第21話『消耗戦』
ファイナルバトル。
そう意気込んでからどれだけの時間が経っただろうか。
既にドラゴンも幾体か倒し、一つ目巨人のサイクロプスだって数えきれないくらい倒した。
だというのに――終わらない。
『グガギャギャギャギャギャ』
『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうっ!』
『くふふふふふふ』
ゴブリン。
ドラゴン。
サイクロプス。
サキュバス。
セイレーン。
などなど、様々な魔物が途切れることなく襲ってきている。
「リルさんっ!! これ絶対にまずくね&おかしくね!? こんなのどう考えてもキャパオーバーだろ!!」
「言われなくても分かってるわよっ!! でも、今背中を向けて逃げたら絶対に狙い撃ちにされるわ。元からクリスタルの部屋には魔物が多いっていうのは分かってたんだし耐えないと――」
俺だけでは手が足りなくなったので、今はリルちゃんも雷の魔術を連射しまくっている。
もっとも、俺のショットガンほど連射がきく訳でも威力がある訳でもないらしく、強力そうな魔物にはあまり効いていないようだ。
よって、強力そうな魔物は基本的に俺が担当する事になった。
リルちゃんは俺のサポート役に徹するつもりなのか、その雷の魔術で雑魚を狩りながら俺に魔物を近づけないように動いてくれている。
これだけでもありがたいのだが、リルちゃんの働きはそれだけじゃない。
『『『クォォォォォォォォォォォォォッ――』』』
幾体かのドラゴンの動きが停止し、その口に光が集まっていく。
「ビャクヤ。右ぃっ!!」
「了解っ!!」
俺はリルちゃんの言う通り右方向にジャンプする。
そこに魔物がいようが関係ない。ショットガンや手榴弾を惜しみなくばら蒔いていく。
手榴弾によるダメージが俺自身にも軽く降りかかるが、この際そんなものは無視だ。
『雷神よ。その十五の雷にて愛し子を守りたまえ』
リルちゃんは懐からクリスタルに少し似た宝石のようなものを空中へと投げる。
宝石はリルちゃんが展開した魔法陣と同化し、その光の輝きが増した。
『スキュア・ラティオス』
そうして展開されるのは幾重にも雷が張り巡らされた魔術の盾。
それと同時に。
『『『ガァァァァァァァァァァァァッ――』』』
口に光を溜めていたドラゴンたち。
そいつらが俺達の居た場所へと強大な光の一撃を撃ち放った。
ドラゴンブレス。
それはドラゴン最大の攻撃であり、彼らを象徴するに相応しい一撃。
触れたら最後。A級冒険者でも深手を負うであろう一撃との事だ。
リルちゃんが指示してくれた方向にジャンプしたことで大半のドラゴンブレスが先ほどまで俺達が居た場所へと着弾し、
しかし、放たれたドラゴンブレスはそれが全てではない。
多くのドラゴンブレスを避ける事に成功した俺達。
そんな俺達の居る場所にも二発程度のドラゴンブレスが迫ってきている。
ドゥーーンッ!!!
「くっ――」
リルちゃんが展開した魔術の盾がドラゴンブレスを受け止める事に成功する。
ビリビリと振動音が伝わってくる。
次第にそれは治まり。
そうして――俺達は七度目のピンチを切り抜けた。
「ビャクヤ、私が防げるのは後三発。だから――それまでにこいつら片づけるわよっ!!」
「分かってはいるけど魔物の数が一向に減らねえのはおかしいでしょうがよぉっ!!」
ドラゴンブレスを撃ち終えたドラゴンと盾の展開を終了させたリルちゃん。
その隙を突いて俺はドラゴン達をロケットランチャーで爆殺させながら愚痴を吐く。
じり貧だ。
あまりにもじり貧。
この無限に湧く魔物達が消えるまで戦い続けるなんて、あまりにも俺達に分が悪すぎる。
リルちゃんの防御も残り三回らしいし、それを使い切ってしまえば今度こそ絶対に終わってしまう。
ならばもういっその事……。
「なぁリルさん。クリスタルさえ手に入れればそれでいいんだよな?」
「ええ、そうだけど。ビャクヤ、アンタまさか――」
俺のその言い方で俺が考えている事を察したのだろう。
構わずに俺は考え付いたことをリルちゃんへと伝える。
「そのまさかだよ。あの魔物のクリスタルには絶対に手を出させないっていう陣形。あれを強引に突破してクリスタルを奪う。もうそれしかない」
魔物達はクリスタルを守るように布陣している。
その防御があまりにも厚いので向かってくる魔物を各個撃破という形をとっていたのだが、このままでは先にこっちが音を上げてしまいそうだ。
なら――賭けに出るしかない。
「このままじゃじり貧なのはリルさんだって分かってるだろう? なら後は逃げるか進むかだ。逃げればきっと戦場は狭い通路に移る。そこでもし何発ものブレスを受けたら――」
「――アンタは防御手段ないって話だったし、私が防ぐしかない。とはいえ、あのドラゴンブレスを受けきるのはよくて三発分が限度。それ以上だと詰みね」
逃げるか進むか。
進むにしても相手は大量の魔物だ。自殺行為かもしれない。
ならば逃げるかと言われると、それも怪しい。
なにせ、逃げるには後ろのあの狭い通路を通らなければならないのだ。
あんなところでいくつものブレスを受けたら俺とリルちゃんなんて消し飛んでしまうだろう。
仮にそうならず、逃げるのが上手くいったとしても俺達の手には当然クリスタルはない。
ミッション失敗だ。
そこで俺とリルちゃんは視線を合わせる。
俺達は軽く笑みを浮かべ……言った。
「「なら、答えは一つ(ね)(だな)」」
くすりと笑う俺とリルちゃん。
彼女も俺と同じ結論に至ったらしい。
とにかく……これでようやく覚悟が決まった。
いや、無理やり決めさせられたと言うべきか。
まぁ、なんでもいい。
ともかく。
「ここから先は全力の全力だぁっ!!」
「私の魔力と結晶を全て費やしてでも、あんたらの守るソレを奪い取ってやんよっ!!」
増え続ける魔物。
そこそこに消耗している俺達。
だが、もうやるしかない。
さぁ……最終ラウンドの始まりだっ!!
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