爆発させて色々片付いた事。


 それをまだ報告してなかった。



「もちろん。リルの協力もあったからうまくいったぜっ!

 ルヴィナス盗賊団とやらはあいつらの前線基地ごと大半が焼け死んで、後は下っ端っぽいのが何人か逃げたくらいだな」

 

 ぐっと親指を立てて戦果報告をする。


 するとリルは腕を組んで頷き。


「そう……ならやっぱりアンタがさっき言った通りって認識でいいんじゃない? その焼け死んだ中にこの子のご主人様とやらが居たんでしょ」


 やはりルヴィナス盗賊団の中に少女のご主人様とやらが居て、それが焼け死んだから少女はご主人様から下された命令が無効になったんだろうと結論づける。

 


 しかし……このご主人様とやらの命令に盲目的に従う少女。


 一体何者なんだ?


 今の話を聞いても仇を取ろうとしないあたり、忠義心っぽいのもなさそうで――



「んぅ? ごしゅじんころしたの。あなた?」



「「っ――!?」」



 少女の興味がショットガンから俺へと移ったのを感じ、俺は数歩後ろに下がり、そんな俺と少女の間にリルが割り込んでくる。

 

 やはり……戦う事になるか?


 ご主人様を俺に殺された少女。


 となれば当然、少女はかたき討ちの為に俺を殺そうとするはずで――



「じゃあ、あなたがつぎのごしゅじんさま。けってー」



 ……

 …………

 ……………………



「「……はい?」」



 俺の方をまっすぐ指差し、なんかよく分からない事を少女は言い出すのだった――

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