第8話『リルの過去』



「リルは元々、孤児だったんですよ」



 リルが立ち去った後のイレイナさんの部屋にて。


 イレイナさんはリルの過去を語っていた。


 なお。同じ部屋に居るティナはそんな話に興味がないのか「むぅ? むむ? んー」と虚空を見つめながらなにやらうなっている。



「私がリルと出会ったのはこの国の教会です」


「教会?」


「ええ、お父様に連れられて行ったそこで。私は教会に預けられた孤児たちと。リルと出会ったんです」



 リルが……孤児?

 いや、でも。



「リルは確かトアステン家っていう貴族の生まれだったんじゃ……」


「彼女は養子としてトアステン家に引き取られたんですよ」



 そのままイレイナさんは過去を懐かしむように目を細め。



「当時、スキルを得て間もなかった私は国民たちからもてはやされました。期待と称賛の嵐。でも当然、それだけじゃありませんでした」


「それだけじゃない?」


「スキル:封魔結界を発現させた私。その力を利用しようとする者が幾人も現れたんです」


 それは他国の貴族だったり。

 裏に巨大なバックを持つ盗賊だったり。

 中には封魔結界というスキルを目障りだと感じた集団がイレイナさんを暗殺しようとする事件もあったらしい。



「そんな私に信頼できるような誰かなんて居ませんでした。だから同世代の友達なんて居る訳もない。そうやって半ば荒れていた私に対し、リルを始めとした孤児院の子達は私と友達になってくれたんです」



 なんやかんやあって、イレイナさんはリルを含む孤児たちと仲良くなったのだとか。

 そうして、リルを含む孤児たちはイレイナさん側の事情を知り。


 特にイレイナさんと親しくしていたリルは最初にまず力を求めたのだそうだ。

 色んなやつからイレイナさんを守る。

 そのための力を。


 幸い、リルはその身に雷をまとわせることが出来る『雷神招来』という戦闘用のスキルを持っていた。

 強くなれる素養を最初から備えていたのだ。



「当時、私の護衛にはヒューズ・トアステン卿……。今のリルの父親ですね。彼とその部下が付いていてくれました。そのヒューズ卿にリルは戦い方を教えるように迫ったんです」


「うわお。その頃のリルってまだ子供ですよね?」


「そうですけど……。あぁ、なるほど確かに。ふふっ。今思い返せばとんでもない話ですね。小さな女の子が見ず知らずの軍人に『ちょっとアンタ。私に戦い方を教えなさいよ』だなんて言うんですから」


「色々と凄すぎますね……」




 いや、リルなら言いそうだけども。

 というかリルさん。あなた子供の頃からあんな感じだったのか。

 その軍人さんも困惑したんだろうな。


「最初は乗り気でなかったヒューズ卿もリルの熱意に押し負け、彼女に軽い戦闘教育を施そうとしました。それらをリルは土が水を吸うかのように身に着け……気づけばヒューズ卿も本気で彼女を鍛えていましたね」


 そのままそのヒューズ卿とかいう人はリルを自身の後継者にすべく養子にした。

 要約すればそんな話。



「本当に……リルには感謝しています。どうしようもなかった私の友人になってくれて。その上、私を守ろうと今も必死に働いてくれているんですから」



 インペリアルガードの指揮官として今も働いているリル。


 ダンジョンのクリスタルを手に入れようと必死だったのもイレイナさんの為らしいし。


 それだけリルにとってイレイナさんは大切で。

 逆に、イレイナさんにとってもリルは大切な存在なのだろう。




「二人は――」



 とてもいい関係なんですね。

 俺がそう言おうとした時。



 ――コツッコツッコツッ




「ん?」


「どうかしましたか?」


「え? あぁ、いや。なんというか……。イレイナさん。この部屋に誰か来る予定とかあります? 数十人くらい」


「はい? いえ、そのような予定はありませんが……」


「ですよねー」



 なのに聞こえる。

 足音をできるだけ殺し、ゆっくりと迫ろうとする者達の足音。

 その数はざっくり十数人程度。


 どう考えても普通の状況じゃない。



「ごしゅじんさま。さっきもったてきいっぱいくる。どする? ティナ、ころすいい?」


「おー、相手が殺気持ってるのとか分かるのか。凄いなーティナは」


「むふふ~~」


 俺は嬉しそうにしているティナの頭を撫で。


「だけどティナにはそう言う事はあまりやらせたくないんだよ。だからとりあえず俺が危なくなったら守ってもらえるか?」


「むー? よくわかんない。でもわかった~~」



 そのままティナを護衛に付け、殺気を持っているらしい迫る十数人の到来を待つ。

 


「イレイナさんも俺の傍に。あ、ティナさんや。イレイナさんの事も守ってくれるか?」


「わ、わかりました」


「りょーかいっ!」




 ――バァンッ



 そうして扉が勢いよく開かれる。

 そこからなだれ込んでくる刺客。


 その姿を見る事すらなく俺は――



「とりあえずここは……これだっ!!」



 そう叫びながらスモークグレネードを取り出し、床に叩きつけたのだった――



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