第6話『とある第一王女の暗躍』


 ――第一王女キャロルカ視点



「ふんっ。忌々いまいましいトアステン家の小娘ふぜいが。お父様もなにを悠長ゆうちょうな事を言っているのか。とっとと聖女を帝国に引き渡し、私に王位を譲っていればいいものを……ねぇソフィア」



「……そうですね。お姉さまの仰る通りだと思います」




 リルカ・トアステン。

 彼女は部下に仕事を放り投げ、この国を救うための極秘任務だとか言ってしばらくこの国から離れていた。


 そんな彼女が戻って来て、クリスタルを入手してきた。

 たったそれだけで、虫の息だったはずの現状維持派が息を吹き返してしまった。


 最近ではお父様も私たち帝国支持派の勢いを抑えられなくなっており、後一歩であの忌々いまいましいイレイナを国から追放出来る所までいっていたのに。


 それなのに……。



「あのクリスタルを手に入れた事によってイレイナの結界が強化されてしまえばいよいよお父様と現状維持派を退しりぞける事が出来なくなるわ。それに、そうなってしまえばモンスターパレードの原因究明にインペリアルガードが動いてしまう。それだけはなんとしてもさけなくては……」



「うん……わかってる。お姉さまは悪くない。お姉さま……格好いいもの」



「あぁ、ソフィアッ!」



 私はたまらずぎゅっとソフィアの事を抱きしめた。

 本当に。なんて可愛い妹だろう。


 同じ妹だというのに、あの憎たらしいイレイナとは大違いだ。



「大丈夫。大丈夫だよお姉さま。お姉さまの格好良さ。きっとみんな、思い出す」


「ええ、そうね。その通りよ。イレイナ……ちょっとスキルに恵まれただけのあの子が私の人気を全てかっさらっていった。聖女だなんだと敬られて。果てには次の王はイレイナにという声も上がる始末……。愚かな国民どもめ。本当に度し難いわ」



 クロウシェット国の第一王女としてこの世に生を受けた私。


 スキル:雨の恵みを得た私はそれはもう国民たちから愛された。


 作物の育成や水資源問題を完全解決する私のスキル。

 これによって、私は才能豊かな素晴らしい王女だと。

 そう言われていた。


 しかし、それもあのイレイナが封魔結界などというスキルを得るまでの話。

 結界内の悪しき物を弱めるという役割もあるイレイナの結界。


 そんな奇跡のようなスキルの発現に、お父様も国民もとても喜んでいた。

 そうして……私は全てをイレイナに持って行かれたのだ。




「あの子さえ……居なければ……」



 そう言って私は懐に隠し持っていたものを取り出す


 ――旧文明兵器アーティファクト


 この世界でごく稀に見つかる古代の超兵器。

 その一つがこの小さな立方体の箱の形をしたものだ。

 


「そうですねお姉さま。でも、イレイナを殺しちゃうのはダメ……ですよ?」


「分かってるわソフィア。イレイナは生きたまま帝国に引き渡す。このアーティファクトの存在を知らせない為にも、捜査の手が及ぶその前にイレイナを帝国に売り渡さなければね」


「魔物を誘導できるアーティファクト……。それでモンスターパレードを起こしたのがお姉さまだと知られたら……。お姉さま。私、怖い。お姉さまに危ない目に遭ってほしく……ない」


「大丈夫、大丈夫よソフィア。もう手は打ったから」




 そう。既に手は打った。

 イレイナの持つクリスタル。

 あれがあるからこそ、イレイナの結界は強化されてしまうのだ。


 なら、そのクリスタルを破壊してしまえばいい。

 そうすればインペリアルガードがモンスターパレードについて調べる余裕はなくなり、クロウシェット国は聖女も帝国に売り飛ばすしかなくなる。


 このアーティファクトの処分についてはその後で考えればいい。


「あんなもの……壊れてしまえばいいんだわ。ふ、ふふ、ふふふふふふふふ」



 既にイレイナを守護するインペリアルガードは裏から手を回して彼女の元から離れるようにしてある。


 後は私が雇った刺客がイレイナの持つクリスタルを破壊したという報告を待つのみ。

 

 私は愛しいソフィアの頭を優しく撫でながら、楽しみにその時を待った――


 

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