第6話『試験(ビャクヤ視点)』
――ビャクヤ・アスカルト視点(試験開始時まで時は
「ククク。さぁ始めようかぁっ!!」
なんだかやる気たっぷりのアレンさん。
剣を構えてはいるものの、仕掛けてくる様子はない。余裕たっぷりな感じだ。
言った通り手加減してくれているんだろう。
しかし、こちらがそれに付き合う必要はない。
俺は心の中で念じて武器であるスタングレネードを取り出し、それを前に放り投げる。
それと同時に目を瞑って耳も塞いだ。
「――――――」
そうして心の中で数を数える。
1……2……3!!
数え終えると同時に閃光と鈍い爆音が試験会場に響く。
あらかじめ耳を塞いで目も閉じていた俺はノーダメージだ。
しかし。
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
アレンさんの方はがっつりスタングレネードによるダメージを受けていた。
無理もないだろう。
この世界にスタングレネードなんてないだろうしな。
ほんのちょっぴりアレンさんに同情しながら、しかし容赦はしない。
俺は続けてピストルを取り出し撃とうとして……あ、まずい。
TPSゲームの要領で俺のピストルの照準はアレンさんの頭部に合わせている。
ゲームならそれで何の問題もないが、これは現実であり相手は俺の試験に付き合ってくれているアレンさんだ。
ここでヘッドショットして殺してしまうのはさすがの俺でも
なので、俺は
パァンッ――
「あがぁぁぁぁぁぁ!?」
ピストルの弾がアレンさんの肩に突き刺さる。
あ、あぶねえ。後もう少しで罪なき人を殺す殺人犯にジョブチェンジするところだった……。
「クソがぁっ!!」
目も見えず、おそらく鼓膜も破れて音すら拾えないアレンさんが
なんか必死に剣を振り回しているが、俺の方には全然届いてない。
「うーん。なんか虐めになっちゃっている気がするけど……えい」
パァンッ――
再び銃を撃つ。
とりあえず万が一の為にアレンさんの機動力を奪いたい。なのでその右足を狙ってみた。
「うごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
命中。
いつも狙うなら頭だった為、それ以外の場所を狙うのはなんだか新鮮な感覚だ。
気を抜いたらつい頭を撃ってしまいそうになるからそこだけ注意だな。
さて――
「どうしたものか……」
ここまでやれば試験合格にしてくれていいと思うのだが……この試験を見てくれているギルド受付のお姉さんやらギルド長とやらの反応は特になし。
まだまだ試験は終わっていないという事だろう。
じゃあこれからどうすべきかと俺が考えていると。
「てめぇ……きたねぇぞっ!!」
「はい?」
なんか
「変な道具を使いやがってっ! 男なら正々堂々とやれやゴラァッ!!」
「えぇ……」
いや、あの……俺、きちんと試験前に武器はなんでも使っていいんですかって聞いたよね?
それで冒険者ならどんな手を使ってもいいと言ったのは他ならないアレンさんな訳で。
「ハッ! そうか、分かったぞっ!!」
俺は気付いた。
そうか。これは俺に対するアレンさんの試練なんだ。
冒険者ならどんな手を使ってもいい。使うべきだと俺に教えてくれたアレンさん。
あれはつまり、相手が命乞いをしようが何をしようが関係ない。冒険者ならばそんなことで動揺してはならないのだと。そう言う事だろう。
つまり、これは心の試験。
卑怯だ正々堂々とやれと俺を罵るアレンさんの言葉に耳を貸すことなく、冷静な判断で物事を処理して見せろと。
そんな感じでアレンさんは俺が冒険者たりえるか試してくれているんだ。
「なら次は――これだっ!!」
そうして俺は出していたピストルを仕舞い、スタンガンを取り出した。
これは相手の動きを一定時間止め、微小なダメージを与える近接武器だ。
これなら(きっと)アレンさんを殺さずに無力化できるだろう。
「というわけで……えい」
そうして俺はスタンガンのスイッチをONにしてアレンさんの首元に当てる。
すると。
「オゴヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァァァ!?」
「おぉう」
なんだかビックンビックン跳ねてるアレンさん。
ここら辺の反応はTPSと違うんだなぁなどと思っていると。
バターンッ――
ビクンビクンと全身を
誰がどう見ても意識はもうない。
なのに――
「「「(ポカーン)」」」
審判役だと思われるギルドの人たちはポカーンと大きな口を開けてこちらを見ているだけだった。
受付のお姉さんは目をパチクリとさせていて。
ギルド長とか言っていた人はなぜか自分の頬を引っ張っていて。
ギルド所属の魔術師で試験の記録を行うみたいな事を言ってた人は首を90度くらい傾げたまま止まっていた。
いや、あの。試験の終わりの合図とかは?
まさか……まだやれとでも?
「あ、あのー。もしかしてまだやった方がいいんですか?」
俺は動かない三人に向けてそう聞いてみた。
すると。
「あ、えー、うん。そう……だな。とりあえず試験はこれで終わりにしよう。合否の判定についてはその……なんだ。とにかく、ビャクヤ君はギルドの待合室にて待機していてくれたまえ」
ギルド長がなぜか思いっきりたどたどしい感じでそう告げた。
よく分からんが、とりあえずこれで試験は終了らしい。
待合室に行けとの事だが、しかし俺には先に聞いておきたいことがある。
「分かりました。ただ、今回の試験の合否っていつ分かるか聞いてもいいですか? 俺、実はとてもとても金に困っていて一刻も早く依頼を受けてお金を得ないとなんですよ」
今の俺は無一文だ。
よって、このままでは泊まる所もなければ飯も食えない。
昨日の晩飯もなんだかんだで抜いていて、今日の朝食もなく今はもう昼を過ぎている。俺の空腹はもう限界あたりまで来ているのだ。
そう――俺は金が欲しいのだ!!
もっと直接的に言えばご飯が食べたいのだ!!
なので試験の合否についていつごろ分かるか確認してみたのだが。
「この後の話し合いで色々と決めたいと思うので三日程度の時間は――」
「分かりました。合否の結果に関しては一時間以内にお知らせしましょう」
「な!? ソニア君!?」
ギルド長が何か言うのを
一時間以内……か。その後に簡単な依頼をこなして金を手に入れて……うん。夕食にはありつけそうだ。
「分かりましたっ! では、試験ありがとうございました~」
「ちょっ。まっ。くっ……」
「ふっ」
「ソニア君。君は――」
俺の試験結果について話し合っているのか。
ギルド長と受付嬢(ソニアさんと言うらしい)は後ろで何やら揉めているようだ。
それを試験の当事者である邪魔するのもなんなので、俺はギルドの人たちの言われた通りギルドの待合室へと向かうのだった――
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