第15話『豹変』



「よく戻ってきてくれたなと……そう言いたいとこなんだが……一ついいか? 一体何があってそうなった?」


「いや、なんといいますか。これには色々とありましてですね……」


 ロウクダンジョン完全攻略後。

 俺達はジェイドル国の王様の元へと戻ってきていた。


 そんな俺達の姿を見た王様の第一声が「何があってそうなった?」だ。

 王様がそう言いたくなるのも分かる。

 だって――



「ねぇリルカ~~」


「ちょっ。いい加減に離れなさいよ。暑苦しいわね」


「イヤー。だってリルカが言ってくれたんだよ? 私とリルカは友達。だから仲良くしなさいって。だから仲良くしてるの。いいでしょ?」


「いや、確かにそう言ったけど……。そんなにくっつく必要ないでしょ」 


「もしかして……リルカ。私の事が嫌いになった?」


「ぐっ……。やめてよ。そんな悲しそうな目で見つめてくるなんて。反則でしょ」


「う~~~~~~」


「ぐぬぬ……。べ、別に嫌いになんてなってないわよ。私はアンタの事をその……嫌ってないし」


「嫌ってないだけ? どうでもいいって……こと?」


「いや、その……。私も人の事をとやかく言えるくらい友達が多い訳じゃないしね。だから私はティナの事が。その……好きよ」


「えへへ~~。私もリルカ好き~~」


「こらっ。だから抱き着くなって言ってるでしょ! どこ触ってんのよっ!」



 王様が目の前に居ると言うのにじゃれついているリルとティナ。

 正確にはティナが無理やりリルに迫っていると言うべきなんだろうか?



「……もはや別人ですね。彼女……ティナさんと言いましたか。ロウクダンジョンで何があったのですか?」



 ロウクダンジョンの最深層。

 目的地であったこの世界らしからぬ機械が詰まった部屋。


 その場所に到達した俺とリルはティナの抱えていた過去を聞かされた。


 リルはそれを全て聞いた上で、ティナの事を友達認定してその心を解して。


 そうして赤子のように泣きまくったティナなのだが。


 色々と吹っ切れたせいなのか知らないけど……真面目な話が終わるなりこうなってしまっていた。



 そこにはもはや以前の興味のある事に全力投球の不思議ちゃんの面影なんて微塵みじんもなくて。

 ただただリルという女友達が大好きというオーラを全力で撒き散らしている女の子の姿しかなかった。



 どうでもいいけど、これなんか百合っぽいな?



「ロウクダンジョンで何が起きてこうなったかと言われると……。ちょっと答えられないですね」




 ティナがこうなった理由。


 それを詳しく説明するには、彼女がそもそもちゃんとした人間じゃない事とか。

 そういったことを説明しなきゃならない。


 さすがに勝手にそれを俺の口から語るのはダメだろう。

 だから答えられない。



「とはいえ、何も話さないって訳じゃなくてですね」


「ほう? と言うと?」


「王様達が見せてくれた映像の女の子があの後どうなったのかとか。あの不思議魔術についてとか。あの技術が詰まった部屋についてとか。その辺りについて話そうと思います。その辺りについてが特に気になるでしょう?」


 その辺りの事が気になるから王様達は俺達を呼んでロウクダンジョンの映像を見せたんだからな。

 その後のロウクダンジョン内の顛末てんまつも含めて、気にならない訳がない。


「その辺りの分かってる事について。俺達にとって不都合じゃない部分のみ情報を渡しましょう。なので、ティナがこうなった理由については追及しないで貰えませんか?」



 ティナや黒髪の少女が使っていた古代魔術について。

 それとロウクダンジョンの最下層に遭った施設の詳細について。


 その内容を王様達に明かすのは問題ない。

 というか、王様達にも知っといてもらった方が良い気がするしな。



「――いいだろう。気にはなるが、詮索はしない事にする」


「宜しいのですか、陛下?」


「構わねえよ。それより……俺達は色々と知るべきことがあるみたいだ。そうなんだろうビャク坊?」



 さすがは王様。

 話が早くて助かる。



「それでは――」


 そうして俺はティナについては隠したまま、知っている事のほとんどを話した。


 ダンジョンは元々、古代人が隠れ潜みながら研究をするために作られた施設だった事。

 古代には魔人という古代人にとっての天敵が居た事。

 魔物というのは古代人が魔人に対抗すべく生み出した無限に湧く守護者的存在だったという事。

 ロウクダンジョンの施設で行われていた人間強化の為の研究。その成果について。

 あの映像の少女が使っていたのは古代の魔人や特定の人間のみが使用できる古代魔術とでもいうべき魔術だという事。



 などなど。

 それらについて。俺はほんの少しだけ嘘も交えて話した。


 嘘を吐いた部分はティナの正体に繋がりそうな部分だ。


 ダンジョンを守っていたあの黒髪の少女については少しぼかして説明したり。

 王様や宰相様には、あの黒髪の少女の正体はよく分からないままだったと伝えたり。

 話が全く通じず、戦いの後も話を聞く間もなく死んでしまったと報告したり。

 古代魔術は数少ない特定の人間でも使えると言ったり。


 そんな嘘を交えて俺は今回知ったことを王様に伝えた。



 そして――



「帝国三騎士。あいつら、もしかしたら今話した魔人かもしれませんよ?」



 話の締めに。

 俺は現在、王様達が頭を悩ませているだろう存在は魔人かもしれないと告げた。


 帝国三騎士が魔人かもしれない。

 その根拠は……全てを聞いた王様や宰相様なら分かるだろう。


「基本的に魔人にしか使えない古代魔術。それを帝国三騎士のレゾニアは使っていたから……か」


「確かに帝国三騎士の素性についてはその一切が謎に包まれています。まるで無から現れたような三人。それがの者達です。なので、彼らが訳分からずの魔人である可能性は否定できませんね……」


「――だな。非現実的な話だが、だからと言って馬鹿にしていい話じゃない。魔人様が現れたってだけの話なら問題なかったが、それが帝国を統べる三騎士となると……こりゃ、帝国と戦争はじめるクロウシェット国だけの問題じゃなくなるぞ」


「なにせ魔人の目的は人類を完全に駆逐して地上を制覇する事だそうですからね。他の国のトップが魔人という話なら一笑にふしますが……」


「よりによって帝国だからな……。他所の国に難癖つけては戦争して、大量の死者を生み出して国力を増していく帝国。アレの最終目的が人類の完全駆逐だって言われると……納得してしまう俺がいる」


「ですね。根拠などない話と一蹴いっしゅうしたいところですが、こんな物を見せられては……ね」


 そう言って宰相は俺が渡したお土産をため息交じりに見つめる。


 それは俺達がロウクダンジョンから持ち帰って来た古代の資料と研究成果物の一部だ。


 そこには魔人の生態がどうとか。魔人の扱う魔術についてなども記載されている。

 

 後はティナがリルに飲ませた強制的に魔術知識を脳に焼き付ける薬とその用法とか。


 そんな俺達にとって不要な物を俺は王様と宰相様に押し付けたのだ。

 思い込みかもしれないけど、王様や宰相様なら悪用とかしないでしょ、たぶん。



「こんな物を数日で用意できるわけがありませんからね。そもそも、現代の技術でコレと同じ物を作れるか疑わしいくらいですよ」


「いや、無理だろ。俺でもこんな真っ白い紙は見た事ないぞ」


 古代の技術に恐れおののいている様子の王様と宰相様。

 ともあれ、そのおかげで俺の言う事に耳を傾けてくれている。


 そうして二人してコソコソと話し出す王様と宰相様。

 そして――



「ねぇリルカ。リルカはご主人様の事、好きなの?」


「はぁ!? な、なにをいきなり!?」


「だってリルカ。ときどきご主人様の方を見てポーっとしてるし。それにリルカは女の人でご主人様は男の人でしょ? だから交尾したいのかなって」


「ここここここここコウビ!? ちょっ、ティナ。アンタ何を言って――」


「違うの? マスターは自分で好みの女の人を作って交尾してたけど……」


「なにソイツキモっ!?」



 ――と。

 なんだか闇の深そうな会話をしていた。

 正直、絶対に混じりたくない。


 なので。



「クランク兄さんクランク兄さん」


俺はクランク兄さんと話す事にした。

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