第10話『降臨』


「ふぅ……終わったか」



 俺がレゾニアにヘッドショットを決めて。

 動きを止めた彼女にトドメをさすべく、ティナがレゾニアの身体ごとその一撃で消滅させた。


 残るはリルとタイマン勝負するべく一緒にどこかに行ったギルベルト。

 そして――まだ見ぬ帝国三騎士。エクスのみ。



「リルの助太刀に行かないと……。ティナ。まだ動けるか?」


「……ごめんなさいご主人様。ちょっともう限界……かも。でも、頑張れって言うなら……頑張る」


「いや、いい。無理するな」



 ティナはよくやってくれた。

 俺一人ではレゾニア相手に成すすべもなく敗北していただろう。


 古代魔術はどれもこれも多大な魔力を消費するらしい。

 そんなものをティナは連発していたのだ。

 疲れて動けなくなるのも無理はない。



「とはいえ、ゆっくりしてられないのも事実。リルを助けに行かなきゃな」


「分かってる。でもご主人様。リルカがどこ行ったか分かる? 私にも分からない」


「………………」


 無論、分かる訳がない。

 だってリルとギルベルト。あいつら凄いスピードでどっか行っちゃうんだもの。

 辺りを見渡しても全然見当たらないもの。



「闇雲に動くのは危険。ここはリルカを信じて待つべき」


「そうだな……」



 ティナの言う通りだ。

 仕方ない。

 彼女がギルベルトとの勝負に勝っている事を祈りながら、ここで待とう。

 


「とはいえ、ただ待ってるのもなんだしな」



 レゾニアが倒れた今も、眼下では帝国の兵士たちがクロウシェット軍と戦いを繰り広げていた。

 まずはこの帝国の兵士達を片づけるか。



「マウントポジショーン」



 よく見える。

 この高台から。

 帝国の兵士達の姿がよく見える。



「ミサイルランチャー発射準備OK。三……二……一……ゴーッ!」



 そう言ってノリノリでミサイルランチャーを帝国の兵士が固まっている場所へとぶっ放す。



 ドゥーンッ!!



「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」



 着弾と同時に野太い悲鳴が上がる。

 そうして帝国の兵士達の意識が高台に居る俺へと移り。



「お前らの大将レゾニアは倒れたぞーっ!! 退くなら今の内だぜ!」


 大声で眼下の兵士達に向けて言ってやった!


 本当なら首を捕ったどーって首を掲げながらやる場面だろうが、レゾニアの首は体ごと完全消滅したから無理。

 とはいえ、帝国の兵士達もレゾニアが俺達と戦う為に高台へと飛んだことは認識しているはず。


 だから敵の兵士達が俺の言う事を全く信じないまま無視するなんて事はないはずだ!!



「まさか……レゾニア様が?」


「馬鹿な。あの方は帝国三騎士だぞ」


「だが、レゾニア様がご存命ならばなぜ出てこない? 自身が倒れたなどと言われて黙っている方ではないだろう?」


「つまり――本当にあのレゾニア様が敗れた?」



 うんうん。いいね。

 どうやら信じてくれたようだ。

 これで帝国軍の士気はがた落ちとなるはず――



「レゾニア様バンザーーイッ!!」


「帝国に勝利あれっ!!」


「我らが帝国に栄光あれぇっ!!」



「………………なんで!?」


 俺は頭を抱えた。

 なぜか帝国軍の士気が思いっきり上がったのだ。

 届きもしないのにこっちに向かって弓矢を放つ奴すら居る始末だよ。


 何人かは隊列を組んでこの高台に登ろうと移動を開始しているしさぁっ。

 なんなんだこいつら!?



「レゾニア様の死を無駄には出来ないっ! お前らぁっ。ここが俺達の死に場所だ。派手に散ってやろうぜぇぇぇっ!!」


「ああ。最後は派手に決めてやろうっ!」


「個人の敗北などどうでもいい。だが、我ら帝国の。エクス様の軍に敗北は許されないぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」



「……Oh……No……」


 しまった。完全に計算外だ。

 俺は帝国の兵士達の事を甘く見ていた。


 指揮官が倒されれば軍隊の士気は落ちる。

 レゾニアは副指揮官みたいなのを用意していたみたいだが、それでも彼女の敗北を伝えれば軍の士気は落ち、帝国軍は一時撤退するだろうと。

 そう思っていた。



 しかし、結果はその逆。

 レゾニアの敗北を知るなり目の色を変えてこちらに向かってくる帝国軍。

 こっちに到着するまでにある程度は倒せるだろうが、さすがに数が多い。


 こと接近戦において、ハッキリ言って俺はそんなに強くない。

 ショットガンで何人かの兵士達は倒せる気がするが、十人以上を相手の接近戦で俺が勝てる可能性はかなり低い。


 ならば必然。兵士達がここにたどり着く前に全滅させるしかないのだが……出来るか?


 近くに万全のティナかリルが居れば何も恐れる必要はなかっただろうが、あいにく近くに居るティナは満身創痍まんしんそういという状態。

 相手は帝国三騎士でもなんでもないが、やられてしまう可能性は十分にありそうだ。




「ご主人様。援護して。なんとか頑張ってみる……」


「ティナ……」



 無理をしているのだろう。

 少し足が震えている。

 でも、俺はそんな彼女に頼るしかなくて。





「――――――それまで」



 そんな時。

 やけに通りの良い声が戦場に響く。



「この声は……」


「まさか……」


「エクス様?」




 その声が響いただけで。

 眼下の帝国軍はその動きを止めていた。




「この場において。これ以上の争いは認めん。退け」



 その声は俺達の居る高台よりさらに上空から響いてきていた。

 声につられて上を見る。

 すると、空からゆっくりとこちらに向かって落りてくる男が一人。


 それは金髪赤目の男。

 ただならぬ気配を纏っている軍服の男。

 おそらくこいつが――



「エクス様……」



 兵士の一人が呟く。

 やっぱり。

 こいつが帝国三騎士のボスであるエクス。



 エクス様と呼ばれたその男は兵士達の方をちらりと見て。



「――聞こえなかったのか?」



 大きな声を出している訳でもないのに響き渡る静かな声。

 それを聞いて。



「――総員撤退!!」



 さっきまでやる気満々だった帝国軍。

 それがこのエクスの命令に従い、撤退していった。

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