1-12 塔に名前をつけよう!【白熱篇】


~前回のあらすじ~

 カグヤたちは、異世界で法律ギリギリのラインを攻めていた!


     ☆ ☆ ☆


「うーーーーーーーーーん…………」


「どうしたカグヤ。そんなに首をひねって」


 ミカルドの言う通り捻りすぎて180度回転しそうになっていた首を、慌てて元に戻して。


 3人が考えたオリジナリティ溢れる〝塔の名前候補〟をあらためて確認する。



『ドルアーガ』『アトム』『ドラエモン』

『エヴァ』『プリキュア』『コナン』

『ポケモン』『カービー』『マルコ』

『アンパン』『トロロ』『サザエ』



 この中から、塔の名前をひとつに絞る必要があるのだが――


「あたしには、とてもできる気がしないわ……」


「え? そんなにだった?」マロンが心配そうに聞いてくる。


「そんなわけないじゃない!」あたしは喰い気味に否定した。「どれもとっっっっても立派な名前だわ。それだけで一世を風靡ふうびしそうなくらいにね」


「であれば、なぜそのように怪訝な表情を浮かべる必要がある」ミカルドが眉間の皺を深くさせる。


「う~~~~~ん……やっぱりなんだかするのよねえ。本当にこの中から決めちゃっていいのかしら」


「なにか問題でもあるのか?」


「そうね……オリジナリティ、とか?」


「ふはは、そうか。カグヤはこの塔に閉じこもっているから世間のことが分からないのだな」


 ミカルドが片側の口角を上げて自信満々に言った。


「安心しろ。どの名もこの世界にはふたつとない、完璧なオリジナリティに溢れたものだ」


「……ふうん。この世界ねえ」


 あたしの首が、ふたたびありえない角度で回転を始める。


「なんかさ、見たことあるような気がするのよね。すごく」


「気のせいだろう」ミカルドは続ける。「名付けとは、その者に〝魂〟を与える神聖な行為だ。我々は懸命に塔のことを想い――決して誰にも真似されないような、唯一無二の名前を必死に考えたのだぞ」


 真剣な表情で説明するミカルドに、ほかの2人も同調してきた。


「名前は言霊ことだま――なんの理由もなしにだれかと被るなんてありえないさ」


「うん! どの候補ひとつとったって、見たことも聞いたこともないよ~」


 そこまで言う彼らの名前案に、あたしは再び視線を向ける。



『ドルアーガ』『アトム』『ドラエモン』

『エヴァ』『プリキュア』『コナン』

『ポケモン』『カービー』『マルコ』

『アンパン』『トロロ』『サザエ』



 やはり。何度見たって。


「なーーーーーーーーーーんかモヤモヤするのよねえ……っていうか! 後半とかなんか雑な感じするし!」


「あ、そのへんのやつはおれが考えたんだ~!」


 ご飯大好きマロンが得意げに手を上げた。


『アンパン』『トロロ』『サザエ』


 ――確かに食べ物の名前ね。一見すればなにも問題はないはず。


「……はず、なんだけどさ」


 この並びの中に入れると、なぜだか危険な香りがしてくるのよね。

 まあでも、マロンが食べものに思い入れがあるのは事実だし。

 うん、きっと他意はないのよね。素直な気持ちで受け止めましょう。


「って……なに付け足してるの?」


「あ、やっぱりこっちの方がいいかなあって思って」


 なにやらマロンが文字を追加で書き込んでいた。

 それを見て、あたしは目を見開く。


「おい! トロロの前に〝隣の〟ってつけるな!」


「え? どうして……? おれの家の隣のミヤさんの畑でとれるトロロ芋って意味だけど……」


「そう受け取ってもらえない可能性もあるのよ。あとミヤさんってだれよ! 紛らわしい具体名を出さないでちょうだい」


「でも、めちゃくちゃ美味しいんだよ? となりの(家の)トロロ」


「〝家の〟を略すなやああああ!」


 一番大事なところやろがい、と息を荒げていると、今度はミカルドが挙手をしてきた。


「我も追加で思いついたぞ」


「嫌な予感しかしないけど、一応聞いておくわ。どんな名前?」


「我ながら、これはかなりの自信がある――『キルミーベイベー』というのはどうだ」


「キルミーベイベー」


 あたしはミカルドが言った、いよいよ本当に初めて聞いた響きの言葉を繰り返す。


「……うーん。なんだろ……なんていうか……〝達してない〟感じがしないかしら?」


「な!? 『キルミーベイベー』のどこに不足があるというのだ?」不服そうにミカルドが言う。


「ここの中に並ぶのには、ちょっとね……」


「そんなもの、実際にやってみねば分からぬだろう」


 なぜだか並べる前からどうしようもなく分かる気もしたが、一応やってみた。



『アトム』

『ドラエモン』

『キルミーベイベー』

『ポケモン』



「……やっぱり絶対おかしいでしょ!」


「そうだろうか。他の候補に劣らぬ名だと思うが」


「確かに存在感はすごいけど! 棲む世界が違うわよ」


「なぜそれをカグヤが断言するのだ」


「勘よ! あたしの勘!」むきー、とあたしは声やらなにやらを荒げて訴える。「とにかく、ここにいちゃ駄目なのよ。キルミーベイベーは」


「なっ!? 失礼だぞ!」


 キルミーベイベーに謝れ! とミカルドは語気を強めていたが。


 なにより他の偉大なる名前たちに対して失礼な気がしたので、あたしは『キルミーベイベー』と書かれた紙をくしゃくしゃにして天井裏に投げてやった。殺し屋でも隠れていればきっと処理してくれることでしょう。


「ふう。これで一段落かしら」


「――あれ?」


 息を吐いて安堵していると、クラノスが思い出したかのように言った。


「そういえば『ラプンツェル』はどうしたの?」


「ああ、あれはガチでやばそうな気配がしたから選択肢から抹消したわ」


 あれを放っておくと、なんだか世界全体を巻き込んだ争いに発展しそうな気がしたのよね。

 別に、やましいことなんて少しもないのだけれど。なんとなく、ね。


「ふうん」


 とクラノスはどこかつまらなさそうに目を細めた。


「ってかさ、そういうカグヤが考えた名前はどうなのさ?」


「たしかに」「そういえば」2人も同調する。


「え?」とっさにあたしは、自分が書いた名前候補の紙を背中に隠す。「あ、あたしのは別に……気にしなくていいわよ、うふふ」


 ――確かにみんなの候補に文句はつけたけど、自分のはあんまり自信がないのよね。


「ほら、あたしのはもういいんじゃない? これだけ候補が揃ってるし」


 どうにか誤魔化そうとしたけれど。

 ずい、と3人は圧をもって迫ってくる。


「とはいえ、家主の提案は尊重されるべきだろう」とミカルド。


「塔とも長い時間を過ごしてるわけだしね。名前に込める想いは一番強いに決まってるよ」とクラノス。


「カグヤが考えた名前、たのしみ~!」



「ハードル上げないでえええええええええええ」



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はたしてカグヤの考えた候補とは……?

次回、ついに塔の名前が決定!

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