第12話『氷のレゾニア』


「――さて」



 第一王女キャロルカ・クロウシェットを氷漬けにした帝国の騎士レゾニア。

 彼女はキャロルカから奪い取った銀色のカードを指先でクルクルと回しながら俺達を横目で見て。



「――てつけ」



 いきなり攻撃を仕掛けてきやがった!?



「なっ!? この――」


「――いきなりかよっ!!」


「うぅ……」



 レゾニアを中心に銀世界が広がる。

 彼女を中心に世界が凍る。

 広がる氷に触れたらどうなるか。試してみる気にもならない。


 だから――



でませアーマードウォールッ!!」



 俺は目の前に耐久値の高い壁である『アーマードウォール』を設置。

 その裏に隠れていた俺とティナは氷に触れずに済んだ。

 だが……。


「あぁっ!」


「リル!?」



 迫る氷を避けようとしたのだろう。

 リルは持ち前の素早い動きで移動していたが、全方位に広がる氷を躱しきれていなかった。

 


「だ、大丈夫よっ。ちょっと足が動かしづらくなっただけ。キャロルカみたいに完全に凍った訳じゃないわ。それよりも――」



「――ほぅ。私の一撃を防ぐか。いいぞ。面白い。では、どれだけ耐えられるか試してやろう」



 アーマードウォール越しにニヤリと笑うレゾニア。


 マズイ。


 いくらアーマードウォールさんでも無限に相手の攻撃を防げるわけじゃない。



「ぬおおおおおおりゃあああああああっ!!」



 俺はとっさにライフルを取り出す。

 そのままレゾニアの頭へと照準を合わせ――



「喰らえっ!!」



 ――パァンッ



 銃声が鳴る。

 完全にヘッドショットとなるコース。

 これが当たれば全てが終わる。


「ほぅ。随分と面白いものを使うな」



 しかし、その一撃は届かず。

 レゾニアは俺と同じように眼前に壁を作り出し、俺の銃弾を防いだ。


 それは氷の壁。

 俺のライフルによる銃撃はレゾニアが展開した氷にヒビを入れただけで、本人には何のダメージも与えられていなかった。



「聞いたことがある。確かそれは銃というものだろう? 引き金を引くだけで赤子でも人を殺せる武器。どこからともなく取り出した事から察するに……それは貴様のスキルにより生成されたものか?」


「そうだけど……ってなんで銃についての知識あるんだよ。もしかしてお前も転生者とかそんなのか?」



 余裕の態度で俺の持つライフルを興味深そうに見るレゾニア。

 だが、この世界で銃なんて俺が持ってるやつ以外、見た事がない。


 そんな銃の知識をレゾニアは持っている。

 という事は、少なくともレゾニアは俺と同じく別の世界の記憶を持っているという事で。



「いいや? 私は転生者などではないよ。過去に貴様とは別の転生者と敵対した事があるというだけの事。銃の知識はその者達の記憶から得たものでな。実際、貴様と同じように重火器を生み出すような転生者も過去には居たよ」


「俺とは別の転生者?」


「ああ。しかし……面白いな、貴様。どうだ? 帝国に仕える気はないか? 我が国は実力主義。それなりに有用な貴様であれば、各軍の隊長程度にはなれると思うが?」



 まさかのスカウト。

 俺の『TPSプレイヤー』の力をそれなりに評価してくれたらしい。



「ビャクヤ?」


「ぐっうぅぅ……うぅ……」



 俺の顔色をうかがうリル。

 未だに苦しんでいるティナ。


 当然、答えは決まっている。



「お断りだよバカヤロー」



 そう言いながら俺はライフルを仕舞い、ロケットランチャーを取り出す。

 そしてそのまま――発射ぁっ!!



 シュゥンッ――



 レゾニアを守る氷の氷壁に向けて飛ぶロケットランチャー。

 そのままロケットランチャーは氷壁へと着弾し。



 ドガァァァァァンッ。



 爆破。

 パラパラと氷の欠片が落ちる。

 そうして氷壁に守られていたレゾニアは。




「――そうか。残念だ。ならばここで死ね」



 何重にも張られた氷壁のバリアーを解きながら。

 俺に向けて極大の氷を撃ちだそうとしていた。



「あ、これマズイわ」



 ――死が迫る。


 なにせこっちの攻撃は向こうに通じない。

 俺を守るアーマードウォールの設置は何度も出来るものではなく、再設置は長いクールタイムが必要になる。


 つまり、耐久勝負となればこっちが不利なのは明らか。



「これは……分が悪いか?」



 アーマードウォールの内に隠れ、レゾニアの攻撃をどうかわし続けるか考える。

 だが、解決策が何も思い浮かばない。


 逃げようにも、あの広範囲攻撃から逃れる術が思いつかない。

 敵の攻撃は避けるが基本のTPSにおいて、あんな広範囲攻撃など存在しなかったからこんな状況、俺は想定すらしていない。



「ビャクヤァッ!!」



 叫ぶリル。

 けれど、どうしようもない。

 レゾニアは長々と詠唱を唱え――



「凍てつき果てろ。メテオ・フロスト」




 そうして放たれる極大の氷。

 それを俺が展開したアーマードウォールが受け止める。


 ガァァァァンッという衝撃音。


 アーマードウォールはレゾニアの攻撃を防いだ。

 しかし、やはり耐久値は確実に削られている。



「ほぅ……。これにも耐えるか。だがいつまで保つかな? 私の魔力の底はまだまだ遠いぞ?」



 次弾装填という感じで詠唱を唱えるレゾニア。

 やはり魔術であるからだろう。

 レゾニアは攻撃する時、詠唱の為の時間を必要とするみたいだ。


 ならばその間にとアーマードウォールを再展開すればいいのだが……再展開には十分ほどのクールタイムが必要なので無理。



「くそっ」



 俺は苦し紛れに銃弾を放つが、レゾニアがついでのように張る氷壁に全てがさえぎられる。

 



 ――ああ、もうダメだ。

 諦めが俺の心を支配する。



 ――瞬間。




「あ、あぁ。アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



 アーマードウォールから飛び出す影。

 無論、俺ではない。


 飛び出したのは――ティナだ。



「恐怖に震え狂ったか。良いだろう。先に貴様から氷漬けにしてやろう」



 レゾニアの標的が俺からティナへと移る。

 そのままレゾニアはティナへと極大の氷を打ち放とうと目を細め。



「ξυνφαθηομΔεφξθζχψωγληαΒΡΤΥΦΟΠΛΣΖΞΚ」



 ティナの口から。

 意味不明な言葉の羅列られつが紡がれるのだった。


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