第7話『蠢く悪意-2』
――冒険者ギルド受付のお姉さん(ソニア)視点
ビャクヤ少年の試験終了後。
私はその場に残るようにギルド長に言われ、そのまま第三試験会場へと残っていた。
第三試験会場にはもう他に誰も居ない。
先ほどまで居た試験の記録係として雇った魔術師は記録した映像を水晶に転写している最中であり、気絶したアレン冒険者は治療室へと運搬済みだ。
そうして誰も居なくなったところで。
「やってくれたな……ソニア君」
そうギルド長は私に語り掛けてきた。
「何のことでしょうか?」
「とぼけるな。試験の合否をすぐに発表するといったアレだよ」
「何か不都合でもあるんですか? どうしてギルド長が合否発表を先に引き延ばそうとしているのか、私には理解できません。いつもであればその場で発表しますよね?」
冒険者になるための試験。
その試験内容は多岐に渡るが、それら全ては終わったと同時に合否は発表される。
それなのにどうして今回だけ?
答えはある程度想像できるが、あえてギルド長へと尋ねてみる。
するとギルド長は。
「あの無能……ビャクヤは特殊な立ち位置にいる人物だ。そんな彼をたやすく冒険者にすると様々な問題が出てくる恐れがある。それに――」
などと言ってビャクヤ少年が冒険者になった場合どのような問題が出てくるかと語り始める。
もっともらしい理由の数々。
だからこそ、私は鼻を鳴らして言ってやる。
「そうですよね。ビャクヤ少年をあっさり冒険者になんかしたらアスカルト家からの援助が受けられなくなりますもんね」
「なっ――なにを言っているのかね?」
よく分からないという感じで首をかしげるギルド長。
しかし、一瞬だけれどギルド長は間違いなく私の言葉に一瞬動揺をあらわにした。
その反応で私の予感は確信へと変わる。
ギルド長はアスカルト家の誰かからの援助を受けている。
そこには冒険者であるアレンも絡んでいるのだろう。
だが……私はそれを追求しない。
証拠がないからだ。
だが、だからと言ってビャクヤ少年の合否に関してうやむやにさせる気はない。
「いいえ、なんでも。しかし、おかしい話ですよねギルド長? ビャクヤ少年を冒険者にすると発展する問題。そんな物があるのならなぜギルド長は今回の試験を承諾したんですか? 私たちの意見など突っぱねて最初から拒否すればよかったじゃないですか」
「そ、それは……」
言葉に詰まるギルド長。
それはそうだろう。
彼はビャクヤ少年が試験に合格する可能性など欠片ほども考えていなかったのだろうし。
無能と呼ばれたビャクヤ少年がA級冒険者であるアレンを倒せるなど、誰にも予想できるわけがない。
私だって試験が始まるまではそう思っていたのだ。
舞台を整えたギルド長にだって今回の結果は予想外だったに違いない。
「ビャクヤ少年はA級冒険者であるアレンを下しました。これはつまり彼は我々ギルドにとって有益となる人物という事。多少のデメリットを抱える事になるのは否定しませんが、それ以上にメリットがあるのではないでしょうか?」
「そ、それはそうだが……。いや、しかし不明な点が多すぎるだろう! あれは一体どういった魔術なのだ!? そこをきちんと精査してからでも合否判定は遅くないと。私はそう判断して――」
そう言ってまた答えを先延ばしにしようとするギルド長。
ただ、彼の言う通りビャクヤ少年がどうやってアレン冒険者を倒したのか。そこに不明な点が多いのは私も認めるしかない。
ビャクヤ少年。
彼は試験の開始直後に何かを放り投げた。
かと思えば彼は自分自身の耳と目を塞いだ。
その直後、大きな爆発音と共に強烈な光があの場を支配したのだ。
遠くで見ている私は眩しすぎてしばらく目が見えなくなった。
近くでそれを見ていたアレン冒険者もそうだっただろう。
そうしていると彼らの居る方向から『パァンッ――パァンッ――』と聞きなれない音が響いてきた。
その辺りでようやく視力を取り戻した私が見た物は、全身を激しく震わせながら倒れるアレン冒険者だ。
――うん。思い返してもやはりビャクヤ少年が何をしたのか全く分からない。
だけど。
「しかし、いくら不明な点があろうと関係ないのではないでしょうか? なにせ、今回の試験は武器の持ち込みも禁止されていませんし。それは立ち合い相手であるアレン冒険者も『何でもあり』と言っていましたよね?」
「いや、それはそうだが……」
両者が納得したうえでなんでもありの勝負となっていたのだ。
それなのに『A級冒険者を倒した経緯が不明だから』などという理由でビャクヤ少年を不合格にしていいはずがない。
そんな理論展開をしてビャクヤ少年の合格を推す私だったのだが――
「おいっ!! ギルド長、ありゃどういう事だぁ!!」
そこにアレン冒険者が現れた。
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