塔の上のカグヤさま★~記憶を失くした幽閉令嬢、理想の王子様と同棲が決まりましたが毎日ハチャメチャで困ってます。え、これって彼らなりの溺愛なんですか!?どう考えても夫婦漫才にしかみえません!~
1-22 身を売られよう!(ミカルドの記憶②)
1-22 身を売られよう!(ミカルドの記憶②)
扉を何回くぐったか分からない。
ミカルドについていった先で、あたしたちは馬車に乗せられた。
そのままどうやら〝国〟の敷地内に入ったようなのだけど――
巨大な門。剛健な門。豪勢な門。美しい門。
数多の門を歓迎されるようにくぐり抜けて――その最深部であたしたちは降ろされた。
「な、なによ、ここ……!」
来る途中で目に入ったのは〝お城〟だった。
その巨大な外壁を抜けた先、いわゆる中庭のようなものにあたるのだろうか。
その中庭の内部に、さらに〝複数の城〟が乱立していた。
「お城の中にお城……?」
すべてのスケールが異次元だった。
細かいところまで手入れされた美しい庭園。
中央の池にはこれまた巨大な噴水。そこから放射状にのびた小川にはところどころに橋がかかっている。
池の手枚にはパーティでも開けそうな開けた空間があって、白で統一された椅子や机が設置されていた。
その場所を見下ろすように、一本の樹がぽつんと生えているのが印象的だ。
そんな〝超巨大庭園〟の周囲にたくさんのお城が一定間隔に並んでいる。
(お城ってこんなに密集するものでもないでしょうに! とあたしは思った)
中でもとりわけ豪華なひとつの城の前で、ようやく馬車は停まる。
『ミカルド様! お戻りになられましたか……!』
門の前には無数の番兵が並んでいた。
そんな人の垣根の奥から、ひと際威厳のある執事姿の男が出てきてあたしたちに声を掛ける。
背後には数多の使用人たちを引き連れていた。
やっぱり、どこをとっても。
――
「待って待って。ミカルドって何者なの……?」
たまらずそう聞くと、件の執事がぴくりと白い眉毛を跳ねさせた。
『ミカルド〝様〟にございましょう! 呼び捨てにするとは何事ですか!』
「ひえっ!?」
怒られた。
そういえばあたし、今の記憶だとだれかに怒られるのハジメテかも……。
その原因が『ミカルドに様をつけなかったこと』なんて、なんだかとっても不服だ。
構わず執事は続ける。
『ミカルド様を指して〝何者か〟などとは無礼千万――ミカルド様はスルガニア帝国が
「…………へ?」
嫡子って長男って意味よね。ってことは……。
「ミカルドも〝王子様〟ーーーーーーーーーー!?」
『だから、ミカルド〝様〟だと申しておるでしょう!』
あたしが目やら口やらなんやらを開いて驚いていると、クラノスが隣で短い溜息を吐いた。
「やっぱり
「あ、あんたは知ってたの……?」
「ミカルドなんて名前、ボクが知る限りひとりしか知らないからね。偽物かもって思ってたけど……皇帝の息子を語るなんて不敬なこと、そもそも冷静に考えたらするわけないか」
「でもクラノス、あんたも王子でしょう? 会ったことなかったの?」
「そんな! 恐れ多いよ!」
クラノスがわざとらしく両手を身体の前で振ってみせた。
「ボクたちが暮らす
クラノスはどこか悔しそうな視線を浮かべて続ける。
「そのまま家名にもなる【スルガニア帝国】いち国家が、広大な大陸すべてを制圧して統治してる。ボクのような小国の王子なんかとは悔しいけどレベルが違う、唯一無二の大国家だよ」
マロンも感心の声で続いた。
「おれの住んでる魔大陸も大陸ぜんぶを支配できてるわけじゃないしね~。スルガニアのことはもちろん知ってるよ! 〝偉大なる皇帝による、偉大なる大陸〟――昔からそんな風に聞いてる」
「じゃあなに……ミカルドもいつかはそのおっきな大陸の王様になるってわけ……?」
「第一王子……正確には〝皇子〟だけど、当然そういうことになるんじゃない? ――何か
「確かにミカルドなら何かやらかしかねないけど」
なんだろう。暴言および誹謗中傷とか。あとはシンプルに……痴漢とか?
「あ、でも皇子だったら罪を見逃されちゃうのかしら。理不尽な世の中ね……」
『おい、貴様ら。なにか失礼なことを考えていないか』
色々勝手に妄想していたら記憶世界のミカルドに突っ込まれた。
こっちのミカルドは勘が良いのね。
「ミカルド……様!」あたしは悔しいけれど様をつけて言ってやる。「失礼なことなんて、そんなこと……ない
あ、慣れない敬語を使おうと思ったらなんかヤバめの語尾になった!
さっきの執事の口調がうつった可能性が高いわね。
恨みを込めてその執事を睨みつけてやると、彼はまだ我慢ならないようにぶつぶつと語気を荒げていた。
『従者の分際で、せっかくのミカルド様のご帰還を台無しにする厚顔っぷり……この無礼な者どもはどこの馬の骨にございますか!』
ミカルドが淡々と答える。
『ああ、此奴らは……我の
『
『いや、こいつらに運ばせろ。そういう仕事だ。それと――踊り
「……は、はいっ!」
一瞬、あたしのことだとは分からなくて返事が遅れてしまった。
『このあと我の部屋に来い』
「へっ!?」
『……なるほど。そういうことでしたか』
執事姿の男が納得したように言った。
『そこの踊り女よ。良かったな、光栄に思えよ』
「あ、遠慮します」
『何いいいいい!?』断ったら執事が絶叫した。『ミカルド様の御眼鏡にかなった……これがいかに光栄なことか分からぬと申すか!』
「分かんないし、分かんなくていいです」
あたしはクラノスを見習って笑顔で断ってやった。
『そもそも、ミカルド様が所望された時点でお主に拒否権はない!』
「勝手にそんなこと言われても納得できないわよ」
「納得いかないのはボクもだね」
意外にもクラノスが、あたしを守るように前に出てくれた。
「カグヤをみすみす危険な場所には行かせられないよ」
『なっ!? ミカルド様のお部屋を〝危険な場所〟ですと!?』
執事がさらに語気を荒げる。
――そりゃそうよ。ほぼ初対面の女の子を部屋に連れ込もうとするなんて、古今東西〝危険人物〟に決まってるんだから。
ミカルドのことを睨むようにすると、彼は溜息を吐いてから呆れるように弁解してきた。
『何を勘違いしているかは知らんが――ただ話をするだけだ。貴様らのような獣が考えるようなことはせん』
「どうかな? 信じられないね」
クラノスが引き続き苛立ちを滲ませながら言う。
その隣に並ぶように、マロンもミカルドの前に立ちはだかってくれた。
「おれもカグヤを
「マロン……嬉しいけどそれを言うなら〝みすみす〟ね」
マロンはイマイチ分かっていない様子で続ける。
「それにカグヤがいなくなっちゃったら……ご飯くれる人、いなくなっちゃうし」
「そっちが本音かい!」
『む? 飯が欲しいなら我が食卓に招いてやろう。ちょうどすぐに夕食だ』
「え! いいの!?」
マロンが秒で寝返った。
「ちょいちょいちょい! あたしはどうするのよ!」
「いってらっしゃ~い!」
「笑顔で送り出すなや!」
まったく。やっぱり頼りにならないやつね。
溜息を吐きつつクラノスに視線を向けると――
「安心して、カグヤ。ボクはご飯くらいで釣られないから」
真剣な表情でそう言ってくれた。
よかった、クラノスは裏切らなさそうね。
『ほう。貴様は魔法が使えるようだな』ミカルドがクラノスの全身をじっと見渡して言った。『踊り女を預かっている間、我が屋敷の書庫で魔導書を見ていても構わんぞ』
「カグヤ、いってらっしゃい☆」
「あんたもかあああああああい!」
やっぱりあたしはすぐに売られた。
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