第三章『ダンジョン攻略編』

第1話『近況報告』



 クロウシェット国は魔物の脅威を跳ねのけた。

 

 第一王女が持っていた魔物を操る事の出来るアーティファクト。


 アレをティナが奪った後、魔物がクロウシェット国のみを執拗しつように狙う事はなくなったらしい。



「とはいえ、問題は山積みよ」



 クロウシェット国。

 この国において最強を誇るリル。

 彼女は今まで悩まされていた国難を乗り越えたというのに、険しい顔つきをしていた。

 とはいえ、気持ちは分かる。


 なにせ――



「宣戦布告されちまったものなー」



 帝国三騎士の内の二人。

 レゾニアとジルベルト。


 あいつらは散々言いたい放題やりたい放題した後、さっさとどこかに飛んで行ってしまった。

 おそらく帝国に戻ったのだろうが、問題はその後。


 あいつらの言う通り、帝国はクロウシェット国へと宣戦布告する使者を送ってきたのだ。

 それを受けてクロウシェット国は――



「降伏派が五割。徹底抗戦派が二割。残る三割は和睦するべく交渉を密にしていこう派か」


「帝国は無理やりその武力で多くの国を取り込んできたわ。多くの国が帝国の属国となっている。降伏なんかしてもその後の扱いが良くなるとは思えないわね。当然、和睦なんかも出来るとは思えない」


「かと言って徹底抗戦するにしてもクロウシェット国の国力じゃ帝国には逆立ちしたって勝てない……と。詰んでるなぁ」




 永遠にクロウシェット国を襲い来る魔物達。

 アレを聞いたとき、クロウシェット国もう詰んでるじゃないかと思ったものだが、今回はそれ以上に詰んでる事態だ。



「なにか打開策はあるのか?」


「一応だけどあるわよ。聞きたい?」


「そりゃもちろん」


「帝国は強さこそ正義という国。噂だった帝国最強の三騎士も今回の一件で完全に表に出てきたわ」



 そだね。

 今までなんで隠れていたのかは知らないが、今回の一件で帝国三騎士とやらは完全に表舞台に出て来た。


 クロウシェット国に来た使者も帝国の皇帝からの使いとかじゃなく、「帝国三騎士エクス様の使者」とか言ってたもんな。

 噂じゃ完全に帝国は三騎士が指導者として君臨する国になったと聞くし。



「トップが帝国で最強の騎士。だからこそ三騎士は帝国の太い柱になっているはず。精神的支柱って意味でもね」


「ふむふむ」



 まぁ、そうなんだろうな。

 帝国で一番強い騎士。

 それだけの理由で三騎士は帝国を好きなように動かしているみたいだし。


 しかもそれが帝国では普通に受け入れられ、帝国の一般騎士の士気も爆上がりと聞いた。


 彼らの存在こそが帝国という強固な存在を帝国たらしめている。

 そう言えなくもないだろう。


 

「なら話は簡単よ。三騎士を倒してしまえばいい。そうすれば帝国の士気はがた落ち。烏合の衆にも成り得るわ」



 自分の髪を弄りながら「はぁ……」とため息を吐いて打開策を話すリル。


 打開策を打ち出しているというのに浮かない顔だ。

 

 もっとも、その理由は普通に察する事が出来るけど。




「うん。それ普通に無理だよね。その帝国三騎士さんが前線に出てくる出てこないの問題ですらなく。だって単純に俺達。三騎士の一人であるレゾニアにも敵わなかったし」



 帝国三騎士レゾニア。

 俺がどれだけ銃弾を撃ちこもうがロケットランチャーを打ち込もうが。

 その全てが彼女の生成した氷壁に防がれちゃったからなぁ。


 リルお得意の素早い動きも広範囲攻撃を得意とするレゾニアの前では無意味。


 前の戦いの時、リルはレゾニアの攻撃を避けようとしたが、避けきれてなかったしね。


「確かに私とビャクヤは彼女に敵わなかった。でも……ティナだけはあいつに対抗できていたわ」


 そうして部屋のベッドの中。

 空中を見つめながらぼーっとしているティナに視線をやるリル。


 レゾニアに一撃を加えた後、意識を失うように眠ったティナ。

 あの戦いの後、彼女は無事に目覚めた。

 ただ、彼女の中でなにかしらの変化があったのか。


 ティナは起きている間、心ここにあらずといった様子でぽーっとする事が多くなった。

 俺やリルがいくら話しかけたり質問したりしても反応せず。

 唯一、俺が命令した簡単な事のみ遂行する機械のようになってしまっていた。



「あの戦いの中、ティナは私にも理解不能な魔術を使ってたわ。私が使っているのとはまた別の魔術体系。アレを身に付ければあるいは……」


「あー、あの聞き取れない詠唱のやつね」



 ティナが使っていたあの光の凄い魔術。

 あの一撃だけがレゾニアに一撃を与える事に成功していた。

 確かに、アレを身に付ければリルもレゾニアと渡り合うことが出来るかもしれない。


 とはいえ。


「そう簡単に身に着ける事ができるやつじゃないよな? たぶん」


「うるっさいわねー。そんなの簡単に出来る事じゃないって事くらい分かってるわよ。でも、他にどうしろっての?」


 どうしろっての? と言われると……どうするべきなんだろうね?

 正直、このクロウシェット国は俺からすれば完全に詰んでいる。


 強力過ぎる騎士達を抱える帝国。

 それらを指揮するチートの権化のような帝国三騎士。

 そして、足並みが全く揃ってなくて実力も不足しているクロウシェット国の軍隊。


 うん、状況を打開できる要素がどこにもない。

 さっきリルが言ってた帝国三騎士を倒せばどうにかなるかもって話も、それが出来ないから困ってるんだしね。


 となれば答えは一つだろう。


「……聖女のイレイナさん連れて逃げる一択じゃない? リルにとってイレイナさんは大事な人みたいだし。イレイナさんだけ連れてさ」


「アンタ……そんな事をしようとすれば私たちはクロウシェット国そのものから狙われる事になるわよ?」


「この国の軍事力で帝国を相手取るよりはマシじゃない?」


「それは……。それもそうね。頭の痛くなることに……。とはいえ、それも却下よ。それだとずっと逃げ続ける生活をイレイナに強いる事になるし、何より私もイレイナもこの国がそこそこ気に入ってるの。だから逃げるのは却下」


「そっかー」



 うん、じゃあもう何も思いつかないね。

 俺のTPS知識をフルに引き出してもどうにか出来る気がしない。


 一応、考えてみよう。


 俺に出来る事があるとすれば……そうだな。

 スナイパーライフルとかで超長距離から三騎士を狙撃するくらいか。


 実際、相手の位置さえ先に判明すれば十分に可能だろう。


 問題はそう簡単に帝国三騎士の位置なんて分かるわけないって事なんだけどね!

 しかも、狙撃すら失敗したら本当に手の打ちようがなくなるのも問題だ。


 接近戦だとどうあがいても勝てないって。

 この前の戦いで散々思い知らされたしなぁ。

 


「「はぁ……」」



 まさに万事休す。

 俺とリルは二人してあーでもないこーでもないとこの先の事について冗談も交えながら話し合い。


 そんな時だった。



『あー、テステス。おーい。聞こえるかビャクヤ?』


「!?」


「うわびっくりした。急に飛び上がってどうしたのよ?」


「え? いや。いきなり声が聞こえて来たから」


「声?」


 頭の中に響く声。

 これは……クランク兄さんの声か。

 しかし、声はすれども姿は見えず。


 これは一体?



『お前……なにも連絡がないと思ったら忘れてたのか……。近況報告くらいしろって言っただろ?』



 近況報告……あっ!

 言われて俺は紫色の小さな宝石を取り出す。



「それ……アンタのお兄さんが渡してきた通信用の魔晶石。あぁ、なるほどね」



 そう。

 これはクランク兄さんが俺に渡してくれた通信用の魔晶石。

 まだ公にはされていない便利道具なのだとか。


 正直、色々あって忘れてた。



「ごめんクランク兄さん。正直、魔晶石の存在自体、忘れてたよ」


『お前なぁ……。まぁ、いいや。それで? そっちはどんな感じよ?』



「それは――」



 そうして。

 俺はクランク兄さんに近況報告をした。


 クロウシェット国に行ったこと。

 その国の第一王女が帝国三騎士の人に殺されちゃったこと。

 クロウシェット国の魔物問題は解決したが、帝国と戦争になっちゃいそうな事。



 などなど。

 クランク兄さんと別れてからの出来事を全て話した。


 その上で俺はクランク兄さんに尋ねる。



「ねぇクランク兄さん。この詰んじゃってる状況をどうにかする逆転手……なにかないかな?」


『………………』



 ダメもとで聞いてみるも、クランク兄さんの返事はない。

 どうしたんだろう?

 もしかして魔晶石の故障かな?



「おーい。クランク兄さーん? もしもーし」



『お…………』



「お?」



『お前……色んな事に巻き込まれ過ぎだろバカヤローーっ!!』



 そうして。

 俺の頭の中、そんなクランク兄さんの声が大きく響き渡るのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る