第29話『クソ兄貴現る』



 ストールの街に帰ろうとその途上にある森の中を進んでいた俺とリル。

 そんな俺たちだったのだが、森がいきなり燃え始めたのだ。

 放置するのも問題だと思い、水の魔術を使えるリルのみが消火活動に奔走。


 消火活動の役に立たない俺は彼女の帰りを待っていた。

 そんな中、俺の目の前に現れたのがルイス・アスカルト。

 俺が大嫌いなクソ兄貴であり、アスカルト家の長男だった。



「クソあに……っと間違えた」



 思わずクソ兄貴だとか言ってしまいそうだったが、相手は伯爵家長男だ。

 ここで迂闊うかつな事を言えば不敬罪だのなんだのと面倒な事になるかもしれない。

 なので――


「――こほん。……そんな、あなたは……ルイス兄さん?」


 俺はTPS関連の記憶が戻る前の俺の如く、弱弱しくそう振る舞う事にしてみた。

 こんな感じで良かった……よな?


 そんな俺の演技に気を良くしたのか。クソ兄貴は唇を邪悪に歪め。


「この時を待っていたぞ。お前があの女と離れるこの瞬間をなぁっ」

  

 なんて事を言い出した。

 あの女……リルの事か。

 つまりクソ兄貴は俺とリルが離れる瞬間を狙っていたと。

 なるほど。

 ………………どうしてそんな面倒な事を?



「ビャクヤァ……。お前は居なくなっても迷惑なやつだよ。まさか父上があそこまで愚かだとは」


「えっと……何の話ですか?」


「だが、それもお前が死ねば全て丸く収まるっ! この場にあの女は居ない。つまり、お前の頼れる護衛は居ないという訳だ。くく、どう料理してやろうか」


「兄上……」



 ダメだ。

 このクソ兄貴ときたら、興奮しているからか分からんが会話する気がそもそもないらしい。


 ただ、クソ兄貴は俺の事を抹殺する気満々らしく。


「行くぜ……『炎纏ほのおまとい』」


 クソ兄貴が自身のスキルである『炎纏い』を発動させる。

 その効果は単純で、自分自身が炎をまとうというもの。

 スキル『炎纏い』の保持者であるクソ兄貴は火傷せず、逆に接敵する相手を問答無用で燃やし尽くす。

 攻防一体の完璧なスキル。


 そう記憶を取り戻す俺は思っていたし、事実それは間違いという訳でもないのだが――


「クハハハハハハハハハ。こうなった俺は無敵だっ! さぁ、魔術の使えないお前はこれにどうやって立ち向かうのかねぇ? つっても逃げるしかできねぇよなぁ。もっとも、無能なお前は逃げ切る事すら――」


「――えいっ」



 ――パァンッ!!



「うがぁ!?」


 

 高笑いをするクソ兄貴に対し、俺は問答無用でピストルを取り出してクソ兄貴に向けて発砲。

 得意げに語っていたクソ兄貴はまともに銃弾をその足に喰らい、その場でうずくまる。



「てめぇ……この無能がぁぁぁぁっ。この無敵な俺様に一体何をしやがったぁ!?」



 なんか滅茶苦茶怒ってるクソ兄貴。

 しかし……無敵ねぇ?


 実際、近接戦しか出来ない剣士とかであればクソ兄貴の『炎纏い』は厄介極まりないスキルなのだろう。

 なにせ近づくだけで熱によるダメージを覚悟しなければならないのだしな。


 ただ、それはあくまで接近戦限定の話だ。

 現在、俺とクソ兄貴は5メートルほど離れた位置にて対峙している。


 この位置からなら『炎纏い』の熱は俺の元まで届かず、逆にTPS武器としてピストルやらショットガンを持っている俺の攻撃は届く。

 つまり――



「単純に相性が悪いんだよなぁ」


 


――パァンッ!!


――パァンッ!!


――パァンッ!!



「うげっうごっうばぁ!?」



 殺すと厄介そうなのでその手足に弾丸をお見舞いする。

 するとまるで操られる人形のごとく踊るクソ兄貴。

 手足に銃弾が撃ち込まれたクソ兄貴はもう立てないのか、その場に倒れた。

 だというのに。



「クソがぁぁぁぁぁぁ!!」



 倒れてもまだ諦められないのか、クソ兄貴は這いながら俺の方へと向かってくる。

 その間、『炎纏い』のスキルは解除されず炎は広まるばかり。



「迷惑だなぁ……」



 このクソ兄貴、腐っても貴族なので殺すと面倒くさそう。


 かといって、この炎の塊となっているクソ兄貴を放置すると森が全焼しかねないし、この様子だとどこまでも這って俺を追いかけてきそうだ。

 それもそれでやはり面倒くさそうだし。


「なら……っちゃうか?」


 リルから依頼達成の金を受け取ったらこんな領地とはおさらばするつもりだし、もしかしたら殺しちゃってもいいのかもしれない。


 だが、相手は仮にも伯爵家の後継者。

 地の果てまで追いかけるみたいな感じで追っ手を回されるかもしれない。そう考えるとやはり手は出しにくい。


「ビャクヤァァァッ! お前如き無能がこの俺によくもぉぉぉぉぉぉっ!!」


「ええいうるさいっ!!」


 

 俺はスタングレネードをクソ兄貴の目の前に放ってやる。

 そうして――起爆っ!



「――――――――――」



 圧倒的な光と轟音。

 スタングレネードの効力を知っていた俺はもちろん事前に目を閉じて耳も塞いでいたが、クソ兄貴はそうもいかないだろう。

 これで少なくとも俺を追う事は不可能になったはずで――



「ぐが……かっ……」


「……おや?」



 スタングレネードが起爆した後、目を開く俺。

 そこにはのたうち回っているクソ兄貴が居るものとばかり思っていたが、意外ととても静かだ。

 いや、静かというより――



「これ……気絶してるな」



 スタングレネードは相手の目と耳を潰し、混乱状態にさせる武器だ。

 そのスタングレネードでまさか気絶状態に出来るとは……。

 やはり細かい所がTPSゲームとは違うなぁ。


 などと思っていると。



「ちょっとビャクヤッ!」



 今のスタングレネードによる音を聞きつけたのだろう。

 ちょうど消火活動を終えたらしいリルがこちらにかけつけていた。


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