第5話『試験と予想外』
――第三試験会場
冒険者になるためには試験が必要という事で、ギルドにある試験場へと俺は案内された。
他にも観客が入れるような第一第二という試験会場があるらしいのだが、今日は俺のみの試験だしそこまで時間もかからないだろうという理由で第三試験会場にて試験が行われることになったらしい。
しかし、それを説明してくれた受付のお姉さんの顔がやけに暗かったのだが……体調でも悪かったのだろうか? ギルドの受付係ってなんか忙しそうだしな。
「よぅ。お
「んぁ?」
そうして先ほどから暗いお姉さんの様子を
真っ赤な髪の青年。
どことなく野性的な感じのする男だった。
「えーと……あなたは?」
「俺か? 俺はこの試験の立ち合い相手になるアレンだ。よろしくな」
そう言いながらこちらに手を差し出してくるアレンさん。
おぉ、なんて気さくな人なんだ。
外見でなんか物騒だなぁと思ってしまった俺を許してくれ。
「は、はいっ! よろしくお願いします」
俺はガシっと差し出されたアレンさんの手を握り、ぶんぶんと思いっきり上下に振る。
その際、アレンさんは「くくっ」と笑いを漏らしていた。
おそらく俺の態度があまりに子供っぽいからだろう。少し改めよう。
「試験の内容は聞いてるよな?」
そう俺に聞いてくるアレンさんだが、もちろん俺は聞いてない。
正確には資料に記載されていたと思うのだが、俺はそれをきちんと読んでいないのだ。
幸いと言うべきか、そんな俺の様子に気付かないままアレンさんは話を進めてくれる。
「試験は簡単な模擬試合だ。俺を倒せば無事にお前は冒険者になれる。まぁ、ほどほどに手加減してやるから頑張りな」
なるほど。
試験の内容は普通に試合形式なのか。
それならやりようはいくらでもあるな。
ただ――
「すいません。一つだけ質問が。武器は何を使用してもいいんですか?」
それだけが気になった。というか最重要事項だ。
もし用意された刀のみを使えとか言われたら合格は絶望的だしな。
しかし、そんな事はないようで。
「ああ。冒険者たるもの使える物はなんでも使うべきだしな。俺もお前も、使える物はなんでも使って問題なしだ」
とのお言葉を頂いた。やったぜっ!
そうして俺とアレンさんはは小さい闘技場のような場所で向かい合う。
互いの距離は五メートルほど。離れすぎてもいないし近すぎでもない距離だ。
そうして。
「では、これより試験を開始します。時間は無制限。先に力尽きた方が敗北となります。それでは――はじめ!!」
試験が始まった。
★ ★ ★
――残虐非道のアレン君視点
「ククク。さぁ、始めようかぁっ!!」
待ちわびた俺のお楽しみ時間。
未来なき小僧は命果てる瞬間にどんな悲鳴を上げるのか……今から楽しみだ。
事前に聞いた情報だと目の前に居るビャクヤは魔術を使えず剣術の腕も並以下らしい。
先ほど握手を交わし、筋肉の付き具合や立ち振る舞いからその強さをある程度計ってみたが、それは事実らしい。
聞いていた通りの無能。
さて。どう料理してやろうか。
そうして小僧をあしらうべく剣を構えたのだが。
「ん?」
小僧は剣も構えず、何かをこちらに放り投げて来た。
見ればそれは銀色の球体だった。
一体何を? そう思って小僧の方を改めて見たのだが。
「んんん?」
なぜか小僧は目を瞑って耳を塞いでいた。
なんだ? 今から訪れる自分の破滅の未来を予期してしまって、何も見たくない聞きたくないという意志表示か?
「ハッ――。おいおいつまんねぇなぁ坊ちゃんよぉ。ほんの少しでもいいから俺を愉しませて」
そこまで俺が言ったあたりで、銀色の球体が地面へとぶつかり『カンッ――』という音が鳴る。
瞬間――
ドォォォォォォンッ――
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
凄まじい爆音が響き、同時に凄まじい光が視界に入ってきて目を焼かれた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ」
耳がキーンとして、眩しすぎる光に焼かれて何も見えない。
なんだ? 今、一体何が起きたんだ!?
そう俺がオロオロしていると――
「あがぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の肩に何かが突き刺さった。
「クソがぁっ!!」
俺は小僧が仕掛けてきたのだと悟り、目も見えず音も聞こえないなか反撃を加えようと剣を振るう。
しかし、手ごたえはない。どうやら俺に一撃を加えるやいなや身をひるがえしたようで。
「うごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
などと思っていたら今度は右足に何かが突き刺さった。
俺はたまらず膝をつく。
「てめぇ……きたねぇぞっ!!」
思わずそう叫んでしまう。
今まで俺が殺してきた相手が叫んできたお決まりのセリフ。
卑怯汚いなどむしろ誉め言葉。何の手も尽くさない方がマヌケだと言ってきた俺が今はこのザマとは。
「変な道具を使いやがってっ! 男なら正々堂々とやれやゴラァッ!!」
それが分かっていながら、それでも俺は叫ぶ。
悔しいが、今は叫ぶ事しかできない。
だが、それが今の俺に出来る唯一の抵抗でもあるのだ。
(さぁ、
なんて事を考えながら
まだ荒事に慣れていない貴族のお坊ちゃんであれば最低でも躊躇はするだろう。
そう思っていたのだが。
「オゴヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァァァ!?」
もはや何をされたのかも分からない。
分からないまま……俺の意識は闇に沈んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます