2-12 趣味を当てよう!


 先住王子たちによるアルヴェの調(強制。任意ではないことに注意されたし)もひと段落。


 無事に男だらけの楽園(その住民のほどんどが。これも注意されたし)へ仲間として迎え入れられたのだった。


 ちなみに部屋は202号室になった。イズリーが201だから、その隣だ。

 最初の3バカ王子ーズがなにか変な気をおこした場合に、イズリーに守ってもらえるようにという意図もある。


 ――え? イズリー自身が変な気になった場合はどうするって?


 ううん。まあ、その時はその時ね。

 急いで部屋に駆けつけて、聞き耳を立てることにしようかしら。


 ……という冗談はさしおいても。


「ま、イズリーならきっと大丈夫でしょう」



     ☆ ☆ ☆



「どうしたのだ、我らだけを集めて」


 ミカルドが8階のリビングにやってきた。続いてクラノスとマロンも。

 そう。あたしは今、7階に住む先住王子たちに召集をかけていた。


「ちょっと手伝ってもらいたいことがあるの。あんたたち、この前アルヴェの趣味のこときいてたでしょ?」


「ああ……そういえば最初の質問責めの時に聞いた気がするな」とミカルド。


「質問責めしてたって自覚はあったのね……それで、覚えてる?」


「アルヴェの趣味だろう。もちろん――蟻の巣の上から熱湯を注ぎ込むことだったか」


「そんな残虐な趣味じゃないわよ!」


 子どもの悪戯にしたっていささか発想が残酷すぎる。

 いずれにせよ、アルヴェがあの無表情の感じでそれをやっていたら逆に心配してしまうわ!


「む、違ったか? 溺れるように巣から溢れ出てきた蟻の脚をひとつずつもいでいくことでしか喜びを得ることができないと言っていた気がしたが」


「言うわけないでしょ、完全に精神歪んでるじゃない!」あたしは腕を掲げて怒ってやる。「まったく。アルヴェはその見た目と同じで天使みたいに優しい子なのよ? 想像の中でだって変なことはさせないでちょうだい」


「ボク覚えてるよ~」


「……嫌な予感しかしないけど、クラノス」


「夜な夜な暗い部屋の隅に向かって呪詛じゅそを唱えること」


「はい、却下」


「却下ってなに!?」


「違うに決まってるじゃない! アルヴェはあんたと違って人を呪うような行為はしないわ」


「あはは。ボクのは呪いなんて不確定なものじゃなくて、ちゃんとした魔法だよ~」


「余計にたち悪いわ!」


 魔法を使って人を陥れるなんて、まさしく〝悪い魔女〟じゃない……。


「あ、おれ覚えてるよ!」


「はい、マロン。却下!」


「ええ~っ!? 否定が早いよ……」


「どうせ間違ってるからよ」


「まだ分かんないじゃん!」


「じゃあ一応聞いてあげるわよ。アルヴェの趣味はなに?」


「えっとね~、おれにご飯のおかずを分けてくれること~」


「自分の願望じゃないの!」


 人の趣味にすら顔を突っ込むなんて、さすが魔王の息子。とんだ図々しさね。


「って! 結局間違ってたじゃないのよおおおおおおお」



     ☆ ☆ ☆



「アルヴェの趣味は〝ピアノ〟よ!」


「「「……! そうか、ピアノ――!!!」」」


 3人がわざとらしく声を合わせた。絶対忘れてたでしょ。


「そういえば、そんなことを言っていた気がしないでもなくもないな」


「どっちよ。正直に覚えてないって言いなさいな」


 もみくちゃにされている中でも、純粋なアルヴェはそれぞれの質問に対して(可能な限り)けなげに答えていてくれていたのだ。

 言葉をつむぐのが苦手と言っていただけあり、回答はゆっくりだったけれど。

 そんな中でも質問から答えるまでの間が一番短かったのが、この趣味に関する質問だった。


「それでちょっと閃いたのよね。確かここの〝地下倉庫〟にピアノがあった気がするのよ。それをアルヴェにプレゼントしてあげようと思って」


「うん。いいんじゃないかな」とクラノス。

「アルヴェ喜ぶといいね~」とマロン。

「だが、それでなぜ我らだけを呼び出したのだ?」とミカルド。


「えっとね、ピアノを運んで欲しいなって――おい。急激にめんどくさそうな顔をするな残念王子ども」


「ボクはいろいろ忙しいんだよ。暇なこのふたりにやらせればいいんじゃん」


 おいクラノス。さっきまでソファで暇そうにエデンの実かじってたでしょうが。


「おれ、もうすぐご飯食べないといけないし……」


 〝しばらく食べてないし〟なら分かるけど、〝食べないといけないし〟ってなんなのよマロン! 言い訳になってないわ!


「イズリーはどうした。こういう仕事なら喜んでやるだろう」


 最後にミカルドが言った。まったく、どこまでいっても人任せね。

 確かに心優しいイズリーなら喜んで引き受けてくれたかもしれない。

 でも――


「塔の大時計の修理がね、意外と大変みたいなの。機構が複雑だかなんだかって。だからそっちに集中させてあげたくて」


 隙間をみて進めてくれているようだが、かなり手こずっているようだった。

 報告を受けた時なんて、『時計の修理が遅くなりそうだべ……申し訳ねえべさ。殺さないでくんろ、殺さないでんろ……!』と何かに怯えるように額を床に打ち付けてきた。使ってない時計の修理が遅れるくらいで命乞いするなんて、村じゃ一体どんな仕打ちを受けてきたのよ!


「そもそもだな」それでも未だ納得できないようにミカルドが言う。「なぜアルヴェにだけプレゼントをするのだ。なにか記念日というわけでもあるまい」


「別にいいじゃない。記念日じゃないとプレゼントを送っちゃいけないなんてルール、どこにもないでしょう」


「しかし!」ミカルドは視線を床に落としながら言う。「……我らはもう、カグヤとは長いが、プレゼントなどなにひとつもらっていないぞ」


「あ……! 確かに~!」「それはちょっと、ショックかも――」


 マロンとクラノスも続いて、どこか寂しそうな表情を浮かべ悲壮感を漂わせてきたけれど。

 そんな〝自分たち、可哀そう〟アピールはあたしには通じない。


「ふふ、面白いこと言うのね。色々な面倒を見てもらえてるだけで充分だと思った方が今後の身のためだぞ☆」


 そう。あたしは今の段階ですでに、ただただ食っちゃ寝を繰り返す怠惰な彼らにはずなのだ。

 むしろメモリー君に手を掛けそうになった気持ちを抑えただけでも、自分を褒めてあげたいくらいよ。


「とにかく、今から地下倉庫にいくわよ」


 仕切りなおすようにぱちん、手を叩く。

 するとチラチラと3人から視線を感じた。


 ――ははん、分かったわよ。何か〝ご褒美〟を期待している目ね。


「ご飯、何盛りになる……?」とマロン。


「何盛りにもなりません! っていうか、大盛り以上にどんな盛り方を期待してたのよ」


「ゲキ盛りとか、バリ盛りとか……」


「なりません!」


「ファンタスティックミラクル盛りとか、天元突破那由多なゆた盛りとか」


「もっとなりません!!! もはやどんな盛り方かすら想像できないわよ!」


 そう。今回に限ってはいつもの『ご飯大盛り』系の報酬は使わないでおこうと思っている。

 癖になっちゃっても教育によくないしね。(てゆうか、もう癖になってるし!)

 なんであたしがこいつらの〝教育〟を気にしているのか、相変わらず謎でしかなかったけれど。


「はいはい! 文句ばっか言ってないで地下にいくわよ!」



『え~』と未だに渋る7階残念王子組を、あたしはどうにか階段を降りさせることに成功した。


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