第4話『会議』




「な、なぁリル。本当に俺もここに来てよかったのか? それにティナまで連れてきて……」



「いいのよ。アンタには手っ取り早くこの国の現状について知ってほしいしね」



 俺とティナはリルに連れられて王城にある会議室に来ていた。

 既に幾人かこの国の重鎮っぽい人が居て、場違いにも程がある俺やティナをジロジロと見てくる。


 正直、落ち付かない。


「もっとも、ティナに関しては私の部下の誰かに任せるなりしても良かったんだけどね。ただ……あの子をアンタ以外の誰かに押し付けたり放置したりするのもそれはそれで怖いから。だからこうして来てもらった訳」


「あ、うん。それはすごい賢明な判断」



 ティナに関してはまだ何をしでかすか分からない所があるからな。

 あまり目を離したくないというのは俺も同感だ。



 そうしてしばらくして。

 会議の場にぞろぞろと偉そうな人達が入室。

 そして王様らしき人も入室してきて。



「――では、これより会議を始めます」



 王様のお付きの秘書さんの一声。

 それを始まりとして、会議は始まった。



「さしあたって問題となっているのはやはり我が国を執拗しつように狙う魔物達です。これについて皆さんは――」


「陛下、恐れながら申し上げます」


 秘書さんの言葉を遮り、赤髪の女性が声を上げた。

 どこかイレイナさんにも似た面影を持つ女性。

 おそらくイレイナさんのお姉さんがなにかだろう。



「待てキャロルカ。今回はリルも居る。彼女から話を聞いてからでも良いだろう?」


「いいえ。彼女の話を聞くまでもありません。陛下。今すぐにでもイレイナを……聖女を帝国へと引き渡すべきです。無駄に時間を浪費し、もし彼らが考えを改めたらなんとするのです」



「むぅ……」


 会議の始まりと同時に聖女ことイレイナさんを帝国に引き渡すべきだとか言う女性。



「な、なぁリル。あれは――」


「あれは第一王女。キャロルカ・クロウシェット様よ」



 あぁ、やっぱり王女様か。

 第三王女のイレイナさんと顔立ちが少し似ているからそうじゃないかとは思っていた。

 それで……だ。


「なぁリルさんや。あの王女様、イレイナさんを帝国に引き渡さないとマズイみたいな事を言ってるんだけど……どういうことだ? 確かイレイナさんってこの国の結界を維持してる人だろ? それを引き渡すなんてそれこそマズイと思うんだが……」


「……そうね。簡単に説明しておくわ」



 小声でそう言うリル。

 


「ねぇビャクヤ。この国が魔物の脅威に脅かされているって話はもう理解してるわよね?」



「あ、ああ。常にモンスターパレードが発生してるような状態なんだろ? それをイレイナさん。つまりは聖女の結界でなんとか緩和してる状態っていう」


「その通り。そしてイレイナの結界も魔力の問題があって永遠にはたないって事は以前から分かってた。そうして私たちが困っていた時……帝国から一つの提案があったのよ」


「提案?」


「イレイナ。聖女の身柄を引き渡せばモンスターパレードの問題は解決してやるって提案よ。帝国はクロウシェット国はおろか、ジェイドル国以上の軍事力を持っている。その力を借りられれば我が国の魔物問題も全て解決するはず……というのがキャロルカ様の考えよ」



「ほへー。なるほどね」



 つまりさっきあの第一王女さんが言っていたのは。


『帝国が助けてくれると言ってくれている今のうちに要求に従って聖女を向こうにポイして助けてもらおうぜ』


 ――と。こんな感じか。



「私としても大事な妹。イレイナと引き離されるのは辛いですわ。しかし、事は緊急を要するのです。陛下もお気づきでしょうが、最近は明らかにイレイナの結界に綻びが目立ちます。これがさらに悪化すれば我が国は魔物によって喰らい尽くされてしまうでしょう」



「それは――」



「陛下も一人の親として子を他国に渡すのはお辛いでしょう。しかし、陛下はこの国の王です。王ならば娘の事よりも自国の民の事を優先して考えてくださいまし」




 王様を相手にガンガンと自分の主張をぶつけている第一王女。

 王様もあまり言い返せていないし、周りもそれを止める気配はない。


 それだけ第一王女の主張は真っ当な物であるという事だろう。

 だが。



「陛下。私も発言よろしいですか?」



 そこにリルが割って入った。

 彼女は王から発言の許可を得て、話を始める。



「――こほん。キャロルカ様のお話。とっても興味深いものでしたね。でも……そんな前提条件はもう覆ったんですっ!!」



 バァンっと机を叩くリル。

 第一王女が「なんですって」と眉をひそめるなか、そのまま彼女は続ける。



「確かに少し前からイレイナ様の結界は不安定になりがちでした。でも、それも今日までの話。私はジェイドル国に潜り、解決策を見つけて来たんですっ!」



 そう言ってリルはイレイナさんからクリスタルを受け取り、それを会議の場に集まった全員に見せびらかす。



「む……リルよ。それはもしやクリスタル……か?」



 王様の呟きにリルは明るい声で「はいっ!」と答え。



「とあるダンジョンの最深層に設置されていたクリスタル。これには膨大ぼうだいな魔力が秘められています。これさえあれば聖女様の魔力も――」



 希望に満ちたリルの声。

 だが。



「くく。アハハハハハハハハハハハッ」


 

 それをかき消すように第一王女の笑い声が会議の場に響いた。



「解決策を探してくると言ってインペリアルガードをまとめるあなたがどこへ行ったのかと思えば……。ふふっ、なんとくだらない。陛下。小娘の言う事に時間を割く必要などございません」


「なっ!? どういう事よ!?」



 多くの人の前だというのにリルの素が少し出ていた。

 しかし、誰もそれを疑問に思った様子もないまま、第一王女は口を開く。



「そのままの意味です。確かに、クリスタルの入手に成功したというのには驚きました。さすがはインペリアルガードをまとめるトアステン家の家長。その実力には敬意を表しましょう」



 軽く頭を下げる第一王女。

 そのまま彼女は「しかし」と言葉を繋げ。



「クリスタルはあくまで魔力を大量に貯蔵し、自由に引き出すことができるというだけのもの。それを用いれば確かに聖女の結界も今しばらくは保つでしょう。ですが……それはただ時間を稼いでいるだけ。根本的な解決には成り得ません」



「それは……そうだけど……」



「なればこそ。やはりここは帝国の助けを請うべきではないでしょうか? たった一人の人間を差し出すだけで我が国の国難は去る。その方法を選ばないなど為政者としてあまりにも愚かだと。私は思いますわ」



 そう言って勝ち誇る第一王女。

 反対にリルは顔をうつむかせ。



「キャロルカ様の考えは理解しました」




 静かに、そう告げるリル。

 しかし、すぐに顔を上げて。



「ですが、その考えはあまりにも危険ではないでしょうか?」



 堂々と第一王女を相手にそう言い切った。


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