2-11 もみくちゃにしよう!
~前回までのあらすじ~
激かわクールふりふりメイドさん(男)との同棲生活が決まって、リトルカグヤが爆発した!
☆ ☆ ☆
桃に乗った男の娘――【アルヴェ】は、やはり他の同居人たちにとっても〝特殊〟に見られたようだ。
そりゃいきなりこんな辺鄙な森の奥地の塔に、繊細で儚い夢のような美少女メイドさん(実は男)がやってきたのだから驚くのも仕方がない。
(ちなみに、アルヴェは実際に貴族の館でメイドさんとして働いていたらしい。こんなに可愛い倒錯的なメイドさんを家で働かせているなんて……むう。うらやまけしからん)
「この子はアルヴェ――今日からうちに住むことになったから。みんな、仲良くしてあげてね」
まるで地方から王都の学校に転校してきた生徒を紹介するみたいに、あたしはアルヴェを紹介してあげた。
すると最初は〝女の子がきた!〟となんだか
そこからは質問やらなんやらの嵐。
『なぜこのようなひらひらした服を着ている』『肌きれいだね、美容薬とか使ってるの?』
『全然毛生えてないじゃん! 触っていい~?』『こったなめんこいアルヴェさんが男で、ミカルドさんが女ってこと信じられねえべ……』
代わる代わるに質問を浴びせられ、言葉をつむぐのが苦手なアルヴェは中心で無表情ながらに困ったような仕草をしていた。
っていうか! イズリーの中のミカルド=女の子設定まだ生きてたの!?
「……あ、……ええ、と……」
もみくちゃにされるアルヴェのことを助けに入ろうとしたけれど、『これが男同士のコミュニケーションなのだ』と突っぱねられしまった。
確かにそんなことを言われてしまえば、女であるあたしが割って入るわけにもいかない。
一応アルヴェが本気で嫌がるような素振りを見せたら制裁しよう、と久々にメモリー君(対王子用撲殺兵器☆)の準備だけしておいた。
「……あっ、あの。……やめ――」
数多の質問を浴びせても興味は尽きないのか。
王子たちは物珍しいものに触れるように、とうとうアルヴェの身体をまさぐり始めた。
「ちょっと! なにやってるのよ!」あたしはメモリー君の柄を握りしめながら注意する。
『この服の下はどうなっているのだ』『なんか、胸も膨らんでない? 下着もつけてるの?』
『わ~、肌もちもち~おいしそ~』『どうしてもミカルドさんと比べてしまう自分がいるべ』
「もうほとんどセクハラじゃない……!」
特に最初のふたり(我ロンゲとイカ魔術師)がひどい。時代が時代なら訴えられても文句を言えないわよ。
あとなんかミカルドにお熱な田舎者がいた気がしたけど、突っ込んだら火傷しそうだから無視しておいた。
「これのどこが男どうしのコミュニケーションなのよ……はたからみたら、無抵抗のか弱いメイドさんを襲う変態集団じゃない……」
そろそろ止めないと、とあたしは再びメモリー君を握りしめる。
――だけど。
黙っていれば文句なしにイケメンである顔強王子たちが、同じく顔強女装少年の服やら身体やらを
非常に倒錯的で妖艶な光景から、不覚にもあたしは目を離すことができなかった。
「……じゅるり」
――はっ、いけないいけない。
また涎を垂らして床をのたうち回るところだったわ。
「アルヴェを助け、……なきゃ……うっ、言うことを聞くのよ、あたしの身体……!」
涎を拭い、重い脚をどうにか引きずって前進したのだが。
その間もアルヴェは、王子どもにまさぐられながら『……んっ』『あっ』などと小さく声をあげるものだから、もう始末に負えない。
――うっひゃひゃはやあはやひゃはやはやああ……!
あたしの中のリトルカグヤは、前回に引き続き完全にキャパオーバーを迎えて。
遂にアルヴェに向かって歩むことを諦め、メモリー君の柄をゆっくりと手離した。
『……あっ』
その様子を見たアルヴェが助けを求める子犬のような瞳を向けてきた気がするけど、気にしない。
あたしは胸の前で手を合わせなにかに祈るようにして、目の前で繰り広げられる〝尊い光景〟を凝視した。
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます……!」
繰り返し感謝の意を唱えながら。
――アルヴェを前にしたら、どうしようもなく〝残念〟なのかもしれない。
などと。
性癖の完全開花を感じながらも、自己の不面目っぷりをどうしようもなく認めることになった。
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