1-11 塔に名前をつけよう!


~前回までのあらすじ~

 ゴンタロが二号さんになった!


     ☆ ☆ ☆


 残念なニセモノ王子たちが塔に棲みつくようになってから、数週間が経った。

 塔での生活にも慣れてきたようで、それぞれが自由気ままに過ごしている。

 

 3人はなにか特別なことがない限りは、自分の部屋ではなく8階の大広間LDKに集まって、日々様々な〝め事〟を起こすことが多い。


 お陰様であたしはひとりだった時と比べて、非常にめまぐるしい生活を送っている。


 ――この苦労も王子様との憧れの〝同居生活〟の弊害かしら。


 などというお花畑な妄執もうしつに駆け込もうとしたこともあったけれど。


 目の前の食卓でいい年こいた男たちが『貴様のおかず、我よりも多くはないか?』『そんな些細なこと気にするなんて、見かけの割にみみっちいね』『(食べる前から)おかわり~!』だのなんだの、くだらないことで言い争い(やがて武器ステゴロ魔法その他なんでもありのデスマッチ方式へと発展する)を繰り広げる様子を見ていると……。


「最強に大人げのない〝でっかい子ども〟ね……」


 はあああ、と深いため息を吐いてからあたしは怒鳴りつける。

 

「もー! そんなに毎日喧嘩ばっかりするんなら〝この塔〟から出て行きなさい!」


 ぴたり。

 3人の動きが止まった。あたしの呆れが伝わったのかしら。


「そういえば、だが」


 しかしこいつらは残念王子。

 行動は想像の斜め上をいく。


「〝この塔〟の名前はなんというんだ?」


 ミカルドが急にそんなことを聞いてきた。


「え? 別に。特にないけど……」


「特にない、だと!?」


 がたり、ミカルドが前のめりになって立ち上がる。


「うん。だって特につける必要性を感じないし……一応確認してみるわね」


 あたしはソファに座ったまま居間の奥を振り返って。


 ――【ゴンタロ二世】に聞いてみることにした。


(ちなみに、ゴンタロの代わりは地下倉庫でたくさん見つかったが、ぜんぶでひとつの意識? を共有してるみたいで、数が増えた分1日の魔法使用量が増えたわけではなかった。ま、今でも充分すぎるほど恩恵に授かってるのだから、文句なんてひとつもないけど)


「ゴンタロ! ――この塔に〝名前〟ってあるの?」


 ゴンタロはぽわわわわ、と小さく発光してからいつもの調子で答えてくれる。


『名ハェミテェダナ!』


「うん、やっぱりないみたい」


 その答えにミカルドの表情がより険しくなった。


「名前がなければ不便だろう。呼ぶときにはどうしているんだ」


「えっと、ふつうに……〝この塔〟とか」


「な、なんという無礼な……!」


 無礼て。

 あんたさっき『〝この塔〟の名前はなんというんだ?』って思いっきり言ってたじゃん。


 しかしそんなダブルスタンダードの摘発てきはつは、目の前の『我最強、故に我最強』の自己中キザ王子に通用するわけもなかった。


「これだけ長い時間を共に過ごしておいて、名すらつけていないとは……この人でなし! いや、違うな――」


 ミカルドはびしっとあたしのことを指さして、叫んだ。


「この、塔でなしーーーーーー!」


「なんでよ!」


 

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【塔の上のカグヤさま☆】

 第11話

   『塔に名前をつけよう!』の巻

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「う~ん。名前を考えるのって、結構難しいね~……」


 マロンがペンを鼻先と上唇で挟みながら言った。


「頭が蒸発しそうだよ~……」


「それを言うなら〝沸騰〟ね。蒸発って、脳が完全に無にしちゃってるじゃない……」


「ふはは、それこそまさしく〝脳無し〟だな」ミカルドが小馬鹿にするように言った。


「あはは。ミカルドってば自虐ネタかな? 面白ーい」クラノスが嫌味ったらしく笑う。


「む? それ以上に我をけなせば貴様を〝蒸発(物理)〟させるぞ」


 とか、なんやかや。

 相変わらず3人の間(特にミカルドとクラノス。暮らしてみて分かったがこの2人は犬猿の仲なのだ)には一触即発の空気が漂っている。っていうか『人を蒸発(物理)させる』ってなんなのよ、ワードが怖すぎるわ。


「はいはい、喧嘩するなら外で! 今は名前を考えるのに集中しましょう」


 あたしは話題を元に戻す。

 ミカルドによる理不尽にも思えた無礼摘発ぶれいてきはつによって。


 ――あたしたちは〝この塔の名前〟をつけることになった。


 最初はあんまり気が進まなかったけど。

 別に、あって困ることはなさそうだし。


「うーーーーん……」


 どうせだったら素敵な名前をつけてあげたいな――


 なんてことを考えながら、あたしも机に向かってペンを握る。


 ――うーん。塔ってそもそも男の子なの? 女の子?


 どんな名前がいいんだろ……。


「ねえねえ、カグヤ~」


 悩んでいたらマロンが声を掛けてきた。


「あのさ。実はおれ、最初にこの塔を見たときにひらめいた名前があるんだけど……」


「あら、そうなの?」


 悩んだ挙句に最初に浮かんだ名前が一番良いってことはあるのかもしれない。

 初対面でのインスピレーションって大事だし。


「どんな名前?」


「えっとね~」マロンが空に指を立てて言った。「――『ドルアーガ』って言うんだけど」


「うーーーーーーん……」あたしはたっぷりと考えてから、「なんだか怒られそうだからやめておきましょうか」


「え~! かっこいいと思ったのに!」


 塔の名前は『ドルアーガ』――

 うん。確かにかっこいいけれども。

 なぜかあたしの勘が絶対に止めておくように忠告してくるのよね。


「まあ、候補に入れること自体は別に良いんだけど……きっと選ばれることはないと思うわ」


「なんで断言するのさ~?」不思議そうにマロンが首を傾げた。


「なんとなくよ」


「あ、それならボクも、実は最初から思い浮かんでた名前があったんだよね」


 続いてクラノスが言った。

 あたしは一抹いちまつの不安を抱きつつも、聞いてみる。


「ちなみに……どんな名前かしら?」


「結構自信ある名前なんだけど――『ラプンツェル』ってのはどうかな?」


「うん。もっと怒られそうだからやめておきましょう」


 あたしは即その選択肢をぶった切った。

 ふー。危ない危ない、下手すりゃ捕まるぞ……ってあたしの勘が忠告してきたわ。

 今回に関しては候補にすら入れるまでもない。絶対に不採用よ。


「ちぇー、決まりだと思ったのに」


 クラノスが残念そうに唇を尖らせる。

 本当に無自覚なのかな……腹黒王子の真意は分からない。


「あ!」続いて彼はぽおんと手を打って、「追加でいいの思いついた! こういうのはどう? ――ミッk」


「そいつは特に真っ先に消せやああああああ!」


 慌ててクラノスの口を塞ぐ。

 このままいくと、始まったばかりのあたしたちの物語が打ち切られかねない。


 ……ってあたしの勘がこれまでで最上級の警鐘を鳴らしてきたわ。


「ってか、あんたやっぱり確信犯ね!」


「え? なんのことぉ?」


 クラノスが、なんか夢の国に出てきそうな感じで可愛く首を傾げた。

 

 

     ☆ ☆ ☆



「ふう。そろそろいいかしら」


 引き続き、塔の名前を付けよう! のコーナー。


 ちなみに3人はあたしが提案した『採用された人は一週間おかず大盛り』というやっぱりどこまでも子どもっぽい賞品をゲットするべく、瞳をぎらつかせながら真剣になって考えてくれている。


 ……ほんっと、単純な王子様だこと。


「できた~~~!」「我もだ」「ボクもっ」


 かたり。3人が同時にペンを置いた。


「おつかれさま。時間もたっぷりあったし、なかなか良い候補が出たんじゃないかしら」


 ふう、とあたしもおでこを腕で拭う。


「ああ、どれも自信作ばかりだ」

「負ける気がしないね~!」

「最終的に選ばれるのはボクのだし」


 達成感溢れる彼らの表情からするに、相当の自信があるようだ。


「それは楽しみね。どれどれ、早速みてみましょう――」 


あたしはそれぞれが考えた〝塔の名前の候補〟が書かれた紙を預かって、一枚ずつテーブルに並べていく。



「ひととおりが出揃ったわ。これが候補の名前たちね!」







『ドルアーガ』『アトム』『ドラエモン』

『エヴァ』『プリキュア』『コナン』

『ポケモン』『カービー』『マルコ』

『アンパン』『トロロ』『サザエ』



     ☆ ☆ ☆



「うーーーん、やっぱり名前つけるのやめましょう!」


「え~! なんで!? せっかく考えたのに~」マロンが不服そうに言う。


「だ、だって……このままだと気がするのよ」


「ふむ。確かにどれも素晴らしい名前だ。この中からひとつに絞るのには時間がかかりそうだな」ミカルドが顎に手を当てながら言った。


「え? 本当にこの中から選ぶ気……?」


「うーん、白熱してきたね」クラノスがどこか楽しげに言う。「簡単には終わらなさそうだし、塔の名前付けは次回に持ち越しかな……」


「嘘でしょ!? こんな話題で回またいじゃうの!?」


「おれももっと他の候補考えておこ~っと!」


「これ以上ややこしい名前増やさないでえええええええ」



 次回に続く!




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まさかの話題持ち越しに……!

はたして塔の名前は決まるのでしょうか。

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