第5話『会議-2』
「危険……?」
「ええ、危険です。だって、キャロルカ様の考えはあまりにも帝国の武力に頼り切った案じゃないですかっ!」
「それは……認めましょう。ですが、それに何の問題が?」
「問題大ありですよっ! もし帝国がイレイナ様を手に入れた後に「やっぱ助けるのやーめた」って言ってきたらどうするんですか!? 結界を張れるイレイナ様が居なくなっちゃって、援軍も期待できないとなったら私たちの国は破滅待ったなしですよ!!」
「国同士の約定を簡単に違えるほど帝国も愚かではないでしょう。そんな事をすれば周辺諸国から約定の一つも守れぬ国という評価をされるでしょうしね」
「帝国がもしそんな事を気にしていない感じだったらどうするんですか!?」
「そんな事はあり得ません」
「どうしてそう言い切れるんですか!?」
「リルカ殿。ここは会議の場ですよ? そう感情的にならないでください。冷静に話し合いましょう」
「わ、私はいつだって冷静ですっ! だってこのままじゃイレイナ様が……この国がぁ……」
そうして静かに泣き始めるリル。
「しーー。ダメ、ですよ?」
話の中心となっている聖女イレイナさん。
彼女は俺の肩を掴みながら「シーーッ」と人差し指を口元に当てて『大人しく静かにしててください』と伝えてきた。
だけど、こんなの見せられて俺も黙って見ていられる訳もなく。
「離してくれよイレイナさん。あそこまで色々とキツく言われて泣いてるんだぞ? かわいそうじゃんか」
小声でイレイナさんにそう言って、そのまま俺は再度リルを庇うべく前を向く。
しかし、そんな耳元にイレイナさんは口を寄せ。
「リルの事ならご心配なさらずに。むしろこの空気を邪魔しちゃダメです。だって、あれは全部彼女の計算通りなんですから」
誰にも漏れる事のないような声量で、そんな事を俺に伝えて来た。
……え? 計算通り?
「ビャクヤさんはリルの素を知ってるでしょう? 彼女が泣くような子に見えますか? リルならこんな時、泣くんじゃなくて――」
「――相手を泣かせるまで論破しまくるか。もしくは最後まで喧嘩腰で居るだろうな」
よく考えたらあのリルが口論で不利になったくらいで泣くわけがない。
つまり今こうやって彼女が泣いているのは――
「今のリルは愛国心が高く、多くの人から愛される一人の少女。そんな仮面を被っています。その仮面を被る事で、同情票を得ようとしてるんです」
「え、いや、同情票って……。さすがに会議の場に立つようなお偉いさん方を相手にそんなの期待するのは無理だろ」
「そうでもないらしいですよ? リルが言うには『人間なんて偉かろうが貧しかろうが自分の御しやすそうな奴を好ましく思う傾向にあるのよ。だからこそ、私は公の場で泣くし可愛いドジもするの』との事で」
「性格わっる!?」
え? なに? リルってばそんなあざとい真似する女の子だったの?
そんな事をしそうな子には……見えるな。
嬉々として泣く真似したりわざとこけたりとあざとい事をして票を稼いでそうな。
そんな悪女っぽいイメージがある。
さて。
その肝心のリルだが。
彼女の同情票を得ようという作戦は――
「お待ちくださいキャロルカ様。リルカ殿の話も一理あると思われます」
「然り。確かに帝国は大国であり、国同士の約定を破る事など普通はあり得ない。だが、最近の帝国は違う」
「ですな。他国の目など気にしていないかのように軍備の拡張を続けてばかり。噂では帝国では魔物を使役する術が発明されたとか?」
「ほぅ、それは真ですか?」
「いえ、真実かどうかはまだ。そもそも、帝国では似たような黒い噂が後を絶えませんからな」
こいつらチョロインか?
そう思ってしまうくらいにはリルは自身の支持者を得ていた。
「え。それじゃあもしかしてクロウシェット国のモンスターパレードが終わらない原因は帝国の陰謀……」
そこに追撃とばかりに、リルが帝国が元凶ではないかと言い出す。
その発言に第一王女は分かりやすく目を細くして。
「リルカ殿。それはあまりにもな発言ですよ? そもそも、そんな根拠のない
強くリルを攻める王女。
「でも……」
「そもそも、帝国に頼らないのならばどうやってこの国難を乗り切ると言うのです? あなたは帝国が怪しいという
そんな王女の声に。
「そうだっ! 聖女を差し出すべきだっ!」
「帝国は確かに好かんがこのままではいつか我らは魔物に食い殺されてしまうっ! 早急に助けを求めるべきだっ!」
「国王陛下っ! 民の事を考えるのならば早急に帝国の要求を受け入れるべきかとっ!!」
彼女の賛同者と思わしき人たちが立ち上がり、聖女を帝国に渡すべきだと王様に訴える。
そのまま会議は混迷化。
隣に居たイレイナさんが言うには、ここまで混迷化した会議となるのは最近では珍しい事らしい。
なんでも最近は聖女を帝国に渡して取引に応じる『帝国支持派』が優勢だったのだとか。
だが、今回は違う。
帝国との取引には応じず、聖女の結界をクリスタルによって強化し、その間に異常発生しているモンスターパレードの原因を探る。
そんなリルの考えを支持する層が『帝国支持派』と同じくらい居た。
「最近まで欠席していたリルの存在。それと、私の結界がクリスタルによって強化されることを計算に入れた結果、まだ性急に動くべき時ではないと。そう感じ取った人たちが居るからこそ。この結果なのでしょうね」
「なるほどなー」
「すぅ……すぅ……すぅ……」
こてり。
俺の隣に座っていたティナが俺の肩に頭を乗せてきていた
俺が会議の間は大人しくしていろよと命令していたので静かだったティナ。
そんな彼女だが、いつの間にやら退屈過ぎて眠ってしまっていたらしい。
そうしてティナが眠っている間も、会議の場に立つ者達の熱は増していくばかり。
この混迷化した会議がどう決着するか。
その時だった。
「皆の者っ!! 静かにせよっ!」
もはや会議ではなく言い合いと化していた感のある会議の場。
その雰囲気を王様がたった一声で静かにさせた。
そのまま王様の視線はリルとイレイナさんに向き。
「リルカよ。クリスタルを使用すれば結界はこれまでと同じように張れるのだな?」
「――はい。その通りです。むしろ、これまで以上に効力も増すかと思われます」
「ふむ……イレイナ」
「リルカ殿の言う通りですお父様。ただ、クリスタルを使用する準備がまだ整っていないので今すぐにその効力のほどを見せることはできませんが……」
「ふぅむ……」
二人の答えを聞いて、再び考え出す王様。
そうして数秒後、王様は「よし」と頷き。
「ならばその効力のほどを見届けてから答えを出すという事で良いだろう」
王様が選んだ答え。
それは問題の先送りだった。
「もしクリスタルを使用してもイレイナの結界に綻びが目立つようであればキャロルカの提案通り、我が国は帝国の手を取ることにしよう」
第一王女に視線を飛ばしながらそう告げる王様。
そのまま王様は視線をリルの方へと移動させ。
「逆にイレイナの結界に問題が無いようであれば……リルカよ」
「はいっ。なんなりと」
「我が国が結界で守られている間に魔物の異常発生している原因を探れ。王室の守護というインペリアルガードの役目は通常の騎士団に委託して良い」
「
そんな王様の決定をもって。
その日の会議は終了したのだった――
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