第42話『予定外の終焉(ルイス・アスカルト-6)』


「――――――かみなりさん……きた」



 少女がそう告げた。

 その直後――




 バリィッ――

 シュタタタタタタタタ――




 外から聞こえる何者かの足音。そして何かが弾けるような音が響いてきた。


 このタイミングで動く誰か。


 それが誰の手によるものなのか。そんなのは考えるまでもない。




「来たぞアレンっ!! これはビャクヤか、もしくは奴に協力する何者かだっ!! 早く迎撃の準備を――」



 ビャクヤによる意味不明な攻撃の手は止んでいた。

 おそらく、奴の一撃は屋内に居る者には及ばないのだろう。


 だからこそ、奴は俺達全員が引きこもっているこの状況を動かそうと何か手を打ってきたのだ。


 なればこそ、こちらも何かしらの手を打たねばまずい。


 そう確信し、俺はアレンを急かしたのだが。



「ですがルイス様。一体どうすると言うんですか!? 外に出た瞬間、こいつは突然死にました。まだ敵の攻撃方法も分かっていないこの状況で外に出たら――」



 盗賊団員の死体を指さしながら喚くアレン。


 ぐっ……そうだった。その問題が未だに解決していなかった。


 突然死んだ盗賊団員。


 この得体の知れない少女は俺が今持っている小さなガラクタが死亡した原因であると言っていたが……一体このガラクタでどうやって人を殺せると言うのか。まるで見当もつかない。


 ビャクヤがどういった手段でこちらを攻撃しているのか分からない以上、外はやはり危険……か。クソッ!!



「おい、得体の知れんお前っ!! お前の力でこの状況は何とかならんのか!?」


 アレンが連れている得体の知れない少女。


 俺は無理を承知でそんな事を尋ねてしまっていた。


 当然、どうにもならないだろう。


 そんな俺の苦し紛れの問いかけに少女は――



「びゅーん……ぽいぽーい……くささ~~」



 なぜか鼻を詰まんで少し涙目になっていた。


 どうやら主人と仰ぐアレンの命令しかこいつは聞かないらしい。


 それをアレンも悟ったのだろう。アレンはテントの外を指さし。



「おいてめぇっ! ご主人様からの命令だ。お前の持てる力の全てを使ってこの状況をどうにかしてこいっ!! ビャクヤの奴を……あのクソ生意気なガキを殺すんだっ!!」



 そう命じた。


 すると少女は俺の手からパッとガラクタを奪い取り。



「ん~~? ん。分かった~~」


 そう言ってテントの外へと飛び出していった――












 ――――――そうしてどれくらいの時が経っただろうか。


 気づけば外から響いていた何かが弾けるような音と、何者かの足音はもう聞こえなくなっていた。

 


「やった……のか?」


「そう……なんでしょうか?」


 あの得体の知れない少女が上手くやってくれたのだろうか?


 そんな事すら家屋内に引きこもっている俺やアレンには分からない。




 そうして引きこもっている中――――――ふと俺は異変に気付いた。 



「む……おいアレン。何か匂わないか?」


「な、なんですかルイス様。いきなり」


「ふざけている訳ではない。なんだこの異臭は?」


「一体何を言って……いや、なんですかこの異臭は。なんというか……粘っこいような。一体何なんでしょう?」


 俺たちが潜む家屋内まで漂ってきた異臭。


 これもどこかで嗅いだ匂いだったような気がするが、それが何なのかは分からない。


 とはいえ。



「いや、ただの異臭だ。気にすることははないだろう」


「――ですね。俺達はあの女が戦果を上げる事に期待していましょう」



 俺とアレンはそれをただの異臭であり、特に問題のない事態だと受け止め動かない事を選択。


 外が危ないというのが変わらない以上、やはりここで待機するしかない。


 ないのだが……クソ。やはり腹が立つ。


 あのビャクヤにこうまでいいようにされるとは……。

 


「クソッ! あの無能の出来損ないめ……。一体どんなイカサマを使っているのだ」


 思わず愚痴る俺。


 奴のイカサマに対し、手も足も出せないこの状況。


 そんな状況に置かれてしまっている現在いまが非常に腹立たしい。



「イカサマ……ルイス様。あの小僧の力は本当に……いえ、なんでもありません」



 何かを言いかけたルイス。


 しかし、途中で言うのを止めた。


 だが、こいつの言おうとしたことなど最初から分かっているのだ。



 ビャクヤがその手から生み出していたガラクタ。


 アレがどんな作用をしたのかは不明だが、俺が知覚するもなく盗賊団員は目の前で呆気なく死んだ。


 つまり……奴自身ガラクタであると断じていたアレらには元々そのような力が秘められていたのだろう。


 その力をビャクヤは使いこなせるようになったと。それだけの話。

 

 俺達は奴が何をやっているか分からないからイカサマだと喚きたてているだけ。


 そう心のどこかで理解はしていて――



(否……否。否っ!! 断じて否だっ!! あいつが俺より上なはずはないっ!! どうせこの力も連れの女のもののはず。いや、絶対にそうだっ!! でなければ俺がビャクヤなんぞに負ける訳が――)



 直接奴と対峙して敗北した時も、何か細工をしていたに違いない。


 そう俺が自身に言い聞かせていると。




 ――ドガァァァァァンッ




「「なっ!?」」


 近くから何かが爆発する音。


 それと同時に俺達が身を潜めていた家屋が燃え始める。



「クッソっ。あいつめ。しくじりやがったかっ!!」


 悪態をつくアレン。


 しかし、言っている場合ではない。


 このままこの場に居ては焼かれるだけだ。


 この状況で外に出るなど危険極まりないが、もうそんな事を言っている場合ではない。



 俺とアレンは意を決して家屋の外に出ようと身を乗り出し。




 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ




 何が起きたのかは分からない。


 耳に響いてきたのは立て続けに鳴り響く爆発音。


 そして、目に映るのは粉塵ふんじんと迫る業火であり。



「んな……がっ。アァァァァァァァァァッ――」

「な……んだとぉ!?」



 その爆発に巻き込まれたのか、俺とアレンの身体は吹き飛ばされていて。


 気づけばアレンは半身を。俺は両足を失っていた。



「クソがぁっ。誰がこんな真似を……ぶっ殺してやるっ!」

「クソっ……一体何が……」



 そんな状態でも悪態を吐く俺とアレン。


 そう、俺達はまだ生きている。


 こんな状態からでも高度な治癒魔術さえあれば回復できるはず。

 

 あの不気味な少女さえ居ればこんな傷など――


「あ……」


 激しい痛みが襲い来る中、そこで俺は思い出す。


 あの不気味な少女。


 その少女は今、ビャクヤを殺すべくここを発っている。


 つまり、この場に高度な治癒魔術を扱える者など居る訳もなく――


「おい治せぇっ!! ご主人様の危機だぞ来いよっ!! とっとと俺を治せぇっ!!」



 錯乱するアレン。


 どうやら痛みのあまり、自身が少女に何を命じたのか忘れているらしい。


 かくいう俺も冷静では居られず。



「馬鹿な。こんな……コンナトコロデェェェェッ!! 誰か……誰か俺を助けろぉぉぉぉっぉぉぉ!!!」


 迫る業火。

 足が切り離された俺はそれから逃れる事などできず、その場でもがくしかなく。


「治せっ!! 治せよぉっ!! 嫌だ嫌だイヤダアァァァァァァァッ!!! こんな……ヤメロヤメロヤメロォォォォォッ!!」



 半身を失ったアレンもその業火に包まれ、断末魔の悲鳴を上げている。



 これが。


 こんなものが俺の最期なのか?


 憎きビャクヤを殺す事も出来ず、こうして奴の顔すら見ないまま訳も分からず殺される。


 そんなもの、納得できるわけがない。


 しかし、この状況を俺は打破する事など出来ず。



「ビャクヤァァァァッ――――――」



 そう憎き弟の名を俺は叫び。

 そのまま俺の意識は炎に包まれ、次第に闇へと落ちていくのだった――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る