第26話『意外な一面?』


 ストールダンジョンの完全攻略を終えた俺とリルちゃん。

 リルちゃんはよほどクリスタルを手に入れられたことが嬉しいのか、さっきからクリスタルを見てニヤニヤとしている。


 そんなリルちゃんを見ながら俺はというと。



「――死にたい……」



 死にたくなっていた。



「まったく……いい加減に切り替えなさいよビャクヤ。確かに危険な目に遭わせて悪かったけどね。いつまでもウジウジウジウジされてるとこっちまで気が滅入ってくるでしょ?」


 リルちゃんが俺のそんな態度を見かねて文句を言ってくる。

 しかし。


「その割にはクリスタル手に入れてご満悦って感じにしか見えないんですが?」



 気が滅入るどころかニヤニヤとしっぱなしのリルちゃん。

 そんな彼女を横目で見ながら俺は続ける。

 


「後、ついでに言わせてもらうと俺が死にたいと思ってるのは何も危険な目に遭ったからじゃないぞ?」


 そう言うとリルちゃんは怪訝そうな表情を見せ。


「はぁ? じゃあ一体どうしてさっきから死にたいだなんてネガティブ発言してんのよ? アンタのおかげでクリスタルの入手は出来たから依頼達成。これでアンタは私から一生遊んで暮らせる程度のお金を得る。どっちにとっても良い事ずくめじゃない。何か問題でもあるの?」



 などと、リルちゃんが当然の疑問を投げかけてくる。

 まぁ、確かにその通りだ。

 リルちゃんは目的のクリスタルを手に入れ、俺も依頼達成できたので報酬を得る。




 これで俺もお腹がすいたとひもじい思いをすることはなくなったし。

 ダンジョンの攻略に関しても、俺はそこそこリルちゃんの役に立てたと思うし、初めてのダンジョン戦だった事もあり楽しめた。


 だが。


「確かに途中までは何の問題もなかったよ。でも最後がなぁ……。リルさん。俺は崩壊するダンジョンからヒロインをおぶって颯爽さっそうと生還するとかさ。そういう展開に憧れてたんだよ」


 そう、俺はそういう物語的な冒険に少し憧れていた。

 ヒロインと一緒にダンジョンを攻略し、そして崩壊を始めるダンジョンで力を使い果たしたヒロインをおぶって颯爽さっそうと生還する。


 そんな展開を夢見ていたのに、しかし現実は――


「ふぅん。私にはよく分からないけど……でも、それなら良かったじゃない。似たような事は出来たでしょ?」


「そうですねぇ!? やりたい配役が逆だって事にさえ目を瞑ればねぇっ!!」



 そうなのだ。

 崩壊するダンジョンから助けられたのは俺。

 自分より年下にしか見えない(実際は同年齢らしいけど)リルちゃんにお姫様抱っこされ、何もしないまま彼女にしがみつきダンジョンから救出されたのは俺なのだ。


 そうして颯爽と俺を抱えて生還したリルちゃん。

 一方、小さい女の子に抱えられていただけの俺は男として恥ずかしい限り。

 死にたくなるのも当然だろう。



「え? アンタが私を抱えてダンジョンから生還する役をやりたかったの? でも……その……アンタのステータスじゃぁ……ねぇ? ぷふっ――」



 俺のステータスをどういう訳か把握しているらしいリルちゃん。

 だからこそ俺が彼女よりも圧倒的に非力なのを知っているのだろう。

 こらえきれない笑いが彼女から洩れる。


 なので――



「――あ、ごめん。ちょっと死んできますね」



 心がポキンと折れた俺はそこら辺で死んでくる事にした。



「くふ。ふっふふ。悪かったわよビャクヤ。確かに男らしさとか考えると最後はちょっとどうかなぁって思うけどさ――」



 ぐさり。

 リルちゃんの言葉のナイフが容赦なく俺の心を抉る。



「でも、助かったのは本当よ。ありがとうビャクヤ。アンタが居なかったら私はクリスタルを手に入れることなくダンジョンで夢半ばにして死んじゃってたと思うわ」



 満面の笑みを浮かべそう言ってくれるリルちゃん。

 眩しい笑顔に不覚にもドキリとしてしまい。



「あ、うん」


 ついそうそっけなく答えてしまう。

 先ほどまでの死にたいという気持ちは霧散し、なんだか嬉しさで胸が溢れそうなのにだ。

 なんというか……ですね? これはこれでちょっと照れくさいと言いますか。


 なので俺はリルちゃんと目を合わせることが出来ず、そっぽを向いてしまう。

 俺がそうしているとリルちゃんはくすくすと笑い。


















「ちょっろ。ビャクヤ……アンタ童貞でしょ?」


「――――――――――――んん!?」



 なんだか恐ろしくとんでもない事を言われた気がする。

 もはや気恥ずかしいとか照れくさいとか言ってる場合じゃない俺はリルちゃんの顔を見て。

 


「ん? どうかしたの?」


「……あれ?」


 そこには不思議そうな眼差しで俺を見るリルちゃんの姿。

 俺がいきなり彼女の事を見つめだしたものだから困惑しているようだった。



「ねぇ、どうしたのよビャクヤ? 気分でも悪いの?」


 果ては俺の心配までしだした。


「あ、ああ。いや、なんでもないよ?」


 心配するリルちゃんに俺は視線を逸らしつつそう答える。

 どうやら先ほど聞こえた気がするとんでも発言は俺の気のせいだった――


 

「アハッ。ビャクヤってば顔真っ赤。アンタってばやっぱり全然女慣れしてないでしょ? そんな童貞の気配がプンプンするわ」



 ――気のせいじゃないっ!!

 俺は再度リルちゃんに視線を向けると、そこには小悪魔のごとくニヤニヤと俺を見つめるリルちゃんの姿があった。


「大体さー。王子様がお姫様をダンジョンから救い出すみたいなシチュに憧れてる時点で夢見がちなのよねー。マジで恋する乙女かってのー(笑)」


「ぐほぁぁぁっ!」


 俺(ビャクヤ)に会心のダメージ。

 効果は抜群だ。


「元々は貴族のお坊ちゃんって話だしもうちょっと遊んでるのかと思ったら全然ウブだしねー。ちょっと笑顔でお礼言われただけで顔真っ赤とか超うけるんですけどー」


「いぐゅほぁぁぁ!?」


 続けて俺(ビャクヤ)に会心のダメージ。

 効果は抜群。

 俺(ビャクヤ)は弱っている。



「あ、でも勘違いしないでね? 感謝してるのは本当よ。ありがと。感謝してるわ。童貞君♪」


「イギャァァァアッァァァァァァァァ」



 俺(ビャクヤ)に致命的なダメージ。

 


「うぐぅ……」


 俺(ビャクヤ)は倒れた。



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