第40話『スナイプショット』
「……………………えっと……なにこれ?」
あんぐりと口を開けてルヴィナス盗賊団とやらの前線基地を見つめるリル。
彼女は今、俺が貸してあげたスナイパーライフルのスコープで1キロほど離れている敵地を見ている。
その横で俺が何をしているかというと――
「クリア……クリア……クリア……クリア……クリア――」
――タァンッと断続的にライフルの射撃音が辺りに響く。
その度に俺のスコープに映るルヴィナス盗賊団員達は一人、また一人と脳天をぶち抜かれ倒れていった。
「ふぅ~~。しっかし数が多いなぁ。さすがの俺も一回のマッチでこんなにキルした事なんて一度もないぞ。
もっとも、これがゲームだったらここまで簡単にいかないんだろうけどな」
俺はスナイパーライフルを構えながらぼやく。
――ここはルヴィナス盗賊団の前線基地(元トバッチリ村)、そこから1キロほど離れた高台にある茂みの中だ。
そこで俺はリルに守ってもらいながら、ただひたすらにルヴィナス盗賊団の団員と思われる奴を狙撃していた。
「こんな長距離からの攻撃……気づける訳ないじゃない。しかも音だって小さいし。これ、絶対向こうまで届いてないわよね?」
「サイレンサー付きだからな。音が聞こえてもらったら困る。もっとも、弾丸の流れてきた方向からこっちの居場所を探れてもおかしくはないんだが……未だにその気配すらないんだよなぁ……。どうしてだろ?」
既にキル数は50を超え、その後は数えていない。
最初は単独で動く盗賊団員をキルしていってを繰り返し。
それが居なくなったので後は目につく盗賊団員をキルしていこうと続けていたら、そんなキル数になっていた。
「アンタの常識がどんななのかはもうこの際聞かないけどね。普通はこんな小さな石っころみたいので死ぬだなんて思わないのよ。こんなものが飛んで来たからって、その先にアンタみたいな化け物が好き放題やってるだなんて想像できるかっての」
そう言ってリルが弄るのはスナイパーライフルに装填される銃弾だ。
ふーむ。言われてみれば確かに。
TPS知識を取り戻す前の俺が銃弾を見ても『なぁにこれ?』となるだけかもしれない。
高速で飛来してきても、まさかそれが人の命を殺めている元凶だとは思わない……か。
「ならこの世界の常識に感謝だな。あんな大人数、襲ってこられたらたまったもんじゃないし。こうして初見殺し出来てる内が華って……ねっ!」
――タァンッ。
言いながら射撃の手を休めない俺。
というか、敵の数が多くて手を休める暇などある訳がないのだが。
「でも、思ってたよりは楽が出来てるんじゃない? あいつら、なんか大多数が逃げ出したみたいだし。あ、とか言ってる内にまた数人。住居から逃げたわ」
隣でただ見てるだけのリルがスコープを覗きながらそう報告してくれる。
いや、そんなに楽ってことはないけどな?
とはいえ、敵全員を撃ち殺すよりハードルが下がったのも事実……か。
リルの言った通り、幾人かの盗賊団員はもう敵わないと思ったのか。武器も放り投げて既にあっちこっちへと逃げている。
そういう奴らは基本的に後回しでいい。
そのまま逃げるのなら無視してもいい存在だしな。
もっとも、運悪くこっちに向かって逃げている奴に関しては別だ。
そういう奴らに対しては逃げているところ悪いなと思いつつ、近づかれると非常に困るのでヘッドショットさせてもらっている。
「脱走兵が
スコープ越しに見えるのは逃げたり騒ぎまくったりしているらしきルヴィナス盗賊団の団員達の姿。
奴ら凄腕の盗賊団だと言う割には奴ら全然統制が取れていないように見える。
そもそも、指揮官の存在が未だに見えないのはどういうことだ?
さすがにもうこっちが何らかの手段で襲撃を仕掛けていると向こうは察知しているはず。
だというのに、それに対する対抗策が未だに何も打たれていないのは拍子抜けを通り越して少し不気味だ。
そうして俺は奴らの真意を暴くべく考えを巡らせるのだが。
「いや無茶言うなっての。そんな北の帝国の正規兵じゃあるまいし」
盗賊団なんてこんなもんだろうと、リルは呆れながら語る。
「あっちの身にもなってみなさいよ。訳わかんない内に目の前で仲間がポンポン倒れてくのよ? 私でもあっちの立場なら『ざっけんじゃないわよコラー』って叫びながら一目散に逃げるわ」
盗賊団なんて所詮は自分の利益しか考えてない奴らばかり。
だからこの結果は当然すぎるものだと。そうリルは考えているみたいだ。
その意見も分からないではない。
俺だって目の前で知り合い程度の仲の奴が突然倒れ、それが死んでいると分かれば『なんか知らんがヤヴァイ』と一目散に逃げるかもしれない。
だが、それは一兵卒の視点だ。
向こうの親分ないし指揮官がそんな一兵卒の視点で物事を見ている訳がない。
だからこそ向こうも何か手を打つはずなのだが……妙なことに未だその兆候すら俺は感じられていないんだよなぁ。
その点が不気味。
胸に抱いたそんな不安を俺はリルに告げるのだが。
「え? あぁ、向こうの親分か指揮官……ねぇ。居るは居るんでしょうけど、震えて家屋の中にでも隠れてるんじゃない? あんたが狙ってるのって外の奴らだけでしょ?」
なんて感じで向こうを完全に舐めてしまっている。
うーん、慢心は命取りなんだけど……リルの実力はかなりのものだからなぁ。
力も俺より強いし。サバイバル経験あるし。
ダンジョンから脱出するときもその速さには驚かされたしな。
そんな万能なリルだからこそ、相手を過小評価してしまうんだろう。
それなのになんで俺だけ過大評価? と少しだけ疑問に思ったが、それに関してはこの際置いておこう。
ともあれ……だ。
敵の指揮官が何を企んでいるにせよ、リルの言う通り家屋ないし
もう外に出ている奴は大体ヘッドショットでキルした後か逃げ出した後。ここからでは後数人くらいしか狙えない。
ならば――
「作戦第二段階と行くか」
盗賊団がこちらの存在に気付いて攻めてくるパターン。
銃撃などお構いなしにその人数を活かしてストールの街に攻め入ってくるパターン。
撤退して準備を整えて出直してくるパターン。
などなど色々と考えていたのだが、まさか狙撃が最後まで成功し続けて狙う奴が居なくなってしまうパターンになるとは。
正直、ゲームだったら絶対にこう上手くはいかなかった。
五人くらいキルしたところで向こうのスナイパーの誰かに位置を補足され、返り討ちにあっていただろう。
「ともあれ、上手くいったのなら良い事だよな」
というわけでだ。
俺はTPSのとある武器をいくつも取り出した。
いや、これを 武器と呼んでいいのか?
とにかく、俺はそれらを「はいコレ」と言ってリルへと差し出す。
そうしてリルは俺が出したソレを受け取り。
「これを適当に放ってくればいいのね?」
「適当って言っても事前に言った通り間隔開けすぎないように放ってきてくれよ?」
「分かってるわよ。それじゃ――」
「ああ。手はず通りに頼む。行きと帰りには十分気をつけてな」
「ええ。期待して待ってなさい」
そう言ってリルは茂みから飛び出し、大回りしてルヴィナス盗賊団の前線基地へと走った。
そうして残った俺は――
「さて――敵はどう出るかな?」
外に誰も居なくなってしまったルヴィナス盗賊団の前線基地。
ここから1キロ離れたその基地を、俺はスコープ越しにただ見つめるのだった――
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