第41話『予定外の始まり(ルイス・アスカルト-5)』
――ルイス・アスカルト(クソ兄貴)視点
「終わった……のか?」
外から響いていた悲鳴。それが途絶えた。
という事は……脅威は去ったと。
そう見てもいいのだろうか?
俺とアレンは目を合わせるが、しかし。
「んーー。そと、まだあぶない? いまは、みんなかくれんぼ? でもころすしせん……かんじる。たぶん……いっぱいとおい。むこう?」
たどたどしい感じで言葉を紡ぐ少女。
そうして少女はある一点を指さし、その手を降ろす。
俺はそんな少女のたどたどしい言葉を頭の中でかみ砕き、整理する。
「外は危ない。今はみんな隠れているから犠牲者が増える事はなくなっただけ。だが殺気は今も向こうから感じる……か?」
おそらく少女が言いたいのはこんな所だろう。
しかし……殺気か。
「アレン。こいつには感知能力のような物があるのか?」
先ほどアレンから聞いた少女の扱える魔術は身体強化と治癒術のみ。
それなのに少女は遠くから殺気を感じると言う。
本当にそんな能力までこの少女は秘めているというのか?
そう俺はアレンに尋ねてみたのだが。
「いや、今までこんなことはなかったんで何とも」
そう答えを
なるほど。
やはりアレン自身、この不気味な少女の
「ですが、こいつは
元々、こいつの力は得体が知れませんでしたしね。
だから俺たちですら全く感じ取れない殺気を感じるなんてトンデモも、こいつならあり得るのかもしれない。
なのでルイス様、外には出ない方が良いと思いますぜ」
少女の
その全容はアレンにも分からない。
だが、少女の特性、少女が嘘を吐くような女ではないとアレンは感じているらしい。
ならば、その忠告は聞くべきだろう。
「――ちっ、結局は潜むしかないという事か」
脅威はまだ続いている。
ならば俺が動くわけにはいかないだろう。
ここに捨て駒が居れば外に出させて周囲の状況を探らせるなどしたいのだが、生憎ここには俺とアレンと少女。後は先ほど意味不明な攻撃を受けて死亡した盗賊団員のみ。
今ここで生きている札は全て切札足りえるものだ。
ゆえに、無駄に切る事は出来ない。
「ぺち……ぺちぺち……」
そうして俺とアレンが黙っている中、少女は何を思ったのか先ほど意味不明な攻撃を受けて死亡した盗賊団員の身体にべたべたと触れ始めた。
「ん~? ずむ。ずむずむ。きず……げーいん……これ? おー、すごご」
血を流す盗賊団員の身体を弄りまわす白髪の少女。
興味深そうに死体に触れまくっている。
べたべた。べたべたと少女は死体に触れてはその手を血に染めていく。
まだ年端もいかない少女があどけない顔でその手を血に染めていく光景。
俺の目にはそれが冒涜的な光景に見えて。
だからだろう。
俺はこの少女が得体の知れない異物であると。
そんな恐怖を抱かされた。
「ごしゅじんさま。はいこれ」
そんな少女は死体から何かを取り出し、それを自身のご主人様と仰ぐアレンへと見せた。
それは……血に塗れたナニカだった。
「あぁ? こんな時になんだよ?」
少女が俺達へと見せるように指でつまんだナニカ。
それは死体に埋まっていた物であるらしく、少女が指でつまめるくらい小さいナニカだった。
「これ。すっごいの。ばびゅーん。ずびしって。とんできた……みたい? ぱーん」
そう言って体全体を使って何かを表現する少女だが、何を言いたいのか分からない。
俺とアレンは少女が見せてきたその小さいナニカを受け取り、しげしげと見つめてみるが……。
「ルイス様。これ、なんだと思います?」
「分かるわけがないだろう。魔力も何もなし。単なるガラクタにしか……見え……ない?」
俺はそう自分で言っていて何か引っかかりを覚えた。
アレンは「ですよねぇ……」と言ってその意味不明なナニカへの興味を失ったようだが、俺は改めてそのナニカを見つめてみる。
俺の知らないナニカ。見た事のないナニカ。
……本当にそうか?
確かに俺はこの物質が何なのか知らない。
だが、本当に見た事がないか?
俺がガラクタと断じた物。
それにはどこか見覚えがあって――
「ったく。何を見せつけてくるのかと思えばガラクタかよ。こんな時に遊んでんじゃねぇよクズがっ」
「あうっ」
苛ついたアレンが少女の頭を叩く。
そうしてペタンと地面に少女は倒れる。
どこかで見た光景。
ガラクタを作り出した弟を俺は同じように叩いて――
「――思い出したっ!!」
少女から受け取ったガラクタ。
血に塗れているソレだが、俺はそれに見覚えがあった。
これは……ビャクヤの奴が作り出していたガラクタだっ!
奴が作り出したガラクタ。これはその内のいくつかと非常に酷似している。
という事はこの意味不明な襲撃の裏には――
「おいアレンっ! この襲撃、ビャクヤの仕業である可能性が高いぞっ!!」
「――なんですって?」
俺がそんな結論に達するのと同時に。
アレンに叩かれた少女はムクリと顔を上げ。
「――――――かみなりさん……きた」
そう告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます