3-14 みんなから愛されよう!(カグヤの記憶③)


「ちょっと待ってよ! って……あんたたちもなの?」

 

 あたしは記憶世界の王子様から〝告白〟をされていくことになった。

 ミカルドの告白を皮切りに堤防が決壊したかのようにみんなの中から想いが溢れて、その表情は上気している。

 

「こんなの想定外すぎるわよ……!」


 戸惑うように叫ぶあたしの声は、もちろんみんなには届かない。

 王子たちからの記憶世界のあたし――輝夜への告白は続いていく。

 

 

      ☆ ☆ ☆

 

 

『カグヤのことは――〝筋肉〟と同じくらい好きだぜ』


 まずはアーキス。

 〝筋肉と同じ〟というフレーズにちょっぴり違和感はあったけれど……。

 彼が文字通り人生を捧げている〝筋肉〟に並んだというだけでも、一大事で名誉なことな気もした。

 なにしろ彼は〝筋肉さえ鍛えれば怪獣サイズに巨大化できる〟と心の底から信じてしまう少年以上に少年な心を持っているのだ。

 

 ふつうはあり得ないことを、100%間違いないと信じ切れるその想いの力と同じレベルで、あたしのことを〝好き〟と言ってくれる。

 これのどこに不満があるだろうか。


(他のだれよりも強固な愛の告白じゃない……!)


 いずれにせよ、アーキスは筋肉について語る時と同じ〝真っすぐで純粋な瞳〟を向けてきて。


 あたしと輝夜――のふたりの心はすっかり撃ち抜かれてしまったのだった。

 

 

      ☆ ☆ ☆

 

 

『カグヤが時々作ってくれるお弁当、本当に美味しいんだ~! だからね、おれに毎日! ご飯を作ってくれない……かな?』

 

 続いてマロン。

 これもある意味有名な〝告白文句〟だ。

 一生ご飯を作る――つまりは生涯を共にして、家庭を共にして、朝の食卓を共にする。

 イコール〝結婚生活〟を表してるのよね。

 

 それにしても……まさか〝食べること〟にしか目がないマロンが、幸せな家庭を作ることもちゃんと考えてくれていたなんて。

 気恥ずかしさ以上に純粋に感動をしていたら――そこでふと気づいた。


 マロンの口元には、とよだれが垂れかけていることに。


 あれ? まさかと思うけどマロン。『毎日ご飯を作ってくれないかな?』って結婚とかまったく関係なくだけじゃないわよね?

 

 すくなくとも告白の時によだれを垂らすなんて聞いたことがなかったけれど――違うわよね? これは愛の告白よね?

 うん、きっとそうに違いないわ。そういうことにしておきましょう。


 後半は早口になってしまったけれど、少なくともあたしたちの心臓はどこまでも高鳴ったのだった。



      ☆ ☆ ☆

  

 

『カグヤ――すき』


 続いてはアルヴェ。いよいよアルヴェ。

 ふりふりのついたメイド服姿で、女の子にしか見えない仕草で。


 彼女みたいな彼は、恥ずかしそうに〝すき〟という二文字を伝えてくれた。

 

 もう。なによこれ。なんなのよ。

 とてつもなくものすごい破壊力じゃない!

 そんな風に、あたしは語彙力が完全に崩壊してしまう。


「はああああん! あたしも好きいいいいい」


 という絶叫は幸いにも、この世界の人たちには届かない。

 叫び放題の地面を転がり放題だ。


 だけど、あたしは。実はそのことよりも。

 ふだんは大人しくて内向的で恥ずかしがりやなアルヴェが――とっても勇気のいる〝告白〟などという行為に踏み切ってくれて。

 懸命に〝すき〟という2文字を絞り出してくれたことだけで。


 ――あたしの全身は途方もない尊さに満ち溢れたのだった。


 ありがとう。アルヴェ。

 今度とびっきりの美味しいお菓子を作ってあげなくちゃ。


 

      ☆ ☆ ☆


 

『ククク……よろこぶがいい! 禁断聖書アカシックレコードは数多の星の中から貴殿を選んだ! 余の伴侶として認めてやろう……!』


 次はオルトモルト。

 やっぱりどうしようもなく中二的で上から目線だったし。

 邪神とか言ってたのに〝聖書〟を信仰してるしで設定も無茶苦茶だったけれど。

 

 それでも――彼の仕草は大仰しくも真剣さに溢れていた。

 どんなに無茶苦茶な設定でも、彼はそれを心の底から信じ切って、演じ切っているのだ。

  

 自らの中のポリシーにどこまでも従って、実際にそれを行動に移してみせる。

 口ばかり真面目で常識的なことを言って、実際は何もしないような人たちと比べると、彼の行動は随分と信用できたし、信頼できた。


 だからあたしはオルトモルトの告白も――信用して、信頼やることにした。

 

 ま、あたしと付き合うことになったらその妙な設定を隅から隅までつついてやるけどね、なんてついつい悪戯な考えが頭をよぎる。

 だけどその口元は――自然と嬉しそうに上がっているのだった。



      ☆ ☆ ☆

 

 

『おら、カグヤさんのこと、好きだべ。こったに別嬪さんなのは見かけだけでねえ。おらはカグヤさんの優しさに惚れたんだべ――』


 続いてイズリー。

 相変わらず顔に似合わなさすぎるバキバキ訛りだったけれど。

 例え口調は訛っていても、告白の中身は誰よりも〝真っすぐ〟だった。

 

 見た目だけではなく、ちゃんとあたしの内面を見てくれている。

 それが言葉の節々から、仕草から、声色からありありと伝わってくる。

 

 こういう時に訛りというのは得かもしれない。

 嘘がないようで、優しい気持ちになるもの。


 気になるとしたら――ひとつだけ。

 

 たとえイズリーと人生を共にすることになったとしても、例のあの〝若者奴隷化ハラスメント村〟にだけは嫁ぎたくはないわね……。

 

 そうね、例えば。

 何の雑音もない――それこそ、どこか遠くの〝田舎暮らし〟を所望したいところだわ。


 

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