第4話『リルカの戦い-3』

 ――リルカ・トアステン視点



 バリィっと。

 稲妻が走る。



「スキルか。そういえば君は雷神の姫君と呼ばれし者。ここからが本領発揮という事か」


「長くは持たないわ。速攻で終わらせてあげる」


「速攻で終わらせる? クク、やれやれ。随分と強気になったものだ。だが、そのスキルを使ったところで何も変わらない。仮にそれで多少速度が上がったところで――」



 ギルベルトの言葉を待たずに。

 私は駆けだした。


 電流の流れを完全にコントロール。

 筋肉を無理やりに動かし。

 そうして私は今までとは比べ物にならない速度を実現させるっ。




「っ!?」


 ギルベルトが目を見開き、後ろに下がる。

 その動きはすばやく、普通なら目でも負えないほど。

 だけど――



「丸見えなのよノロマァッ!!」




 バリィッ――




「ぐっ――」



 私の雷撃をまとわせた蹴りがギルベルトに命中。

 とはいえ、ギルベルトも無防備で受けたわけじゃなく、両手でガードしてきた。


 ちっ、浅い。

 けどようやく。


 ようやく奴に一発をいれる事ができた。

 もちろん、そんなことで私は満足しない。



「まだまだぁっ!!」



 蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。

 こいつが消し炭になるまで蹴り続ける!



「ぐっ。くっ。ククッ。ハハ。アハハハハハハハハハハハハッ――」



 苦しそうに私の攻撃を受け続けるギルベルト。

 なのに、笑っている。


 何かを企んでいる?

 いや、たぶん違う。


 こいつもエクス卿とかいうやつと同じ。 

 こいつは……この戦いを楽しんでいるんだ。


 その感性を私は理解できないし、したくもない。

 だから……ここでとっとと終わらせるっ!!


 私は渾身の力を込めてガードの上からでもギルベルトの頭蓋ずがいを砕けるように足を振り上げ――



「Ζέφυρος Αίολος」



 瞬間。

 ゆっくり流れる視界の中、ギルベルトだけが素早く上空へと飛び上がる。

 だけど、私の身体はその動きに付いていけず。



「くっ!!」




 何もない空間を私の渾身こんしんの蹴りが通り過ぎる。


 その後。



 パチ。パチ。パチ。パチ。



「いや、驚いた。まさかそこまで実力を上げているとはな」



 さらに上空。

 薄く笑いながら手を打ち鳴らすギルベルトがそこに居た。



「雷神招来……だったかな? 体に雷をまとわせるだけのスキル。多少速度が上がるのと、攻撃力が増すだけのスキルだと思っていたから本当に驚いたよ」



「くっ――」



 その余裕しかない顔面を歪ませてやるっ!

 そう意気込むも、そこで私の身体は動きを止めてしまう。

 スキルも意図せず途切れてしまう。



「ああ、そこで止まっておきたまえ。何事においても無理は良くない。リルカ・トアステン。君は雷をまとわせるそのスキルで電流を操作し、無理やりに筋肉を動かしているのだろう? そんな無理をすればすぐにそうやって動けなくなるに決まっているじゃないか」



「くっ――」



 たった数秒か数十秒。

 それだけの時間で私のスキル運用法を見破るギルベルト。


 事実、その通りだ。

 電流を操り、無理やりに肉体を動かす。

 それが私の見出した『雷神招来』の新たな運用法だ。


 こうすれば常識外れの速度を得られる。

 しかし、その代わり使えば使うだけ私の肉体はボロボロになっていく。


 最悪――



「――その戦い方を続ければ死ぬだろうな。もっとも、それくらい君も分かっているのだろう? 覚悟のうえでそうしている。素晴らしい。これだから人間は見ていて飽きない。さぁ――もっと抗ってくれたまえ。私もここからは本気でお相手しよう」



 本気を出す。

 そう言いながら手を出してくる様子がないギルベルト。


 なんとなくだけど、その理由は察することが出来る。


 こいつは。

 こいつら魔人は。

 私たち人間の全力を受け止めて、その上で潰したいんだ。


 だから自分のスキルで動けなくなっている私を攻撃しようとしない。

 あくまで私の全力を潰し、絶望させる為にこいつは本気を出すつもりなんだ。



「クソッタレ……」



 悔しい。

 強く。強く歯をくいしばる。 



 そうしてようやく体がしびれが収まり――




「こなくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



 再度スキル発動。

 常識外れの速度でギルベルトへと迫る。

 この動きに付いてこられる訳がない。


 そのはずなのに――



「やけくそかね? それは良くない。勇気と無謀むぼうをはき違えてはいないか?」



 私以上の速度。

 いや、それもあるけど……それだけじゃない?

 これはもしかして……私が遅くなっているの?


 風が私の体を押し返そうとしていて。

 それでも前に進めるけれど、正面から来る風が邪魔で私の速度は落ちてしまっていて。

 まさか。


「これは……まさか自分の周囲の風だけじゃなくて。この周囲一帯の風を――」


「ああ。制圧した。もっとも、今は地味な小細工をしている程度だがね。なにせ風の刃などはなっても君は避けてしまうだろう。一定の空間内に真空状態を作り出す事も可能だが、それも君相手では該当空間からすぐに抜け出されるだけだろうからな」



 大したことなんてしていないみたいに言うギルベルト。

 当然、こんな芸当は普通できない。



 この一帯の風を制圧したというギルベルト。

 だからこそ、自身には追い風を。対する私には向かい風が吹くようにコントロールしている。


 これだけの速度で戦いを繰り広げているのにも関わらず、この男はその間も自身の周りの風だけでなく、この一帯の風を自由自在に操っていたのだ。


 まさに規格外。

 全力の全開を出した私の速度。

 これでも追いつけないなんて……。




 ――その後。

 何度も何度も私はギルベルトに一撃を与えるべく突っ込んだ。


 時には会話の隙をついて。

 時にはその奴の視界から逃れるように動いて。

 時には真正面から息が切れるまで。相打ち上等という覚悟で突っ込みもした。



 けれど、その全てが無駄。


 当たらない。

 ギルベルトの打撃は正確に私を捕らえるのに、私の攻撃はギルベルトにかすりもしない。


 これが魔人。

 これが古代魔術。

 こんな常識外れの存在に勝つなんて。


 そんなの、最初から無理だったのかもしれない。

 もう満足に指一本すら動かせず、地をう事しか出来なくて。


「君はよく頑張ったと思うよ。賞賛に値する。この私が人間相手に古代魔術を使う事になるとは思わなかったからな」



 頑張った?

 そう。私は頑張った。

 こんな出鱈目でたらめな存在に勝つなんて、最初から無理な話で。


 ここまでねばっただけでも上出来で。



「やはりこの辺りが人間の限界という事だろうな。だが安心してくれたまえ。殺しはしない。君には色々と聞きたいこともあるし。エクス卿も君に興味を示すかもしれないからな。なにせこれほどの実力を秘めた人間などそうそう現れるものではない」



 どこまでも上から見下ろしてくるギルベルト。

 けれど、何も言い返せない。

 そう。これが限界。


 これが人間の。

 私の……限界。



「それにしてもスキルか……。ククク。非常に興味深いな。聖女の結界についても早く調べたい物だ。レゾニアから聞いてはいたが、じかに調べた訳ではないからね」



「っ――。あの子に……手を……出すなぁっ!!」




 そんなギルベルトの言葉に。

 私は動かない体をスキル『雷神招来』で電流を操る事で動かし、無理やり立ち上がるっ!!


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