第12話『終幕』


「……え? マジで?」


 俺は思わずそんな間抜けな声を出してしまう。

 でも、それも仕方ない事だと思う。


 だってこのエクスさん。リルに腹を貫かれてたように見えたのにピンピンしてるんだもの。


「ちっ。なによ。全然効いてないじゃない」


「いいや? 効いているとも。少しだけしびれるような感覚があるからな。数百回同じように攻撃されれば、あるいは俺も倒れるかもしれん。試してみるか?」



 いやいやいやいや。

 あのリルの攻撃を受けてちょっと痺れるだけって。

 どんだけ頑丈なんだよ。



「Ηλιακή Εκδίκηση。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」




 続いてティナ。

 彼女はその手に光を溜め、背後からエクスを強襲。

 エクスの後頭部へとティナの拳は炸裂さくれつして。




 ――ドォンッ



 凄まじい衝撃音。


 ティナの操る古代魔術。


 その光は何物をも破壊する破滅の光。

 かするだけでも重傷を負い、直撃すれば相手が魔人といえど破滅は免れないというものらしい。


 なのに――



「ほぅ。凄まじい威力だ」



 もろに後頭部へとティナの一撃を喰らったはずのエクス。

 それなのに、ピンピンとしていた。


 そのまま奴はティナの手を掴み。



「くっ……。きゃぁっ――」



 強引に投げ飛ばした。



「ティナッ!!」


「大丈夫だから撃って!! 今なら――」


 投げ飛ばされながらも俺に撃てと言うティナ。

 しかし、相手はティナやリルの攻撃すら通じない相手。


 そんな相手に銃をぶっ放したところで効くだろうか?

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」




 などと思いながらも俺はショットガンを取り出す。

 そして――エクスに向かって引き金を引いた。




 ズガァンッ――




 響くショットガンの発砲音。

 エクスは避ける事すらしなかった。

 命中はした。



 だけど、こんな攻撃なんて効くわけもなく――



「………………なに?」



 よろめくエクス。

 おや?



「なんだ、これは? 痛み? この俺が痛みを感じている……だと?」



 あれ? 効いてる?


 リルの雷撃をまともに喰らっても平気な顔をしていたエクスが。

 ティナの光の一撃を後頭部に喰らってもよろめきもしなかったエクスが。


 今、ハッキリと苦悶くもんの表情を浮かべている。


 ならば、やるべきことはただ一つ!



「オラァっ!」



 ズガァンッ――

 ズガァンッ――

 ズガァンッ――



 撃つ。撃つ。撃つ。

 撃って撃って撃ちまくる!!

 エクスめがけて俺はショットガンを連打して――




「くっ――」



 避けられた。

 リルやギルベルトほどの速度じゃないけれど、避けられた。

 


「あり得ん……。なんだこれは? 銃撃ごときがこの俺に傷を?」



 俺の銃撃を避けた後。

 エクスは困惑しているみたいだ。

 それほど俺の攻撃を喰らってダメージを受けた事が不可解らしい。


 なにせ俺にとっても不可解だからね。

 そりゃ不思議にも思うだろう。



「私やリルカの攻撃は通じなくても、ご主人様の攻撃は効くと。そう思ってた」



 そんな中、ぽつりと。

 静かに立ち上がりながらティナが口を開く。



「魔人エクス。私はあなたの特異性はその異常な耐久力にあると判断した。どんな方法でかは知らないけど、あなたは私やリルカの一撃を受けても平然としてたから」



 確かに。

 見た感じ。別にエクスはレゾニアのように範囲攻撃に秀でているわけでもなく。

 ギルベルトのように異常に速いわけでもなさそうだったからな。


 ただ、ティナやリルの一撃を喰らってもよろめきもしないくらい固いだけ。

 とはいえ、それはそれで恐ろしい異常性だ。


 なにせ敵の攻撃のほとんどを跳ね返すんだから。

 攻撃を喰らってもダメージを受けない。

 そんな状態で戦い続けられるなら、負ける事などあり得ない。

 


「でも、そんなあなたでもご主人様の攻撃だけは防げない。あなたの防御を貫通して一定のダメージを与える。それが――ご主人様の『TPSプレイヤー』の特徴の一つ」


 え?

 そんな特徴あったの?


 いや、確かにティナには俺のスキルについて色々と話したけど。

 そんな特徴。俺も知らないよ?



「てぃーぴー……えす? 銃器創造のスキルでは……ない?」


「違う。ご主人様の世界の遊戯の一つ。それがTPS.。全員が同じ条件で武器を取り合い、敵を倒して一人の勝者を決める。身体能力が優れてるとか。そんなの関係なしの世界。その世界の法則をご主人様はこっちの世界に持ち込んでいる」


「法則だと? それが俺の肉体を銃ごときで傷つけた事と何か関係が?」


「ある。ご主人様のTPSプレイヤーの特徴。その一つは相手が誰であろうと一定のダメージを与える事だと思われる」


 そんな特性が『TPSプレイヤー』に?


 確かにTPSにおいては相手が誰かとかは全く関係なくて、あくまで相手のどの部位に銃弾が当たったかでダメージ判定が入る。


 目の前の相手が超人だろうがなんだろうが与えられるダメージに変わりはないのだ。



 その法則を俺はこの世界にも適用させてた?

 そんな覚えはないが……とりあえず今までの事を思い返してみよう。


 それは例えばレゾニアとの一戦。

 そういえば、あいつも俺の一撃をもろに受けてかなり動揺しているように見えた。


 いや、それだけじゃない。


 ティナを探しにロウクダンジョンに潜った時もそうだ。

 あの時、俺はティナを追い詰めていた少女を撃った。


 通じないだろうと思いつつ、けれどティナを助けたいと思って撃ったのだ。


 すると、ティナとあれだけ激しい戦いを繰り広げていたはずのあの少女が俺の銃撃を受けただけで倒れた。



「あなたがどれだけ固くとも。どんな攻撃も通じないほどの防御力を持とうとも。ご主人様からすれば関係ない。レゾニアやギルベルトの方がよっぽどご主人様にとって厄介な敵だっただろうね」


「ふざ……ふざけるなぁぁぁぁっ!!」


 ティナの話を聞いて。

 これまで尊大そんだいな態度を貫いていたエクスが怒りの声を張り上げた。



「認めん……認めんぞっ。なんだそのスキルは!? この俺の努力を。研鑽けんさんを。馬鹿にしているのかっ!!」


 怒っていた。

 俺の努力を踏みにじるなと。そう目の前のエクスは激怒していた。


「体を鍛え、あらゆる死線を超え。そうする事で俺は強靭な肉体を手に入れた。この肉体一つであらゆる敵をほふってきた」


 それはエクスにとっての誇りだったのだろう。

 体を鍛えて、鍛えて、鍛えまくって。

 そうして手に入れた傷つかない強靭な肉体。


 しかし。


「だというのに……そんなもの関係なく誰にでも一程のダメージを与えられるだと!? この俺をそこらの雑多ざったと変わらないとでも言うつもりか!?」


 その鍛えまくった果てに手に入れたらしい強靭な肉体を俺のTPSプレイヤーは関係なく貫けてしまう。

 その事実がエクスにとっては我慢ならない事らしく。

 

「貴様っ。馬鹿にするのもいい加減にしろっ! 俺はこのような陳腐ちんぷな戦いを望んだわけでは断じてないっ! 求めるのは血沸ちわ肉躍にくおどるような戦い。互いの全てを出し切るような戦いこそを求めていたのだ。それをぉぉぉっ!!」


 戦いを。

 血沸き肉躍るような戦いを。

 全てを出し切れるような戦いを。


 そう叫ぶエクス。


 それはまるで戦いのみを求める狂戦士のようで。

 正直、やかましい上に不快でしかなかった。



「うっせぇっ!!」


 パァンッ――



 長々と恨み言を吐き続けるエクスの脳天に俺は銃弾をプレゼントした。

 使用したのはショットガンではなく、普通のピストル。



 一番手軽に使える銃。

 特に変わった特徴もない銃。




「っ――――――」



 そんな銃撃をまともに受け。

 エクスは俺を睨めつけ、頭から血を流しながらその場に倒れるのだった。


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