第23話『ダンジョン攻略最終ラウンド-2』



「よしっ!!」



 骸骨騎士を倒し、クリスタルまでの障害は全て消え去った。

 なので。


「これで依頼の品ゲットっと。ふんぬっ!!」



 俺はリルちゃんご要望の品であるクリスタルへと触れた。

 そのまま等身大の大きさのクリスタルへと俺は抱き着くようにしがみつき、不格好ながらもまっていた台座から抜き出す事に成功する。


 しかし、これで終わりじゃない。

 このクリスタルをもって逃げ切ってようやく依頼達成である。



「っしゃあっ! よくやったわビャクヤッ! さぁ、それこっちに頂戴。とっととアンタ担いでここから逃げるわ。しびれても文句言わないでよ?」


「文句は言いたいけどそんな場合じゃないの分かってるからオッケーだよちくしょうっ!! ほいっ!!」


 そのまま俺はクリスタルをリルちゃんへと渡す。

 しかし……ここからが問題だ。


 等身大の大きさのクリスタルを持ってなおかつ俺を担いで逃げる。

 そんな事はいくらリルちゃんでも不可能。


 そう俺は思っていたのだが――



「お?」


 リルちゃんがクリスタルへと触れた瞬間。

 クリスタルは急速に小さくなっていく。

 そのまま小さくなり続けて、しまいにはリルちゃんの手のひらに収まるサイズになった。


「ほん?」


 どういう理屈でそうなったのかは分からない。

 ただ、このサイズなら持ち運びに手間取る事もなさそうだ。


 そして、そうなる事をリルちゃんは知っていたのだろう。

 クリスタルのその現象を目の当たりにしても彼女は特に動揺する事なく声を上げ。


「さぁ、逃げるわ……よ?」


 クリスタルを手に入れたリルちゃんは逃げようと俺に手を伸ばし……しかしその動きがそこで止まる。

 何かイレギュラーでも発生したのかと俺は周りを改めて警戒し――そこでようやく気付いた。



 シュゥゥゥゥゥゥゥゥッ――


 


 静かに霧となって消えてく魔物達。

 俺達が倒した魔物も、そして倒していない魔物も同様に。

 静かにその姿を薄れさせていたのだ。

 

 やがて。


 クリスタルの部屋から魔物達は消え去った。



「消え……た?」


「そう……みたいね」



 クリスタルを手に入れた途端、魔物達は消え失せた。

 どうしてかは分からないが、これで脅威はなくなったと見ていいだろう。


「ふぅ……」

「はぁ~~~~」



 安堵のため息を吐く俺とリルちゃん。

 しかし――ダンジョンはそこまで甘くなかった。




 ドォォォォォォォォンッ――

 


「なんだ!?」

「なに!?」




 突然響く爆発音。

 音の方角から察するに、このクリスタルの部屋より更に奥の区画から響いてきたものだ。



「リルちゃん。この先は――」


「未解明領域ね。このダンジョンはクリスタルの部屋直前までのマッピングしかされてないし」



 そういえばこのダンジョンのマッピングって完全なものじゃなかったんだっけか。

 つまり、ここから先の事は誰にも分からない。


「それに変よ」


「変?」


 そう言ってリルちゃんは奥に続く通路を指で指し示し。


「こんな通路、今さっきまではなかったわ」


 そう言った。


 うーん。

 言われてみればなかったような気もする……ような?


 ともかく、この先で爆発が起こったのはほぼ間違いない。



「どうするリルさん。行くか?」


「そうね。それじゃあ――」



 そのとき。


 パラパラと小さな音が背後で聞こえた。



「なんだ?」



 振り向くとそこには小さな石が落ちていた。

 今もその状態が続いており、上から少しずつパラパラと石が落ちてきている。



「まさか――」



「どうしたのビャクヤ?」




 区画の奥で聞こえた爆発音。

 上から落ちてくる小石。

 そして何より――



『この先にダンジョンの管理をしているって噂のクリスタルがあるの』 



 ここに来るまでの間にリルちゃんが教えてくれた事。

 クリスタルはこのダンジョンの管理をしていると。そんな噂があるらしい。

 もしそれが真実だったとしたら?



 俺達はクリスタルを台座から引っこ抜き、持ち帰ろうとしている。

 あのクリスタルが台座に収まっている事でダンジョンの管理をしていたのだとすれば、当然今はこのダンジョンは管理されていないただの深い洞穴ほらあなという事でもあり。


 必然。こんな入り組んだ洞穴なんていつ崩れてもおかしくはない。

 そうでなくても先ほどの爆発音。もう嫌な予感しかしないっ!!



「リルさんヤバイっ!! たぶんこのダンジョン崩れるぞ!」


「はあ? 突然何よ。ダンジョンが崩れるなんて事、そうそうないわよ? どれだけ派手な戦闘が起きても未だに形を残してるダンジョンがいくつある事か――」



「それ絶対にクリスタルが稼働してるダンジョンの話だろ!? 違うんだよそうじゃなくて――」



 そうして俺は自分の推論をリルちゃんへと話してみた。

 すると彼女は徐々に顔を青ざめさせていき。



「なんでもっと早く言わないのよっ!!」



「いやだから気づいた時点で言ったじゃん!?」 



 あまりにも理不尽な物言い。

 焦っているんだから仕方ないのかもしれないけど。



 などと言っている間にも頭上からは小石がパラパラと落ちてきている。

 もはやいつ大きな瓦礫とかが落ちてきても不思議じゃなさそうな雰囲気だ。

 それをリルちゃんも悟ったのか、彼女は俺の手を強く引き。




「――逃げるわよっ!!」


「へ? ちょっとくおわぁ!?」



 凄い勢いで走り出すリルちゃん。

 もちろん俺はそれについていけず、もはや引きずられるだけの存在となる。

 だが、それでは彼女としても走りづらかったのだろう。



「あぁもうっ。ホント貧弱な身体能力ねっ!! せぇいっ!!」



 俺の身体能力に文句をつけながら思いっきり俺の手を引くリルちゃん。

 そのまま小さな彼女は俺の身体を抱え、走り出した。


「うぇぇぇ!? ちょっ。リルちゃんこれって!?」


 両手で俺を抱えるリルちゃん。

 それは俗にいうお姫様抱っこだった。

 物語でも定番中の定番であるお姫様抱っこ。


 か弱いお姫様なりヒロインなりをお姫様抱っこしながら窮地きゅうちを脱する。

 ダンジョン攻略と同じくらい、俺がやりたかった事の一つである。


 問題点があるとすれば、今のこれは男女の役が逆という事であり。



「――しゃぁっ! 行くわよぉっ!!」



 これまで進んできた道を猛スピードで逆走するリルちゃん。

 それは俺を引きずっていた時よりも速く、とても頼もしかった。

 しかし。



「いや、でもこれは違うんじゃね?」



 普通は男である俺が乙女であるリルちゃんを助けたりするのがありがちな展開ってやつだよね?

 それこそが男のロマンってやつだよね?


 それなのにどうして俺は自分よりも小柄なリルちゃんにお姫様抱っこされ、助けられているんだろう?


 ハハハハハ………………。

 どうしよう。

 死にたくなってきた……。



 そうして俺達は無事にダンジョンが倒壊する前にダンジョンから抜け出したのだった。


 余談だが。

 助けられた俺は死んだ魚のような目をしていたらしい。


 そりゃそうなるよ!

 でも助かりましたありがとうございますっ!!

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