第16話『開戦の予兆』
「な、なんだよビャクヤ。今は陛下との
例によって部屋の片隅で待機していたクランク兄さん。
せっかく話しかけてあげたと言うのに、えらく冷たい対応だ。
ってそりゃそうか。
詳しくは聞いていないがクランク兄さんは王様に仕える兵士みたいな職に就いてるみたいだし。
その王様との話を放って弟が話しかけてきたら、そりゃ兵士として王様との話し合いに集中しろって言うよね。
じゃあ仕方ない。
手短に済ませるか。
「これお土産。クランク兄さんにあげるよ」
「ん? なんだこれ? カード? 何に使うんだ?」
「魔物を自由自在に操れるカードらしいよ。ティナが作ってくれた説明書もつけとくね。じゃ――」
「は? え? いや、ちょい待っ――」
そうして俺が王様との話し合いに戻ろうとした時。
「――陛下っ! 今、宜しいでしょうか!?」
「ナヴァンか。許す。入れ」
「はっ!!」
そう言って入室してきたのはどこかで見たような女の人。
赤髪のどこか性格のきつそうな上司っぽい感じの人。
あぁ、そうだ思い出した。
この人、クランク兄さんの上司だとか言ってたナヴァンさんか。
「陛下。帝国の動向を監視していた者達からの報告です。帝国はクロウシェット国に向けて進軍を開始したと」
「遂に動いたか」
ありゃりゃ。
遂に動き出しちゃったか帝国さん。
「帝国三騎士の動向に関しては
「先鋒を務めているのが三騎士のレゾニア・フロストエール。他の三騎士の出陣も確認していますが、どこに潜んでいるかは不明です」
「ほう。驚いたな。どうやら今回の帝国は本気らしい。あの三騎士が総出で出るとはな」
「特にレゾニアの士気は異常なほどで。ともすれば彼女の率いる一軍だけでクロウシェット国を落とさんとするかのような勢いです」
なんと。
レゾニアさん。今回はやる気マックスらしい。
俺達が勝てなかった相手、レゾニア。
そんな相手がリルの故郷であるクロウシェット国を攻めようとしている。
それを聞いてリルは――
「もうのんびりしてらんないわねっ! 話すべきことは話したでしょビャクヤ。さっさと行くわよっ!」
そう言って立ち上がり。
「ティナ。そこの
「出来るけど……それでも少し荒っぽくなるよ? リルカほどじゃないけど」
「壊れなければいいわ。私が許すっ!」
「………………はい?」
いや、壊れなければいいって。
そんな雑な扱いやめて欲しいんですけど?
「そう言う事なら……。それじゃご主人様。快適じゃない陸の旅になるけど我慢してね?」
むんずと。
俺の首根っこを無造作に掴むティナ。
「は? いや、ちょっ。待っ――」
俺が何か言う前に ィナとリルは詠唱を開始。
そうして周りが止める間もなく。
「それじゃあ……お邪魔しましたぁっ!」
「お邪魔しました、です」
紫電を
ティナはティナで俺の首根っこを無造作に掴み、荒々しい風を伴いながら飛び出たっ。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
そうして俺は猛スピードで移動するティナに抱えられ。
その数秒後、どんな絶叫コースターにも勝る恐怖に気を失うのだった――
★ ★ ★
――残ったクランク兄さん視点
「行って………………しまいましたね」
「そ、そう……だな」
玉座の間にて。
なんとも言えない表情で陛下と宰相様がビャクヤ達の飛び去った後を眺めていた。
かくいう俺もその内の一人で。
しかもあいつ。魔物を操る事ができるなんて代物をポンと渡していきやがった。
正直、俺にこんなん渡されても困るだけなんだけど!?
「クランク……。あなた、弟にどんな教育をしてるのよ?」
ジト目で俺を睨んでくるのはロイヤルガードの指揮官を務めるナヴァン総司令。
俺の直属の上司だ。
「いや、そんな事を言われても……。っていうかアイツに教育したの俺じゃなくてクソ親父だし」
「はぁ……。そうね。あなたに一般的な兄としての役割を期待した私が馬鹿だったわ」
「おいコラ。そりゃどういう意味だ? あぁ?」
「なによ。やる気? またボコボコになるまで調教されたいのかしら?」
「上等だ。今度という今度こそギッタギタのメッタメタにしてやる」
ゴゴゴゴゴゴゴ。
思いっきり睨み合う俺とナヴァン。
しかし、それも長くは続かず。
「――コホン。ナヴァンさん。クランク君。陛下の御前であるという事を忘れていませんか?」
そんな宰相様の言葉に俺達は「「申し訳ありません」」と膝を折る。
「いやいや。毎度流れるように喧嘩するから見てて面白いぞ。気にするな」
「陛下……」
「とは言え、今回はここまでだな」
そう言って陛下は。
少し楽しそうに口角を上げ。
「それじゃあさっそく話し合おうじゃないか。現在帝国の三騎士は国から離れ、クロウシェット国攻めに参加しているんだろう?」
「そのようですね」
「くくくっ。三騎士が不在の帝都。俺達が攻めるまたとないチャンスじゃないか。この機を逃す訳にはいかないな。帝都を落とし、そしてクロウシェット国を攻める帝国軍の背後を突ければ最高だ。そうは思わないか雪うさぎ?」
雰囲気たっぷりに陛下はそう告げた。
だが、しかし。
「すみません陛下。追加で報告すべきことがあります」
「ん? なんだ?」
余裕たっぷりに応対して見せる陛下。
そんな陛下にナヴァンは少し言いにくそうにしながら報告する。
「帝国方面から数万規模の魔物がジェイドル国へと迫ってきております。ですので、帝国を攻める余裕は我が国にはないかと……」
そんなナヴァンの報告を受け。
陛下は。
「………………は?」
と。間の抜けた声を上げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます