第22話『ダンジョン攻略最終ラウンド』


「リルさん。目と耳をふさげ!!」



 最終ラウンドの開幕。

 ミッションは魔物達の殲滅せんめつではなく、奴らが後生大事に守っているクリスタルの奪取だ。


 ならばこんな魔物達の相手を馬鹿正直にする事はない。

 ゆえに俺が選択するのは……これだっ!!



「喰らえぃっ。スタングレネード×3じゃぁぁっ!!」



 ポイポイポイッ――



 一発で十分な気がするスタングレネードを三発連続で放り投げる。

 魔物達の動きには十分に注意しながら、俺は放ったスタングレネードの最初の一発が効果を発揮する瞬間を待つ。

 そうして効果が発揮する直前、俺はリルちゃんと同じように自分の目と耳を塞いだ。


 瞬間。


 ごぉぉぉぉぉぉんっ――


 目を閉じていてもわかるほどの圧倒的な光。

 耳を塞いでいても聞こえてくる轟音。

 それらがクリスタルの部屋を支配した。


「今だっ!!」


 スタングレネードの効果が発揮されたあと、俺は目と耳を塞ぐのをやめて駆けだす。

 同時に前もって作戦を聞いていたリルちゃんも俺に並走する形で付いてきて――



「あぁもうおっそいわよっ! ほら、行くわよっ!!


「うお!?」



 違った。

 並走するなんてもんじゃない。

 俺よりも数倍速く走るリルちゃんはノロノロと走っている俺の手を強引にとる。


 おいおいマジかよ。

 女の子の手を握るなんて今世で初めての出来事だよ。


 こんな危機的状況だというのに胸がバクバクしてしまう。

 いや、むしろ危機的状況だから胸がバクバクいってるのか? もう分かんねえや。


 そんな俺に気付いているのかいないのか。リルちゃんは俺の手を引いて。



「さぁ……行って来なさいっ!!」


 放り投げた。

 俺の手を思いっきり引いたリルちゃんは何をとち狂ったのか俺の身体を思いっきり放り投げた。


「あいえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」



 いきなりの事に動揺を隠せない俺。

 とりあえずTPSスキルの一つである第三者目線で周りを見る事で状況の把握に努める。


 すると、リルちゃんが俺をクリスタルの方へと投げたというのが分かった。

 そしてリルちゃん本人は飛ばした俺を追いかけるようにして猛スピードで走り出しており。


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 理解はしたけどあんまりだろちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 空中で慌てふためきながら、俺はリルちゃんの考えをなんとか把握する。

 おそらくだが、リルちゃんはノロノロと走る俺に業を煮やしたのだろう。


 魔物達がスタングレネードで混乱状態に陥っている今はとにかく時間が惜しい。

 なにせいつ魔物が混乱状態から回復して襲ってくるか分かったもんじゃないからな。

 だからこそ彼女は時間を惜しみ、何の説明もなく俺をクリスタルのある方向へと放り投げたのだ。


 確かにそうした方がクリスタルへの到達は早くなる。

 ただ、だからと言って説明もなしに投げるのはどうよ?


 などと考えている間もぐんぐんと俺はクリスタルへと接近する。

 そこに。



『グゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!』



 スタングレネードによる音と光の影響を受けていないのか、真っ黒なドラゴンが俺の先を阻むように立ちふさがった。




「邪魔じゃどけぇぇぇぇぇぇいっ!!」



 もはやショットガンなど生ぬるい。

 俺はロケットランチャーをぶっ放した。

 そうして。



「どぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」



 高速で武器を切り替え、俺はマシンガンをそのままドラゴンの頭部に向けて放つ。

 一発一発の威力こそ低いが、多段ヒットしたときのマシンガンの威力はショットガンやロケットランチャーさえ上回る時がある。

 それも全てヘッドショット。その威力は(きっと)絶大だっ!!



『アギャァァァァァァァッ!!』



 断末魔の雄たけびを上げながら倒れる黒いドラゴン。

 


「よし。これでっ!!」



 目前に迫るクリスタル。

 後はこれを手に入れてトンズラするだけだ。

 しかし。 



『ウオォォォォォォォォォォォォォォッ』



「んな……にぃ!?」


 クリスタルのすぐ傍の地面から骸骨の騎士が現れた。

 骸骨の騎士はこちらをきっちり視認しており、その手に持って剣を振りかぶっている。



「ちっ――」



 まずい。

 まずいまずいまずいまずいまずいっ!!

 マシンガンの弾はもうない。

 武器の切り替えを行おうにも不安定な体勢だからもたついてしまう。少なくとも骸骨の騎士が剣を振り下ろす方が早いだろう。


 同じく避けるのも不可能。

 不安定な体勢だからというのもあるが、そもそも俺の回避性能はそんなに高くない。

 ここまで敵を近づけてしまい、先手を許している時点で俺はもう詰んでいるのだ。



「死ん――」


 死んだ。

 そう俺が諦めた瞬間。



「――雷神らいじん招来しょうらい



 ピカァッと何かが光った。

 そして骸骨の騎士が剣を振り下ろす前に光は俺の横を通り過ぎ。



「諦めんなばかぁぁぁっっ!!!」



 体中に雷を纏ったリルちゃんが俺と骸骨の騎士の間に割って入ってきた。



『オォォォォォォ』



 骸骨の騎士は剣の振り下ろしを中断することなく、その剣は間に入ったリルちゃんへと向かう。



「邪魔ぁっ!!」



 振り下ろされる剣にその拳を合わせるリルちゃん。

 そのまま雷を帯びた拳は剣へとぶつかり。




 ギィィィィンッ――




『オォォォォォォ』


「うっそぉ……」



 骸骨の騎士は後ろに少しよろめき、その剣を手から手放してしまう。

 剣VS素手の勝負。

 まさかの素手が勝った瞬間である。


 そんなあり得ない光景に思わず面食らった俺だが。



「今よ。吹き飛ばしてっ!!」


「――!? 合点承知ぃぃっ!!」



 リルちゃんの声に合わせ、俺は武器の切り替えを行う。

 ロケットランチャーの弾は先ほど弾切れの状態で武器を切り替えたのでまだ装填できていない。

 なので吹き飛ばすなら――これだぁっ!!



「そらぁっ!!」



 手榴弾。

 着弾してから爆破まで一秒弱の間があり、味方にも爆破ダメージを与えるソレはTPSにおいて使いどころが難しい武器の一つである。

 それを俺はクリスタルのすぐ傍に居る骸骨の騎士へと投げられるだけ投げた。


『オォォォォォォォォォォッ!!』



 骸骨の騎士は俺が投げた手榴弾を見ても逃げず、その両手を広げるだけだった。

 それはまるでクリスタルを守ろうとしているかのようであり。

 



 ドガァァァァァンッ――




「あぐっ――」

「きゃっ――」



 投げ飛ばされて宙を舞っていた俺はクリスタルからほどほど近い場所に着地し、そこで俺はリルちゃんと共に手榴弾の爆風による余波を受ける。

 そうしてクリスタルのすぐ傍に居た骸骨騎士の方を見ると。



『ォォ……オォォ』



 見れば骸骨騎士は今の爆破によってだろう、左半身がなくなっていた。

 そんな骸骨騎士は残った片目こちらを睨みつけたまま、パタリと倒れるのだった――



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