第6話『リルカの戦い-5』
「――あんまり人間なめんじゃないわよ、魔人」
そんな私の言葉にうつむくギルベルト。
諦めたのかしら?
そこで私はギルベルトの肩がふるふると震えている事に気付いて――
「クックク。はは。アハハハハハハハハハハハハッ――」
顔を上げ、狂ったように笑うギルベルト。
その表情はなぜか歓喜に満ちていた。
「素晴らしいっ! そうだ。それこそが人間なのだっ。決して諦めない。不可能を可能にする。絶望に抗い、奇跡を起こす。我々より短命であるがゆえ、その命の炎は時に一気に燃え上がる。あぁ、なんと眩しい事か」
「なに……笑ってんのよ」
おかしい。
こいつは今、不利なはず。
雷の速度には敵わない。
ギルベルト自身もそう認めたはず。
なのになぜ?
なんでこいつはこんなに嬉しそうに笑っているの?
「クク。これが笑わずにいられようか。エクス卿の敵となりえる者が現れたのだよ? 臣下として、それを喜ばない訳があるまい」
確かに。
こいつらの目的は帝国三騎士エクスの敵となりえる存在を生み出す事。
だから争いの種を振りまいていると。そう言っていた。
けど。
「その結果、アンタはいま不利な状況に居るんだけど?」
目的の成就に一歩近づいたところで。
いや、エクスの敵となりえる存在を生み出すという目的の成就に近づいたからこそ。
こいつは今、不利な状況になっている。
それなのに喜ぶなんて、どうかしている。
そう暗に私は言うが。
「それが?」
狂人がそこに居た。
「先ほども言っただろう? あの二人がレゾニアを倒せばエクス卿はお喜びになるだろうと。それは私が倒されても同じこと。そしてエクス卿の喜びは臣下の私にとっても喜びだ」
エクス卿エクス卿エクス卿。
こいつ、ギルベルトはそればかり。
そのエクス卿の為なら、自分が滅びてもいいとすら思っていそうだ。
「狂ってる……」
「否定はしない。さて、そろそろ無駄話はいいだろう? 決着をつけよう」
「そうね。これ以上話してたら頭が変になりそうだもの」
絶対に負ける訳にはいかない。
こいつを倒して、レゾニアを倒して、エクスって奴も倒す。
そうして私は。
大切な物を守るのよっ!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
雷が鳴る。
風が吹き荒れる。
私という雷はその場で力を溜める。
そのとき、ギルベルトが流れるように風に舞う姿が見えて。
「その
即座に対処法を考え、実行に移そうとしているギルベルト。
私の攻撃を避け、カウンターを狙うって訳ね。
だからこそ奴は私の動きをよく観察するべく距離を取ってこちらを観察している。
「さぁ、どうする!?」
「突っ込むっ!!」
待ち構えるギルベルト。
奴に向かい、一直線に私という雷が走る。
「づっ――」
その雷を。
私の初動だか予兆だかを感じたのか。
ギルベルトは私が動くのと同時か、それよりも先に思いっきり横っ飛びに飛ぶことで回避していた。
「――勝ったっ!! 次の攻撃に移るまでの思考の合間。そこに私が一撃を加えれば君と言う雷は制御を離れ、
勝ったと確信するギルベルト。
実際、一撃もらえば私はたぶん雷の制御を狂わせ、結果消滅する事になるだろう。
けれど、そうはならない。
「しゃぁっ!!」
バリィッ――
「な………………に………………?」
反撃に移るまでの隙など与えず。
初撃を避けられた私はすかさず回避行動を取った奴へと追り、二撃目の
その蹴りをギルベルトはまともに喰らう。
「あれほどの速さで……直線的な動きのみでは……ない?」
雷の速度。
そんな速度で動く私が即座に横方向へと回避行動を取った自分へと追いつき、しかも二撃目を放てるだなんて想定すらしていなかったらしい。
そんなギルベルトに私は言ってやる。
「アンタはまっすぐに落ちてくる雷を見た事があるの?」
それを聞いて。
ギルベルトは薄く笑い。
「ない……な。ふ、ふふ。なるほど。確かにそうだ。クククククク」
よろけるギルベルト。
そのまま奴は力なく倒れる。
「速さに自信のあった私だが……天災である雷には勝てるはずもなかった……か……」
そう言って。
ギルベルトは動かなくなった。
そこで私はスキル『雷神招来』の力を振り
雷と化していた私という存在を元の姿へと戻してからスキルを解除する。
「っ――」
瞬間。
私もギルベルトと同じように倒れてしまう。
(魔力の使い過ぎ……ね。そりゃそうなるわよね。あれだけの無茶をしたんだから)
スキル『雷神招来』を使用する為には多大な魔力を消費する必要がある。
そんなスキルを私は全力全開で使った。
もう既に体も精神も限界だった。
「ギル……ベルト……は?」
もし、まだくたばってないのならとどめを。
そう思ったのだが、幸いと言うべきか。
もう既にギルベルトは呼吸もしておらず、脈もない。
完全に死亡したと。そう思っていいだろう。
「後は……レゾニア。ビャクヤ、ティナ」
残るは三騎士のレゾニア。
ビャクヤとティナはまだ戦っているはず。
今の私ならレゾニア相手でも戦える。
「行か……ないと……」
二人を助けるために。
レゾニアを倒す為に。
「うっ――」
そうすべきなのに。
私の身体はちっともいう事を聞かなくて。
私は気を失ってしまうのだった――
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