第3話『クロウシェット国の現状』
「そろそろ教えてくれよ、リル。俺にこの国で協力して欲しい事ってなんだ?」
第三王女でもあり聖女でもあるイレイナ・クロウシェットさん。
彼女に俺とリルとの間にあった事を包み隠さず話した後。
俺は顔を少し赤くして拗ねてる感じのリルにそう尋ねた。
なお、そのあいだ第三王女様はと言うと。
「ふふっ。リルったら国外では猫を被っていなかったんですね~」
「むぐぐっ」
なんかリルの周りをゆっくりぐるぐると回って虐めていた。
そのせいでリルは顔を赤くして、でも何も言えないでいる。
「それにしてもあのリルがビャクヤさんをからかってばかりだったなんて……。ずいぶん楽しんだみたいですね~?」
「いや、それは、その――」
「大体、リルだって経験なんてないはずじゃないですか。それなのにさも経験があるみたいにビャクヤさんをからかっていただなんて。もしビャクヤさんがその気だったらどうするつもりだったんですか?」
「いや、だからそれは――」
「あ、もしかしてそれって。リルなりにビャクヤさんにアプローチしていたつもりだったんですか?」
「んなっ!?」
「なんですか、もう。リルったら可愛い所があるんですから」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 聞こえない聞こえない聞こえなーーーーーーーい!! あ、そうだビャクヤにティナ! アンタ達にもこの国の現状について教えておくわねっ!!」
都合の悪い話を強引に断ち切り、この国の現状とやらについて教えてくれるらしいリル。
うーん。
「俺としてはリルが王女様に弄られている姿をもっと見ていたいんだけど?」
「分かった。歯ぁ食いしばりなさいビャクヤ」
「俺に対しては暴力的すぎない!?」
ぐぐっと拳を握りしめるリル。
その圧力に負け、俺は大人しく彼女の話を聞く事にした。
「まず……このクロウシェット国は魔物の襲来にずーっと悩まされてるわ。アンタ達のジェイドル国や帝国なんかよりよっぽどね」
「そ、そうなのか?」
そう言われてもピンと来ない。
だってこの国で俺は魔物を一匹たりとも見てないもの。
あ、でも砦に居たこの国の兵士達がなんか魔物がどうこうとか言ってたっけ。
「この国に来たばかりのアンタには分からない事でしょうね。ところでビャクヤ。アンタ、モンスターパレードって知ってる?」
「モンスターパレード? いや、そりゃ知ってるけど」
モンスターパレード。
それは色んなダンジョンから溢れ出た魔物達が行き場をなくし、大量に近くの街や村に襲撃をかけてくるという現象だ。
これが起きれば大抵の場合、多くの被害が出る。
だからこそ、冒険者達はモンスターパレードが発生しないように魔物をちまちまと狩るのだ。
「もしかして……この国でモンスターパレードが起きる兆候でも出てるとか?」
話の流れからそう推測してみる。
しかし。
「違うわ」
違うと一蹴するリル。
そのまま、彼女は続けて。
「この国ではね。そのモンスターパレードが常に発生してる状態なのよ」
そんなあり得ない事を告げた。
「……へ?」
モンスターパレードが常に発生している?
つまり、大量の魔物がこのクロウシェット国の街や村を常に襲撃してる状態……って事か?
「いやいやいや。それはさすがにあり得ないだろ」
モンスターパレードが常に発生してる。
それはつまり大量の魔物が常にこの国に襲撃をかけてきている状態という事だ。
もしそれが本当ならこの国は普通に滅びてると思う。
「そうね。普通はあり得ない」
そこはきちんと肯定するリル。
しかし、リルは「だけど」と続け。
「実際にこの国はモンスターパレードの脅威に何年も
頑としてモンスターパレードが常に起きていると言うリル。
冗談を言っている様子じゃない。
だからこそ、疑問点がいくつも浮かぶ。
「うーん。仮にそれが真実だとして……。それじゃあ単刀直入に聞くけど、そんな状態なのになんでこの国はまだ滅びてないんだ?」
色々と疑問がある中、一番気になる事を俺はリルに聞いてみた。
するとリルは王女様を指さし。
「この子が国全体に結界を張ってるからよ。強力な魔物を寄せ付けず、結界内の魔物も弱体化させるような結界をね」
「結界?」
そう言えば王女様も言ってたな。
この国の結界を維持する聖女をやらせてもらってるって。
その結界のおかげでこの国はモンスターパレードで魔物が押し寄せてきていてもやっていけてるって事か。
え、じゃあ……。
「なら別に問題ないのでは? 常に結界で守られてるんならどこの国よりも安全そうだけど……」
王女であり聖女でもあるイレイナ・クロウシェット。
その結界に守られた国。クロウシェット国。
それだけ聞くと問題なんてなさそうだし、なんなら世界で一番安全な国な気がするんだが。
「それがそうもいかないんです」
そこでイレイナ・クロウシェットさんが横から話に入ってきた。
「私のスキル:封魔結界は一定範囲内に結界を張って範囲内の魔物の活動を弱めたり行く手を阻んだりできます」
国を覆う結界って第三王女様個人のスキルだったのか。
個人が持つにしては凄まじすぎるスキルだ。
「しかし、このスキルも万能ではありません。その範囲を広くすればするほどスキルの効力は落ちるんです。それに加え、このスキルは多大な魔力を消費するので常に維持する事も難しく……」
なーるほど。それは確かに問題だ。
要はこの国、結界で守られてはいるけど、その結界の効力や効果がなくなってしまうタイミングがあるんだな。
そして、そのタイミングに乗じて。
結界で弱っていた、もしくは侵入を阻まれていた魔物達がこの国に押し寄せて猛威を振るって……となる訳だ。
「それに……魔力が不足しているからでしょうね。最近は結界の効力が消えてしまう事が多くなってしまっているんです」
「うわお」
それはマズイ。
まさに国の危機という奴だ。
つまりはイレイナ・クロウシェットさんの結界の効力が日に日に弱まってしまっているという事で。
その効力が完全に切れた時、この国は真にモンスターパレードの脅威を正面から受け止めなきゃいけなくなる。
そうすれば……国土の少ないクロウシェット国の滅びは必至。
「だからこその……ソレよっ!!」
ビシィっとリルはさっきイレイナ・クロウシェットさんに渡したクリスタルを指さす。
「そのクリスタルは多大な魔力を秘めてるものだからね。それさえあればきっとイレイナの結界は安定したものになるわっ!」
へぇ。
あのクリスタルってそういうやつだったのか。
「そっか。だからリルはあそこまで必死にクリスタルを手に入れようとしてたのか」
「その通り! だってイレイナを帝国なんかに引き渡したくないからね!」
ん、帝国?
なんでそこでイレイナさんを帝国に渡す云々の話が出てくるんだ?
それについて俺がリルに尋ねようとしたとき。
「――リルカ様。イレイナ様」
聖堂に王城を守る兵士さんが現れ。
「至急、会議室まで来て頂けますか?」
そんな事を言ってきたのだった。
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