2-13 倉庫をあさろう!


「なんだか久しぶりに来たわね」


 玄関のある1階部分から、さらに地下へと降りた先に〝地下倉庫〟はあった。

 前に一度だけ中に入ったことがあるんだけど……埃っぽいし&よくわからないものがたくさん置いてあるし&薄暗いしで、それ以降は意識的に避けていた場所だ。(そういえばクラノスがゴンタロの予備を取りに勝手に入ってたっけ)


「こんなところに本当にピアノがあるの?」


 そのクラノスが背後から聞いてきた。

 倉庫の中は意外に広く、そこら中に雑多な物が所せましと置かれていることも相まってまるで迷路だ。


「うん。見かけた覚えがあるんだけど……って」


 あたしは違和感から、ぴたりと足を止めた。


「なんでみんな入口のところでわけ……?」


 必然的にあたしだけが前に進んでいる形になっていた。

 クラノスが掌を向けてきて言う。

 

「あ、お構いなく」


「お構うわよ!」


 あたしは駆け足気味に入口まで戻った。


「ちょっと、あんたたちも一緒に来なさいよ」


「ピアノを運ぶのが仕事でしょ? カグヤが見つけてくれたらいくよ」


「それじゃの」


「どうして?」クラノスが目をぱちくりさせながら聞いてきた。


「……こ、怖いのよ!」あたしは思い切って告白する。「ここ暗いし、へんなのいっぱい置いてあるし」


 弱みを見せるのは癪だったけれど。

 こういうとき、隣に人がいてくれるというだけで大変心強いものなのだ。


「だから……一緒に、ついてきて……?」


 自然となっていた上目遣いで、あたしは3人にお願いした。

 てっきり馬鹿にされるかと思ったけど――


「ふん。そういうことなら仕方があるまい」

「へえ、カグヤって意外と怖がりなんだ」

「みんなで行けば怖くない! だね~」


 そう言って案外素直に頷いてくれたのだった。


「みんな……! あり、がと」


 ――なによ、みんな優しいところあるじゃない。

 

 冷静に考えたら一緒に探してくれるくらい、こっちから何も言わなくてもして欲しかった気もするけれど。


「そうと決まればとっとと探すぞ」とミカルド。

「なんだか宝探しみたいだね~」とマロン。

「やれやれ、仕方ないなあ」とクラノス。


 そしてあたしの横を通り過ぎる時に、クラノスは肩を叩いて、


「貸しね」


 などとウインクを飛ばしてきたので。


「うん! あんたたちに貸してる1000から引いとくわね」


 と返しておいた。



     ☆ ☆ ☆



「みてみて~変なお面!」


「ちょっとマロン! 勝手にいろいろ触らない! 壊れたりしたらどうするのよ」


 と、言ってはみたものの。

 実際この倉庫にある物にお世話にならなくても、あたしはこれまで問題なく生きてこれた。

 ……と一括りにするのは良くないかもしれないけど、生活する上で差し迫って必要なものはここにはないはずだ。


「でもさ――便な掘り出し物とかは見つかるかもしれないじゃん?」とクラノス。


「掘り出し物……それは一利あるかも」


 あたしはぐるりと倉庫を見渡してみる。

 ある程度規則的に並んだ木製の棚に、様々な物が無造作に置かれている。

 古びた書籍に、ひびの入ったランプ。絵画や石像、硝子性の様々な瓶(中には謎の液体が入っている)。植物の枯れた鉢、謎の設計図……あれは杖かしら。

 床にはあちこちに木樽や木材が転がっている。壁側に立てかけられているのは農具に剣などの武具。盾や甲冑などの防具の類もまとめられていた。その隣にはロール状に巻かれたカラフルな布地(あたしが本格的な裁縫が、あれは使えるかもしれない)――などなど。


 あ、あの椅子はいいかも! ……と思ったら足が折れていたり。

 あ、あの絨毯とかは使えるかも! ……と思ったら焼け焦げていたり。


 ほかにも用途不明の〝謎の物体〟がたくさん! 地下倉庫にはひしめき合っていた。

 

「……ううん。あまりに雑多過ぎて、ここから〝なにかを発掘しよう〟って気にはあんまりなれないわね」


「む、そうか」ミカルドが腕を組みながら言う。「カグヤにその気がないならば、代わりに我らが〝掘り出し物〟とやらを見つけてやろう」


「別に見つけなくていいわよ。どうせまた色々ふざける気でしょう? とっととピアノを探してここから出ましょう――」


 などとたしなめてみたものの。


「いいね~」「面白そうじゃん」


 ほかの王子ふたりも目を煌めかせて賛同したことにより――

  

「よ~し! 、競争ってことだね!」


「ボクは目利きには自信があるんだ。望むところさ」


 

 無事に〝第一回! 掘り出し物発掘バトル in 地下倉庫★〟が開幕したのだった。

 

 

     ☆ ☆ ☆



【掘り出し物 その1】 

 ~『黒曜石の鎧』(発見者:マロン) ~


「ねえねえ、これなんかはどう? 戦う時に便利だよ~」


「ごっつい鎧ね……でもしばらくは争う予定もないし、別に要らないわよ」


「ご飯中に急に襲われた時とかもこれがあれば安心だよ~?」


「だーかーらー! 食事中に一体なにと戦う気なのよ!?」


「あ、そっか。カグヤは〝加害者側〟だから要らなかったね……」


「あたしから身を護る用だったんかああああい!」


 

     ☆ ☆ ☆


 

【掘り出し物 その2】 

 ~『宝箱』(発見者:ミカルド) ~


「見ろカグヤ! 〝宝箱〟だぞ!」


「うそ、すごいじゃない! 中身は……!?」


「空っぽだ」


「次いきましょう」


 

     ☆ ☆ ☆

 


【掘り出し物 その3】 

~『謎の剣』(発見者:クラノス) ~


「カグヤ、これ見て……〝勇者の剣〟って書いてある」


「絶対ニセモノでしょ!」


「どうしてそんなこと言うのさ。本物かもしれないのに」


「本物だとしたら、剣の束に〝ゆうしゃのけん〟なんて直接殴り書かないでしょ……」


「でもこれ、抜こうとしても抜けないんだよね。魔法式の封印ロックがかけられてるみたい」


「貸してみて……ぬぐぐ……! 確かに、抜けないわ……」


「ボクがS級の開錠魔法をかけてもびくともしないんだ。それ以上の防御術式が組まれてるなんて相当な代物だよ? それこそ〝神具〟でしかありえないレベルの――」


「待って待って。仮に本物の勇者の剣だったとして――なんでそんなものが地下倉庫こんなところに無造作に置かれてるのよ」


「さあ? 昔住んでたのが勇者だったとか?」


「うーん。なんだか触れちゃいけないものな気がするから、見なかったことにしましょう☆」

 

「おっけー」

 

 

     ☆ ☆ ☆

 


【掘り出し物 その4】 

 ~『宝箱②』(発見者:ミカルド) ~

 

「カグヤ! また宝箱を見つけたぞ!」


「どうせ空っぽなんでしょう?」


「いや、今度こそ確認済みだ。中身は――」


「……え? 宝箱?」


「ああ。入れ子構造になっているようだ。きっとこいつの中にこそ〝真の宝〟が――」


「また、宝箱ね」


「む? その中も――また宝箱だ。その中も……また宝箱だな」


 ~20分後~


「そのまたまたまた――さらにまた中にも宝箱があるぞ!」


「次いきましょう」



     ☆ ☆ ☆


 

【掘り出し物 その5】 

 ~『首輪』(発見者:マロン) ~


「みてみて! かっこいい首輪~!」


「念のため聞くけど、どうやって使う気?」


「カグヤの首にはめる~」


「了解。喧嘩なら買うわ」


「ちゃんとリードもついてるんだよ~?」


「やったー、お散歩してもらえる♪ とはならないわよ!」



     ☆ ☆ ☆


 

【掘り出し物 その6】 

 ~『ぽんぽん』(発見者:クラノス) ~

 

「これって何に使うんだろ? リボン状の布が丸く房状にまとめられてて……でっかい毛玉みたい」


「あ、こうやって手に持って振ると、なんだか楽しいわよ?」


「楽しいだけ?」


「あとは――する時とかに振るのも士気が高まりそうでいいかも」


「うーん、他にも良い使い方がありそうだけど……あ、分かった!」


「え? 頭に乗せてどうするつもり?」


「寝起きのカグヤ」


「だれが寝癖ボンバーヘッドよ!!!!」


 

     ☆ ☆ ☆


 

【掘り出し物 その7】 

 ~『宝箱③』(発見者:ミカルド) ~


「カグヤ! 今度こそ本当に本物の宝箱だ……!」


「もういいわよ、疲れてきたわよ……」


「持つとずっしりと重いのだ――開けてみるぞ」


「はいはい。どうせ……って! すごい! 本当にお宝がいっぱいじゃない!」


「数多の金銀に輝かしい宝石の数々。まさかこれだけのものが詰まっているとはな」


「まさに掘り出しものね……!」


「ああ。これで発掘勝負バトルの勝利は我のものだな。ところで――」


「どうしたの?」


「カグヤ、この金銀財宝――るか?」


「あ、えっと……今のところは別に要らないわね。ゴンタロがいればなんでも揃うし。ミカルドは?」


「いや、我もこの程度のものは要らん」


「そりゃ大帝国の皇子だもんね。これくらいはした金の範疇ってとこかしら」


 

「「………………」」


 

「もう、終わりにしましょうか」


「うむ」


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