帝国決戦編

第1話『開戦』


「進め進め進めぇっ! 我らが帝国に敗北の二文字はなし。全てを蹂躙じゅうりんし、勝利を掴めぇっ!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」



 三騎士のレゾニア・フロストエール。

 彼女は自らが先陣に立ち、兵士達を指揮していた。


 もっとも、そこに作戦らしき物は見当たらない。

 圧倒的な武力でもって、眼前の敵を駆逐しているだけ。

 ただそれだけでクロウシェット国の軍隊はズタズタにされているみたいだった。



「くっ。なんだこいつら。仲間をやられようが自分の手足が爆散しようがお構いなしに突っ込んできやがる……。狂人どもめ……」


「怯むなっ! 魔物と対峙した時と同じように対処しろ。三人一組になって敵を押し返すんだっ!」


 クロウシェット国側の指揮官。

 その指示に従い、兵士たちは陣形を整えようとするが。



「ふっ――」


 レゾニア。

 彼女はそれを馬鹿にするかのように笑っている。

 俺にはそう見えて。


「さぁ行こうぞ戦友! この世間知らずの軟弱者なんじゃくもの共に目に物を見せてやろう!」


「応! 俺達に対して魔物と同じように対処するだと? 思い違いもはなはだしいな。なぁ戦友!」


「知能のないデクの坊と一緒にするなよ。俺達は――――――人間だぁっ!!」



 帝国側の軍隊。

 それらはレゾニアの指示を待つまでもなく、陣形を整えようとしていたクロウシェット国側の兵士の邪魔をする。


 むしろ、帝国側の兵士たちの方が一糸乱れぬ動きで連携が取れていて――



「――マズイな。一般兵士ですら強いじゃん」


「お国柄ってのもあるんでしょうけどね。ここらで流れを変えないと」


「そうだね。だから――ご主人様。やっちゃって。今、レゾニアの意識は向こうに集中してる」


「ああ」



 俺とリルとティナ。

 俺達三人は大急ぎでジェイドル国を出て、数十分前に帝国軍とクロウシェット軍がやりあっているこの場所へと到着した。


 だけど、そのまま突っ込む事はせず。

 俺の提案で三人は戦場を上から俯瞰ふかんできるような高台まで移動し、両軍の戦いを少し眺めていたのだ。


 特に俺が見ていたのはレゾニアの動向。

 レゾニアの視線は目の前のクロウシェット軍へと向いており、こちらを見るそぶりすらない。


 つまり――今が絶好の機会。


「喰らえっ!」



 そうして俺はサイレンサー付きのスナイパーライフルの引き金を引く。

 瞬間。



「ジッ――――――」


「っ――――――」



 偶然だろうか?

 レゾニアの視線。

 その目がスコープ越しに彼女を見ていた俺へと向いた気がした。


 だけど、あり得ない。

 レゾニアまでの距離は約一キロ。

 この距離で目が合うなんて。

 ましてや撃つ前から狙撃に気付かれるなんて事、あり得る訳がない。




 ――ピシュンッ




 そうして弾丸が発射される。

 一秒後には銃弾がレゾニアの脳天を貫くはず。


 そのはず……だったのに。



「――――――そこか」



 短く。

 唇の動きから、そうレゾニアが呟いたように見えた。



 ――ガキィンッ



「んなっ」


 レゾニアの足元からせりあがった氷。

 その氷が俺のスナイパーライフルの銃弾を弾いた。



 そのままレゾニアは身動きしないまま。

 ただ彼女の足元の氷はどんどんとせりあがり。

 そのまま彼女はその氷を操って、高台に居る俺達へと迫って来る。



「あれは……肉体的スペックだけじゃない。凄く戦いなれてるね。だから、殺気を読まれた。それに、レゾニアは元から警戒していたみたい。予想通り、強敵」


「なんだよそれ。殺気を読むわ銃弾を弾くわ。それだけじゃ飽き足らず飛んでくるって反則じゃんっ!!」


「今さら言っても仕方ないでしょ。迎え撃つわよ」





 TPSでは絶対にあり得ない動きをするレゾニア。

 高台を取ればTPSではかなり有利だ。


 だけど、下に居る敵がこんな感じで飛んでくる相手じゃそんなの関係ないよねドちくしょうっ!


 仕方なく、俺達は三人で迫るレゾニアを迎え撃つ事にして――



「独り占めは良くないよレゾニア。私も混ぜてくれたまえ」


「――危ないビャクヤッ」



 ガキィンッ。


 意識の外側。


 どこに潜んでいたのか。

 そこに居たのはレゾニアと同じ三騎士。その内の一人。


 ――ジルベルト・ハウロス。



「ほぅ。これを止めるか。なるほど。以前よりは成長しているようだ」


「当然よっ。アンタらとやり合えるようになる為。その為だけにこっちは怪しげな薬に手を出す羽目になったりと苦労したんだからっ。人間舐めんじゃないわよっ!」



 ジルベルトの騎士剣。

 それをリルがダガーで受け止めていた。



「その言い方……。なるほど。我々が人間でない事をどこからか知ったか」


 少し楽し気に笑うジルベルト。


 やっぱりティナの思ってた通り。

 こいつら三騎士は人間じゃないらしい。


 即ち――魔人。



「ビャクヤ、それにティナ! レゾニアの相手は任せたわよっ。こいつは私一人でぶちのめすっ!!」


「なっ。リル!?」


「り、リルカッ。そんなの無茶だよっ!!」


 いきなり三騎士の一人を自分一人で相手すると言い出すリル。

 でも、そんなの無茶でしかなくて。



「ほぅ。一騎打ちか。面白い。その勝負、受けさせてもらおう」


「望むところぉっ!!」



 そうして。

 止める間もなく、リルとギルベルトは凄まじすぎるスピードでどこかへ行ってしまった。



「リルッ!!」


「リルカァッ!!」



 リルの名を呼ぶ俺とティナ。

 助けに行きたい。

 だけど、ティナはともかく俺じゃあの速度には到底ついていけない。


 それに、例えそうでなくても。

 今の俺達にはリルを助けに行く余裕なんてなくて。



「ジルベルトめ。余計な真似を」



 スタッと。

 俺とティナの居る高台へと着地するレゾニア。

 彼女は苦々し気にリルとジルベルトが去った方向を一瞬だけ見て。



「――まぁ良い。喜べそこの娘。この間の借りを返しに来てやったぞ」


 そう言って。

 レゾニアはティナを敵意丸出しの視線で睨めつけるのだった――


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