第28話『燃ゆる森』
ストールのダンジョンを攻略し、街へと戻るため歩を進める俺とリル。
その道中には魔物がよく現れるという森林地帯がある。
街からダンジョンに来るときもここで幾体かの魔物と出くわしたものだ。
だというのに。
「魔物の気配……ないな」
森を歩きながらそうぼやく俺。
森林地帯に入ってからと言うもの、俺は耳を澄ませて索敵に専念していた。
していたのだが、俺の索敵範囲内に魔物が全然引っかからないのだ。
あいつら、足跡も殺さずにのっしのっしと歩くし雄たけびも上げるしで居れば察知できない訳がないんだが……おかしいな。気配が微塵も感じられない。
「ダンジョンのクリスタルが機能を停止したからじゃないかしら? あのクリスタル、噂通り魔物を生み出していたようにも見えたし。アレが停止したからダンジョンが崩壊した。そう考えればこの状況にも納得がいくわ」
あぁ、なるほど。
言われてみればクリスタルを手に入れた瞬間、その場に居た魔物達も消えてたからなぁ。
あの瞬間、あそこに居た魔物だけでなくこのクリスタルによって生み出されてた魔物全てが一斉に消えたのだと考えればこの森に魔物の気配がないのも頷ける。
そうして俺達は魔物の気配がない森の中を歩く。
そうしていると――
「うん?」
「どうしたの? もしかして魔物の気配でも感じた?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……」
俺は足を止めて音に集中する。
すると聞こえてくるのは――何かが焼ける音。
それと共に、がさがさと森の中を散策する何者かの存在を感知した。
「リル。誰かが森の中に居る。それと、何かが焼ける音がする」
そうリルへと注意を促す。
しかし。
「ふぅん。でも、別に誰かが居るのは不思議でもないんじゃない? 冒険者かもしれないし。何かが焼ける音っていうのも休息を取ってるとかなら普通だしね」
至極もっともな事を言うリル。
確かに、森に冒険者が居るのは全然不思議な事じゃないし、何かを焼いている音に関しても焚き木をたいているとか、色々な可能性があると思う。
だが――
「いや、規模がおかしいんだよ。これは焚き木をたいてるとかそんなレベルの話じゃない。まるで手当たり次第に森を燃やしにかかってるみたいな――」
そう言っている内にパチパチと何かが焼ける音が大きくなっていき。
遂には目視できるところで木々が燃え始めた。
「あらら……これは大惨事ね。一体誰が……」
「さぁな。最初に俺が察知できた相手は一人だけだが……ここまで燃え広がるとさすがに索敵は不可能だよ。ぼーぼーパチパチうるさいったらありゃしない」
炎は木々から木々へと移り、その範囲を拡大させていく。
そんな中、森に居る何者かが動いているのを音で察知するのはさすがの俺でも不可能だ。
さて――
「それで……どうしよ、これ?」
俺は燃える森を見ながらそうリルに尋ねる。
別に森から逃げるだけならどうとでもなる。
だが、それだと森は全焼。
場合によっては森に居るかもしれない他の誰かが焼け死ぬかもしれない。
それだけは避けたいなぁと思うのだが。
「どうしよって……。まぁ私は雷の魔術が得意ってだけで水魔術も使えるから時間をかければ消化も出来るけど……面倒くさいのよね。アンタのヘンテコ武器でどうにか出来ないの?」
リルは雷の魔術だけじゃなくて水の魔術も使えるのか。
才能のない俺とはえらい違いだな。
しかし。
「いやヘンテコ武器て。いや、まぁこの世界の人間からそう見えるでしょうけども」
「うっさいわねぇ。どうにか出来るの? 出来ないの?」
焦れてそんな事を聞いてくるリル。
もちろん、答えは一つだ。
「無理。水鉄砲なんて持ってないし。木を切り倒して燃えてる範囲を抑えることは出来るかもだけど下手したら燃え広がるだけだしな」
TPSゲームで何かを燃やせとかいうミッションが来ることは稀にあるが、消化しろなんてミッションは基本的にないからなぁ。
俺に出来る事は人やら魔物やらに銃弾やロケットランチャーをお見舞いして倒す事、それと家屋にロケットランチャーや火炎瓶を放り投げて燃やす事くらいのものだ。
つまり、消火活動するにおいて俺は無力であり。
「つっかえな」
そう。
この状況において俺は使えないのであるっ!
――って待て待て。
「いや酷くない!?」
俺、ダンジョンじゃ最後に足を引っ張ったかもしれないけどそこそこ役に立ちましたよねぇ!?
なのに消火活動ひとつ出来ないくらいで使えない認定されるのはさすがに悲しくなるんだけど……。
「冗談よ。でもま、そう言う事なら仕方ないわね。ちょっと疲れるからやりたくないけどこれで誰か焼け死んでも寝覚めが悪いしね。――ほいっ」
そうしてリルは短く何かぶつぶつと呟き、その手からは小さな魔法陣が浮き出る。
そうして。
「エイネン・ヒルズ」
無造作にその小さな手を振った。
すると、その手からは水鉄砲のごとく水が飛び出し。
バシャァァァンッ――
こちらまで迫っていた火をリルが生み出した水が一瞬で消し止める。
しかし、それで燃えている木々が全て消化されたわけではない。
なので。
「それじゃ、私は地道に消火活動してくるわね。少し時間かかるだろうからビャクヤはそこら辺で待ってなさい。
あ、でも勝手に街に戻るんじゃないわよ。先に戻ったって分かったら私は消火活動そっちのけでアンタを追いかけてやるんだから」
そう言い残して火勢の強い方へと突っ込んでいくリル。
どうでもいいが、この森林地帯で待機する俺と後で再び合流するより街で合流する方がお互いにとって楽なんじゃないだろうか?
なんて思ったりもしたが時すでに遅し。
ここで俺に出来る事はないしとっとと街に帰りたいところなのだが、それをするとリルは途中で消火活動の手を止め、結果やっぱり森は全焼しましたなんて事になりかねない。
森が全焼すると何の罪もないストールの街の人たちが困るだろうし、なにより関係のない一般人が森に紛れ込んでいて焼け死んだらリルの言う通り寝覚めが悪い。
「となると当然ここで時間を潰さなきゃいかない訳で……索敵しようにもリルが消火活動でばしゃばしゃやってるし、まだ色々燃えてるしで無理なんだよなぁ」
この森を焼き尽くさんとばかりに燃え盛る炎。
これがどんな意図、もしくは事故でもたらされたものなのかは分からない。
分からないが、もしこれを意図的に起こしているとなれば消火活動しているリルはそいつにとって邪魔でしかない。
なので警戒は必須なのだが、相手が魔物みたいな『うぉんうぉん』吠えてるのならともかく、人間相手だとそう上手くはいかないんだよなぁ。
などと思っていると――
「ビャクヤァァァァァッ!!」
後ろからどこかで聞いた気がする声が響く。
そいつは茂みから飛び出し、俺の眼前に現れた。
こいつは――
「クソあに……っと間違えた」
現れたのはルイス・アスカルト。
俺が大嫌いなクソ兄貴であり、アスカルト家の長男だった。
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