3-59 勇者の剣を引き抜こう!(地球帰還大作戦⑧)


 ――お願い神様! あたしたちの中のダレカが世界を救う〝勇者〟であって……!

 

 マロンの魔王的攻撃ので発生したなんかうごめくヤバい【闇の手バケモノ】退治のために。

 地下倉庫から持ってきていた聖なる力を秘めた〝勇者の剣〟を使うことをクラノスが提案してきた。

 そのためには剣に【勇者】として認められることが必要そうだけど……そんな〝あたしたちのうちのだれかが勇者だった〟なんていう都合の良い展開なんてあるのかしら……。

 

「んあ、オレ様に貸してみろ」


「……アーキス!」


 名乗り出たのは筋肉王子・アーキスだった。


「確かに日記帳の鍵も一瞬で粉砕したアーキスならどうにかできるかも……! やっちゃえ、アーキス!」


「任せとけ……ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


 彼は体中の筋肉を膨張させながら力をこめる。


 しかし……。


「くそが……抜け、ねえ……! ぜぱああ、ぜぱああ……オレ様の筋肉をもってしても抜けねえとはな……! 仕方ねえ、シショー!」


『『がうがうがううううう……』』


「……! たしかに! いくら封印がなされたって、こちとらチート級の力をもった大怪獣モンスター軍団がいるのよ! 彼らにかかれば勇者の剣だろうがひとたまりもないわ!」


 勇者として認められる、という選択肢はもはや除外してにでることにした。

 だって、たまたまあたしたちのだれかが勇者である確率よりも、そっちの方が可能性高そうだし。


「シショーはモンスターじゃねえ」と言いながらもアーキスは剣をシショーの手の元に放り投げる。「あともなくして壊しちまったら意味ねーだろ!」


 アーキスは意外と常識人だった。

 彼が投げた剣はシショーの掌の上でぽふんと弾んでおさまった。


『『がう、がうがう……がううううううううううううううううう!』』

 

 そして満を持して剣束と柄を爪先でつまみ思い切り力をこめるが――

 ほかの巨大モンスターたち『だからモンスターじゃねえって!』も集まって手伝ってくれたけど。

 それでもやっぱり抜けません。……なんかそういう童話みたいになってきたわね。大きな的な。


『『……オォォオオォ!』』『『オォォオオォ――!』』


「きゃああああああっ!」


 勇者の剣が抜けなかったことに安堵したかのように、その異界から滲出してきた【黒い手】たちは攻撃のを強めていった。手だけに。


「ここまでして抜けないなんて……やっぱりホンモノの勇者の剣なんだよ!」


 クラノスが興奮気味に言ってきた。

 どうして塔の地下倉庫に〝勇者の剣〟が埃被って雑に置かれてたのよ……というあたしのツッコミは無視して彼は続ける。


「だったら剣を抜く方法はひとつ。単純で簡単で明快で、ある意味もっともな方法――つまり【ホンモノの勇者】をどうにか探し出して抜いてもらうんだ!」


「ちょっと待ちなさいよクラノス! さっきから言ってるように、あまりにも〝候補者〟が少なすぎるでしょ」


 ホンモノの勇者を探そうにも、この場所には1人のか弱いお姫様(あたしのことだよ☆)と7人の残念な王子様しかいないのだ。

 そんな中でホンモノの勇者を〝引き当てる〟確率なんて、それこそ砂漠に紛れたダイヤモンドの粒を拾うようなものだ。

 

「そんなに都合よく【勇者】がこの中になんているわけがないわ……」

 

「文句ばっかり言ってたって仕方がないさ。みんな! 順番にこの勇者の剣を引き抜いていくんだ!」


「あ、抜けたべさ~」


「「勇者見つかったあああああああああああああああああああああああ!!」」


 即抜けた。

 剣のつかを引き抜いたのは――

 

「こ、これで良かったんか……?」

 

 眉と目が近すぎる彫深フェイスを、どこか不安そうに歪ませる訛り系王子・イズリーだった。


「あんたが勇者だったんかあああああああああああああい!」


 ばしゅううううううううううう!

 刹那。抜けた剣身からまばゆい光が溢れ出した。

 

「「うわああああああああ!?」」


『『……オォォオオォ!?』』『『オォォオオォ――!!』』


 闇黒世界からやってきた【漆黒の破壊手】たちも、その光に怯んだようだった。

  

「な、なんだかおら、体中から力が湧いてきたような気がするべ……!」


 イズリーが三白眼の瞳をきらきらと輝かせ始めた。

 心なしか、その全身からも湯気のように神々しい圧気オーラが立ち昇っている。


「今のおらなら、なんでもできる気がするっぺよ……!」


「あーもう! 色々納得いかない部分もあるけど〝奇跡〟が起きたってことでいいわね!? いっけえ、イズリー!! 【勇者の力】で、あんなよくわかんないごちゃごちゃしたヤツやっつけちゃえーーーーーーー!」


「了解したべ~!」


『『オオオォォ――!?』』

 

 きりりという表情と、訛った言葉が世界一似合わない【勇者様】だったけれど。


「んだあああああああああああああ!」


 などという、あたしをツボに突き落とす掛け声とともに。

 イズリーは輝く剣を無数の【闇黒の手】に向けて振るっていた。

 

『『オオオォォ――!?』』『『オオオォォ――!』』『『オオオォォオオオオオオ……』』

 

「んだ! んだ! んだ! んだ! んだあああああああっ!」


 勇者の威光をまとった剣はいっそう輝きを増していき。

 傍若無人に蠢いていた闇の生物を跡形もなく浄化し消し去っていった。


「す、すごい! すごいわ……!」

 

「んだあああああああああああああああああああああ!!」


 そして最後の一閃とともに。

 【黒い手の化け物】は完全に消え去った。


 世界をよどませるように残っていた、夜よりも黒い【闇黒】は、勇者・イズリーの手によって葬られた。 


「イズリー! あんたが勇者よ!」


 イズリーはそこで目をぱちくりさせて、照れくさそうに頬をかいた。

 

「んだ……おらが【勇者】ってことは……これでべか……?」


「……あ」


 ――おらが村の〝名誉〟になるような、皆が納得さしてくれる〝偉大な称号〟を手に入れるために――


 そんなふうにイズリーは、承認欲求モンスターと化した村の老人どもによって旅に出されたんだっけ。


「おらが村が〝勇者〟を輩出したってなれば、村のじじたちも満足してくれるべか……?」


 不安そうに言うイズリーに向かって、あたしは言ってやった。

 

「当然よ! なんてったって【勇者】の称号なのよ? おつりがくるくらいよ!」


 あたしはにっこり笑いながらイズリーの未来について想いを馳せて続ける。


「あ、そうそう。ついでに手に入れたその勇者の力で、村の害悪老人どもを全員ぶっとばしちゃいなさい!」


 イズリーは分かっているのかいないのか、やっぱりどこか恥ずかしそうに『んだ~』とはにかんだ。


「はっ!? ついでといえば……イズリー!」


「んだ?」


「あんた、せっかく勇者の剣を手に入れたんだから! ほら! 月!」


「……んだ!」イズリーはそこでピンと来たように頷いて、「分かったべさ! ついでにおらも、この勇者の力で星を〝本気で〟攻撃するべ~!」


「よろしく――って、え?」


 、という不穏な言葉がちらりと聞こえたが、時すでに遅し。

 イズリーは『んだあああああ』というやっぱり何度聞いてもツボな掛け声とともに、勇者の剣で――この星を一閃した。


 刹那。

 剣先からとてもじゃないが〝ついで〟とは思えない衝撃破が発せられた。


「きゃああああああ!?」


 光の明滅に対して音が随分と遅れて聞こえた。

 それほどまでの速度で――イズリーの剣は空を。大地を。世界を


「んだんだんだんだんだんだんだんだ!!!!!」


「す、すごいわ……! これまでの攻撃以上よ……!」


 さすがは【勇者】と言ったところだろうか。

 イズリーという【訛り勇者】と雑多に地下倉庫で埃をかぶっていた【ゆうしゃのけん】の組み合わせは、ついに――


「んだああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 この星の軌道を。


 刹那。ごとりと。

 

 

 ――


 

「月、動いたーーーーーーーーーーーーーーー!」


 

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