1-13 塔に名前をつけよう!【決定篇】


~前回のあらすじ~

 カグヤたちの住む塔のが、佳境にさしかかっていた!


     ☆ ☆ ☆


「家主であるカグヤが考えた名前だ。さぞかし素晴らしいものに違いない」


「ハードル上げるのやめてってば!」


 自分が考えた名前候補の紙を、背中に隠してみたけれど。

 3人は手を前に構えてぐいぐいと迫ってくる。


「あたしのは別に、気にしないで? ね?」


「人が必死に考えたものには文句をつけておき、自らの案は見せずにおこうとは許しがたい」


 ミカルドが意地の悪そうな声色で言った。


「あ! ちょ、ちょっと……! きゃあっ」


 3人に詰め寄られて、ついに後ろ手に回していた紙がはらはらと地面に落ちた。


「! あたしの考えた名前が……!」


「ほう、どれどれ――」






『とう☆』『とう♡』『とう♪』

『トーチャン』『トークン』『トーシロ』



「「うっわ、語彙力ねええええ……」」


「う、うるさいわね! これでも真剣に考えたのよ!」とあたしは憤ってみせる。


「それにしたって……塔の名前をつけるのに、そのまま『とう』ってどうなのさ。カグヤに『ヒト』って名前つけるようなもんだよ?」クラノスがため息交じりに言った。


「ちゃ、ちゃんとその後に記号をつけてるじゃない。可愛いでしょ?」


「自分の名前が『ヒト♪』だった時の気持ちを考えろ。絶対グレるぞ」とミカルドにすら突っ込まれた。なんだか泣きそう。


「後半のやつもひどいね……」クラノスが首を振る。「敬称をつけたつもりだろうけど『トーチャン』『トークン』って最早別の意味だし、『トーシロ』に至ってはただの悪口じゃないか……」


「〝塔〟と〝城〟をくっつけたのよ! 悪気はないわ!」


 うう、あたしのネーミングセンスをこぞって馬鹿にして。

 一生懸命考えたのに……って、そっか。


 ――真剣だったのは、みんなも同じね。


 テーブル上にずらりと並ぶ、なぜか既視感の拭えない名前に対しては『ヤバくない? 大丈夫? ほんとに?』とあたしの勘が絶えず警告してくる。


 でも。


 3人からしてみれば、素敵な名前をつけようと一生懸命考え抜いた末の『作品』たちだ。あたしの『とう♪』と同じで。


 それを否定なんて、だれができるものですか。


 ――できるものならしてみなさい。


 と、あたしは気まぐれに空に向かって言ってやった。


「ううん、この中からひとつ、ね……どうしようかしら」


 あたしは真剣に検討してみることにした。

 だれになんと言われようとも、名前は必ずこの候補の中から選ばないといけない。ここまできたら意地よ、意地!


「こうなってくると、最初の『ドルアーガ』が一番ましなような気もしてきたわね……」


 初志貫徹、という言葉もあるし。それに『この中では比較的安全なんじゃない?』とあたしの勘も言ってる気がする。

 そんなことを考えながら、あたしはふたたびテーブル上で視線を往復させた。


「あとは……『マルコ』もワンチャンいけるかしら」


 なんとなくだけど〝ちゃん付け〟さえしない分にはマフィア稼業の人の名前っぽくも聞こえるし。


「ううん、でもなあ……」


 あーでもない、こーでもないと唸っていたあたしを見かねたのか。


「こういうものは第一印象が大事だとカグヤも言っていただろう」


 ミカルドが背中を押すように言ってくれた。


「カグヤが〝これだ!〟と感じたものを選べばいい。我らはそれを、否定はしない」


「ミカルド……!」


 たまにはいいこと言ってくれるじゃない、とあたしは感動する。

 ま、第一印象に従ったらって結果になっちゃうんだけど。


「よしっ、わかったわ! 後悔しないでよね――にする!」


 あたしはテーブルの隅に追いやられていた一枚の紙を手に取った。


「ふむ。良いのではないか?」とミカルド。

「かっこい~!」とマロン。

「確かに、一番ハマってるかも」とクラノス。


 よかった。3人ともお気に召したようだ。


「うん、この中からを選ぶなんてカグヤ、やっぱりセンスあるよ!」クラノスがやけに爽やかな微笑みを浮かべて言った。「他よりも優れてる、一番素晴らしいものを選んだってことだもんね!」


「クラノス? 絶賛してくれて嬉しいんだけど……この面子の中でひとつを褒めすぎるのも危険だから、言動に気を付けてちょうだい」


 あたしは心の中で、『大丈夫、間違ってない』と心を落ち着かせながら続ける。


「いい? ここに並んでいるのは、どれも優劣つけがたい素晴らしい名前たちよ。その中でも、今回の場合は、! この名前を選んだっていうだけ。深い意味はないわ」


「ねえ、カグヤ」マロンが不思議そうに首を傾げて言う。「さっきからどこに忖度そんたくしてるの?」


「そうね……世界の大人たちよ」


 あたしはふたたび空を眺めながら言ってやった。


「あら? そういえば、この名前ってだれが考えたの?」


 ふと気になって目の前の三人に視線を送る。


「我ではないな」

「おれも違うかな〜」

「ボクでもないと思うけど……みんなたくさん出したから覚えてないのかも」


 よし。

 これで責任の所在も有耶無耶うやむやになったことだし。


「確かに、思ったよりも白熱して時間はかかっちゃったけど」


 あたしは仕切り直すように言った。


「塔の名前はこれに決定ね!」


「うむ」「おっけ~」「りょーかい」


 晴れやかな表情を浮かべる3人に見守られながら。


 あたしは、その名前が書かれた紙を――


 ぺたん、と壁に貼ってやる。







 塔の名前は――『エヴァ』になった。




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ついに塔の名前が決定!


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