第39話『予定外の始まり(ルイス・アスカルト-4)』


 ――引き続きルイス・アスカルト(クソ兄貴)視点



 外から続けざまに聞こえてくる悲鳴。

 ただ事ではない。

 そう感じたのは俺と同じく家屋内に居たアレンも同様であり。



「何事だ!? 誰か来いっ!!」



 外に居るルヴィナス盗賊団員を呼びつけるアレン。


 すると、酷く動揺した様子の盗賊団員が俺たちの居る家へと入って来た。



「一体何があった?」


 外で何があったのか?


 部下である盗賊団員にその説明をするよう促すアレン。


 だが――



「そ、それがアレン様。み、みんないきなり倒れてそれで……」


「なんだ、敵襲か?」


「いえ、でも敵の姿は全く見えず。何をされたのかも分からなくて」



 一々要領を得ない盗賊団員。


 それに業を煮やしたのか、アレンは傍に立てかけていた剣を取り。


「この役立たずがっ!! 何が起きたか説明も出来ねえのか!? もういい。俺が直接見る。てめぇもさっさと出ろっ!!」


「へ、へいっ!!」



 そう言って家屋から飛び出る盗賊団員。


 直後。



「んぎゃっ!?」



「んなっ!?」

 


 突然、家屋内へと倒れこむ盗賊団員。


 こいつ自身の意志ではない。


 何かしらの力が働き、こいつは意図せず家の中へと押し戻されたのだ。



「おいっ。どうした!? おいっ……おいっ!!」



 外に出るのを中断し、倒れた盗賊団員を起こそうとするアレン。


 だが――



「「ひっ――」」



 その顔を見て俺とアレンは思わず声を上げてしまう。


 先ほどまで五体満足だったはずの盗賊団員。


 そいつの脳天には何かが撃ち込まれており、そこからは血が垂れていた。



「一体何が……くそ。おいてめぇっ!! ぼやッとすんじゃねぇよ。さっさと治しやがれっ!!」



 虚空を見つめる少女。


 俺達の切札たる少女にアレンはそう指示する。



「んぅ? ん~~」



 その命令に従い、少女は倒れた盗賊団員の傷口へと手を当てた。


 しかし――




「ん……むり」



 そう言って手を放し、再び虚空を見つめる少女。


 当然、アレンはキレる。



「あぁ!? 無理じゃねぇよこのポンコツがぁっ! 俺様がてめぇのご主人様なんだ。治せっつったら治せやゴラァッ!!」



 少女の髪を掴み上げ、強引に倒れた盗賊団員に押し付けるアレン。


「あぐ」


 苦し気にうめく少女。


 しかし、それでも少女は盗賊団員を治そうとしない。


 彼女は倒れた盗賊団員を指さし。

 


「これ……もうつかえない。しんでる。えと……さいき、ふのう?」



 静かに。たどたどしい言い方でそう説明する少女。



「な……死んでいる……だと?」



 そう口にしたのは俺だったか。もしくはアレンだったか。


 とにかく、俺達は少女が言ったことが本当かどうか確かめる為、男の脈を測る。


 そうして心臓が動いているか、息をしているか。一つ一つ確認していき。



「馬鹿な……本当に死んでやがる」






 そう――男は本当に死んでいた。


 死んでいる人間に治癒魔術は効かない。


 それはこの規格外の少女の治癒魔術も同様なのだろう。


 だからこそ、少女は無理と告げたのだ。



「クソッ、どういうことだ!? さっきまで……ほんのついさっきまでなんともなかったんだぞ!? それが一体なんで……」


 訳も分からず混乱している様子のアレン。

 無論、俺も同じだ。何が起きているのか、それが全く分からない。


 そうやって混乱している俺達。


 だというのに、少女はさらなる異常事態を伝えて来た。

 


「そとのも、いっしょ。せいたい……はんのう? どんどんへってる。いま、えっと……はんぶんくらい?」


「「………………は?」」


 今、こいつは何と言った?


 せいたいはんのう……生体反応の事か?


 それが、えっと……半分くらいだと?



 ルヴィナス盗賊団の総数は約500人。


 その全てがストールの街攻略のための前線基地……つまりはこの場所へと集まっている。 


 それが半分になっているという事は……つまり250人の生体反応が消えたと。こいつはそう言ったのか!?



「ぐぉっ」

「ぐがっ」

「ぎぃっ」


 外から断続的に聞こえる短い悲鳴。


「まさか……」



 頭の中で構築される一つの推論。


 まさかとは思う。


 あり得ない。


 否、あり得ていいはずがない。


 だが、それならば今も外で起きているこの異常事態はなんだ?


 誰もが短い悲鳴を上げ、その直後に倒れる音がする。


 不気味なほど卓越した魔術を操るその少女は言った。


 生体反応が減り、半分ほどになっているという、そんな戯言を。


 だが、もしその戯言が真実だったのだとしたら?



「まさか……これが全て死ぬ前の断末魔だとでもいうのか!?」



 俺はあり得ないと思っているはずのその推論を口に出す。


 その間も短い悲鳴は鳴りやまず。




「一体……何が起きているというのだ?」



 外の様子が気になる。


 だが、一度妄想したその不安から今は外に出るのが恐ろしくてたまらない。


 それはアレンも同じなのだろう。


 俺とアレンは家屋内に留まったまま、成すすべなく外から洩れる悲鳴を延々と聞き続けるのだった。


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