最終話『旅立ちと別れ』


 王都へ来ないかというクランク兄さんからの誘い。


 それを断るとクランク兄さんは紫色の小さな宝石みたいなのを投げて寄越してきた。


 俺はそれを受け取り。


「ナニコレ?」


 首をかしげた。


「それはまだ公にされてない通信用の魔晶石ってやつだ。それさえ持ってりゃ同種の魔晶石持ちと連絡が取れる優れ物だ。失くすなよ?」


 そう言ってクランク兄さんは投げてよこした宝石と同じ色のものを俺に見せてくる。


 ――なるほど。


「分かった。貰っておくよ。とりあえず王都に行ける時になったら連絡するって感じでいいかな?」


 そのために俺にこんな希少なものを渡してくれたんだろうし。


 クランク兄さんの頼みだ。


 リルの用事が終わったら王都に行くくらい構わないだろう。


 そんな事を思っての発言だったのだが。





「ん? いやいや、もっと気軽な感じで使ってくれよ!? これマジ凄いんだって。使用制限回数とかなしで使える優れ物だからっ! 近況報告とかにでも使ってくれていいから。なんなら朝の挨拶だけで使ってくれてもいいから」



 どうやら俺の王都行きどうこう関係なく渡してくれた品だったらしい。


 けど――


「近況報告? 朝の挨拶? クランク兄さん、なんで俺がそんな事をする必要が――」


「悲しい事言うなよ俺達兄弟だろぉ!? 他のクソ親族に囲まれる中、そこそこ仲良い兄弟だろぉ!? いいじゃんか近況報告くらいよぉっ! 毎朝『おはよう』って通信越しに言うくらいいいじゃんかよぉっ!」



 ジタバタ。ジタバタ。


 床に倒れ、みっともなく手足をばたつかせるクランク兄さん。


 今更何を言っているんだと思われるかもしれないがこれ、一応俺の兄である。


 確かに仲の良い兄弟だっていうのは否定しないし、実際救われた事は幾度もあるから感謝しているのだが……こういう所はちょっとうざいとも感じてしまう。



「いや、毎朝『おはよう』ってそんな恋人でもあるまいし……。せめて定期的に近況報告するくらいでよくない?」



 毎朝クランク兄さんに『おはよう』と挨拶したりされたりする日々。


 家でそれならともかく、そんな希少な通信道具まで使ってまでやりとりしてたら完全にホの人っぽいし、なにより気色悪い。


 なので定期的な近況報告をするくらいで許して欲しいのだが――



「それもそうだな」



 そう言って何事もなかったかのようにすっくと立ちあがり、パッパッと服の汚れを落とすクランク兄さん。


 そのままクランク兄さんはしっしっとハエでも追い払うように手をパタパタさせ。



「ほれさっさと行けビャクヤ。さっきも言ったが急がないと面倒なクソ親父が来るからな」



 そう言って早く行けと、なんとも雑に俺達をこの場から追い払おうとしだすクランク兄さん。


 さっきまで仲良し兄弟なんだから毎朝『おはよう』くらい良いだろぉ! みたいな事を言っていた当人がこの態度。


 正直、切り替えが早すぎて付いていけないのだが――



「――話はまとまったみたいね。ほら、行くわよビャクヤ。ついでにティナ。アンタもいつの間にか寝てるんじゃないわよ。ほら起きて、行くわよ」


 話は聞いていたが途中から口を出さずに見守ってくれていたリル。


 彼女は話が終わったと見るやぐいっと俺の首根っこを掴み、ついでにいつの間にかすやすやと眠ってしまっていたティナの首根っこも同様に掴んで引きずっていく。



「ちょっ、あの、リル!? 確かに話は終わったけどそんな引きずらなくても俺は自分で歩けるんだが!?」


 俺はそう抗議するものの、リルは「はぁ」とため息を吐き。


「なーに言ってんのよビャクヤ。さっきアンタの兄貴が『もうじきクソ親父がここに来る』みたいな事を言ってたじゃない。

 アンタ達のお父さん……それってつまりアスカルト伯爵本人が下手すれば私兵を連れてここまで口出ししに来るって事でしょ?

 冗談じゃないわ。守ってあげるとは言ったけど、私は回避できる面倒にまで巻き込まれたくないのよ。

 となればこんな所、早い内に出ていくに限るわ」


 それには同意しよう。


 俺だってあのクソ親父と対面したくなんかないからな。


 しかし、問題はそこじゃない。



「いや、それについては分かってるよっ!? 俺が分からないのはなんで俺とティナを引きずっていくんだって事だよっ! 離してくれよっ、普通に歩けるからさぁっ」


 そう懇願するものの、やはりリルは俺の首根っこを掴んだまま離さない。


 ただ、そこで「んぅ? しゅっぱつ? どっかいくいく?」と起きたティナの首根っこだけリルは掴むのをやめて。



「馬鹿ね。最初から歩くつもりなんか最初はなからないからこうして引きずってんのよ。ティナはともかく、アンタが普通に走るより私がアンタ引っ掴んで走った方が速いでしょ?

 ――――――だからビャクヤ。アンタ、しばらく寝ててもいいわよ」


 そう言ってリルは小さく『雷神招来』と呟き、その身が仄かに電気を帯びる。


 それを見てクランク兄さんやソニアさんが「「おぉっ」」みたいな声を上げているがそれどころじゃない。


「あの……リル? まさか――」


「喋んない方がいいわよビャクヤ」


 しゃがみながら前傾姿勢を取るリル。


 それはもう今にも駆けだしそうな構えで――



「――――――舌をみたくなかったらねぇっ!!」



 瞬間、彼女は風と化した。



「おんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「んむ? あ、ごしゅじんさま。まってーー」




 俺の意見など完全無視で独走するリル。


 俺の事を過大評価したり、かと思えばこんな強引な一面もあったりで……何かと忙しい女の子だよなぁリルって。


 そして、そんな俺をご主人様と仰ぐ無垢系少女のティナ。


 はてさて。こんな二人を連れてこれから俺はどうなってしまうのやら。


 なんて事を考えている間も首根っこを掴まれたまま引っ張られまくる俺の意識は朦朧もうろうとしていき――


 そうして。


 俺達はストールの街から旅立つのだった――

 

 

★ ★ ★



 『チートスキル『TPSプレイヤー』に目覚め無自覚無双~魔術も使えない最弱無能の貴族三男だけど、TPS武器でヘッドショット無双する~』これにて一章完結です!


 現状二章のストックもなく、別の作品を書き上げたりしたいので次回の更新はしばらく先になると思います。


 それと……これにて一章完結と言っておきながらアレですが、更に伏線ばら蒔いてる『おまけ』を一話だけ明日更新予定です。


 どう見ても続くじゃねぇかって感じの『おまけ』ですので「キリ良くない感じで終わっててもいいよ!」という方以外は続きが更新されるまで読まない方が良いかもです(もちろん読んでいただけたら嬉しいのですが!!)



 それでは。


 ここまでお付き合いくださりありがとうございました!


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