第2話『夢を見た。家を出よう』


 ――???視点


「前方に発砲音を確認……どうやら誰かやりあっているようだな」



 視界には入らないが、どうやら近くに敵がいるらしい。

 俺は自キャラを操作し、気づかれないように音がする方向へと近づいていく。

 もちろん、射撃戦において有利となるよう相手の上に位置するようにだ。



「――発見。クク、どうやら誰も俺には気づいていないようだな」



 俺は所持している武器の一覧からスナイパーライフルを選択。

 下で争っている敵に照準を合わせ――



発射フォイヤ


 パァンッ――

 俺の放った銃弾は的確に相手の頭部へと吸い込まれ、敵が消滅していく。

 それを数度繰り返した後。



「さて。音で位置がバレただろうな。早く移動しないと」



 そうして物音を立てないよう速やかに移動を開始する。


 TPS。

 Third Person Shooterを略した物であり、端的に言えばシューティングゲームだ。

 俺がやっているのはまさにそれ。自分以外の敵を全て抹殺すれば勝ちというルールの中、プレイヤー達が自由に動き回る。

 

 似たようなものにFPS(First Person Shooter)という物があるが、あれとの違いは視点の違いだけだ。

 FPSは一人称視点で自キャラの姿が見えず、そのキャラの視点でプレイするシューティングゲーム。

 対するTPSはキャラクターの背後視点でプレイができるシューティングゲームである。



「なっ――位置がばれた!? クソ、相手はサーチ持ちか。もしくは上空から俺の位置を割り出されたか……。ともかく相手の正確な位置が分からん。いったん退避だな」



 幾人ものプレイヤーが同時にジャングルや建物群といった舞台に降り立ち、それぞれがフィールドから手に入れた武器を駆使して戦うシューティングゲーム。

 俺はこのゲームが大好きで毎日数時間はプレイしている。



「追って来たか。馬鹿め。そこは俺の領域テリトリーだ。喰らえぇ!!」



 俺は背後からの銃声を頼りに後方に手榴弾を投げる。

 当然、当たるはずなどないのだが――



 ドォォォォォォンッ――




 響く爆発音。

 それと同時に敵の銃撃が鳴りやむ。



「その一帯には地雷が埋めてある。当然、お前もそれは警戒していただろう。だが、手榴弾により誘発された爆発までは防げまい?」



 それと同時に俺が操っていた自キャラの上に『VICTORY』と金文字が現れる。

 どうやら先ほどの敵が最後の一人だったらしい。



「いよしっ!! さて――ネクストゲームだ」



 そうして俺は新たに次の試合へと臨むのだった――



★ ★ ★



「――ハッ!?」


 いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 外はもう暗く、今は深夜といった所だろう。



「今のは……一体……」


 夢を見ていた。

 記憶にはあるけど、記憶にない夢。

 俺はTPSというゲームの中でたくさんの人を撃ち殺し、時には撃ち殺されていた。

 もちろん、この世界にはゲームなんてものはない。娯楽なんて狩りだったり鬼ごっこだったりと、そもそもテレビゲームなんてものが存在しない。


 ならこの記憶は一体何なんだという話になるのだが……。



「ん?」



 その時、俺は気付いた。

 まだTPS関連の記憶を得ていない時の俺がガラクタと断じた物の数々。

 それがガラクタじゃない事に。



 よく分からない銀の筒→銃器。

 よく分からない銀の球体→手榴弾やスタングレネード。

 よく分からない少し尖がっている小さな鉛の棒→銃弾。


「あぶなっ!?」



 俺はピョーンと飛び跳ね、目の前にあった危険物達から距離を取る。

 そう――この部屋は危険物で溢れかえっていたのだっ!!



「いやいやいやいやマズイって。これ一歩間違えたら屋敷ごと爆発するって。こんなものを部屋に抱えてたのか俺は。いや、確かに適当にポイするよりはマシかもしれないけどさぁ」



 どれもこれも簡単に人を殺せる武器だ。

 これをきちんと使えればこの世界で人々を悩ませている魔物やら盗賊やらを簡単に倒せるかもしれない。

 もっとも、この世界には魔術やらスキルというTPS世界にない物が盛りだくさんなのでそう上手くいかない可能性も大いにあるが。



「ん、待てよ……それ、ありじゃね?」



 今になって理解したが、これこそが俺のスキル『TPSプレイヤー』なのだろう。

 自分の事を第三者視点で見ることが出来て、そして引き出しやら何かを開ける度に武器を得てしまう能力。

 これはまさにさっき俺が夢に見たTPSゲームの特徴そのものだ。



「この力があればもう無能だなんて言われないんじゃ……」


 この力をアスカルト家のために使う。

 そうすればこの家からの追放も取り消しになり、絶望的だった未来がそこそこ明るい未来になるかもしれない。

 だが――



「けど……息子の俺を後腐れなく追放するようなクソ親父の為に……アスカルト家の為に俺が尽くす意味ってあるのか?」



 そう言ってから俺はまたもや気づいた。

 おや? 俺ってこんな性格だったっけ?

 さっきまで『このままじゃ僕の将来真っ暗だよどうしよ~』などと考えていたはずなのに、今はそこら辺の事をさっぱりと割り切っている。



「ふーむ。なんかTPS関連の記憶を取り戻した……取り戻した? やっぱおかしいな。変な記憶を得たという感覚より、取り戻したという感覚の方が強いよなぁ。あえて言うならばそう……忘れていた事を思い出したと言うか……前世の記憶か何かを思い出したかのような……」


 うん、それだな。その感覚が一番強い。

 TPSを散々やりこんでいた前世の記憶が今になって蘇ったと……とりあえずそういう事にしておこう。



 さて。話を戻そう。

 今の問題点は俺のTPSプレイヤーについて親に説明し、その有用性を伝えるべきか否かだ。


 この世界での記憶はバッチリ記憶しているが、俺は父親に優しくされた記憶がない。

 座学やら剣術やらを叩きこまれ、それでも一向に成長しない俺をあの父親は冷めた目で見るだけだった。


 長男であるルイス兄さんことクソ兄貴は論外。

 俺は冷めた目で見るどころか散々馬鹿にして、隙あらば嫌がらせまでしてくる始末だ。

 稽古だと言っていきなり滅多めったちにされたり、会うなり無能無能と罵倒を浴びせてきたりと今まで散々な目に遭った。


 ついでに言うと。その現場にクソ親父が通りかかったこともあったが、事もあろうにあいつは無視。

 あのクソ親父は俺がクソ兄貴に虐められているのを見て見ぬふりしやがったのだ。



「――うん。出ていけと言われて絶望してた僕には悪いが、これどう考えても追放された方がマシだな?」




 少なくともこのアスカルト家の家名を上げるためにこの身を捧げようなんて事、今の俺には思えない。

 唯一、心残りがあるとすれば王都の貴族学校に通っている最中のクランク兄さんの事か。

 

 アスカルト家次男のクランク兄さんはクソ兄貴から虐められている俺を何度も庇ってくれた。この家で唯一俺に優しくしてくれた人だ。

 そんなクランク兄さんの為に俺も何かしてあげたいと思わないでもないが。



「それ以上にクソ兄貴やらクソ親父の顔をもう見たくないしな……。今までの鬱憤うっぷんとかも溜まってるし」



 正直な話、今すぐ目の前にある銃火器の中からロケットランチャーを取り出してクソ兄貴&クソ親父にぶっ放してやりたい気分だ。


 もっとも、クソ兄貴やクソ親父には魔法やスキル、そしてそれに沿った肉体強化なんていう物があるからどこまでTPSの武器があいつらに効くかは不明だが。


 ただ、仮に二人にロケットランチャーによる砲撃が効いたとしても、それはそれで俺が殺人犯になっちゃうし、屋敷も当たり前のように崩れて隠蔽不可能だしやるべきではないだろう。



「となればやはり大人しく追放されるべきだろうな。それに――」



 実を言うと、俺は少しワクワクもしているのだ。

 このTPSプレイヤーさえあれば物語に聞いた『冒険者』として活躍できるかもしれない。

 魔物を相手に重火器を持ってバトル……心躍るぜっ!!


 という訳で――



「とりあえず……この武器の山を色々持っていこう」


 目の前にこれだけの武器があるのだ。

 しかも、その性能を知るのは自分だけ。これを持っていかない手はない。

 ただ、ここで問題が一つある。



「とはいえ、こんなに沢山どうやって持って行けばいいのやら――」




 TPSのようなゲームでは、武器をいくつか所持することが可能だ。

 普通はそんなの持てないだろ! とツッコミを入れられそうなロケットランチャーだって他の武器と同じように所持することが可能。

 しかし、これは現実だ。

 目の前の数十種類以上にも及ぶ武器を一気に持って行くことなど出来るはずがない。


「厳選して持って行くしかないのか……」



 そうして俺はライフルのような持ち運びが不便な物ではなく、まずは懐に仕舞えるサイズのピストルを手に取った。


 その瞬間――手に持ったピストルが姿を消した。



「おや?」


 おかしい。

 さっきのピストルはどこへ?



「もしかして……」



 俺はこの手にピストルが現れるように少し念じてみる。

 すると――



 カチャッ――



 俺の手の中には先ほど手に持ったピストルが再度現れていた。

 そうして次は『よし仕舞おう』と念じてみて……すると手の中からピストルの感触が失せる。



「やっぱりか……」



 どうやら俺が仕舞おうと思いながら触れた武器はTPSのようにどこかへと収納されるらしい。

 収納された武器も装備しようと念じれば手の中に現れるようだ。


 つまり――



「これ……もしかして全部持っていけるんじゃね?」


 俺は目の前にある武器に触れながら仕舞おうと念じる。

 すると思っていたとおり、触れていた武器の一つが姿を消した。



「よし。思った通りだ」



 これならここにある武器の山を残さず持っていける。

 持ちきれない分をここに置いていった場合、アスカルト家の屑どもに悪用される恐れがあるので処分しなければと考えていたのだが、これならその手間も省ける。


 という訳で。



「よーしっ! 朝までに全部収納するぞーっ!!」



 俺は家から追放される時までに終わらせようと、部屋の武器を片っ端から収納していくのだった――




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