3-60 教祖様をあがめよう!(地球帰還大作戦⑨)


「……っ! 今、星が動いたわよね!?」


 勇者として認められたイズリーによる超絶怒涛の攻撃によって、遂に


 これまでの単なる大地の振動などとは決定的に違う。

 まるで座っていた椅子の脚が段差からと落ちるような。

 言葉通り〝星の軌道がずれるような〟衝撃だった。


「すごい……! それまでのみんなの波状攻撃に加えて、魔王マロンが召喚した異次元生物の蹂躙じゅうりん、それに加えて【勇者】として剣に選ばれたイズリーの大地を一閃するような大剣撃――本当にかもしれないわ……!」


 この間もごごごごと大地の脈動はまない。

 あたしは地面を踏みしめて倒れないようにしながら王子の名前を呼ぶ。


「あとまだ〝攻撃〟をしていないのは――アーキス!」


 紳士的で人語を理解でき巨大化もできる謎の魔物熊シショーと一緒にやってきた筋肉王子だ。

 彼は『はああああああ』と特殊めいた呼吸法で鋭気えいきをため込むようにしながら今なお筋トレに励んでいた。

 

「アーキス! もしかしたら――かもしれないわよ?」


「……んあ?」


 あたしの言葉に気づいたアーキスが腕立て伏せプッシュアップを緩めて目を開けた。


「あんた〝星を割りたい〟んでしょう!? 今ならかなり大地が弱ってるから、あんたの超絶筋肉のな攻撃で本当に星割れちゃうかも……!」


 壊滅的な語彙力であたしはアーキスのことを奮い立たせた。

 しかし。


「んあ……なにを言ってやがる。オレ様の夢にはまだ、足りてねえじゃねーか」


「え?」


「いいか? オレ様の夢は〝でっかくなって〟星を割ることだ。ただ星を割ったところで意味はねえ」


 星自体は今でも割れる的な言いぶりが気になったが、そこは無視してアーキスをさとす。

 

「ちょ、ちょっと! まだそんなこと言ってるわけ!? さすがに〝でっかくなる〟のはあんたには無理よ!」


「んあ? オレ様はここまで、その夢のためだけに筋肉を信じて鍛え抜いてきたんだ」


「だから筋トレしたところではできないってば!」


 そんなものは筋肉膨張パンプアップの次元を遥かに超えているのだ。


「けどな……シショーとの稽古と、日々のたゆまぬ筋肉の鍛錬によって、も実際にでっかくなったじゃねーか」


 アーキスは言いながら親指で背後の【巨大使い魔たち】をさした。


「だーかーらー! あいつらはもともとの魔物かなんかだったんだって! 人間のアーキスとは身体のつくりが違うのよ! ……第一、巨大動物あいつらたちも特に毎日筋トレとかしてなかったじゃない! 呑気に森で蝶々とか追いかけてたじゃない!」


「ちっ……オレ様もはやくあいつらに追いついてでっかくならねえと、弟子としてシショーへの面目が立たねえ」


「今までのあたしの話聞いてた!?」

 

 アーキスは聞く耳をもたないようだった。

 瞳はどこまでも真っすぐで純粋で澄んでいて――この期に及んでも〝筋肉さえ鍛えればでっかくなれる〟と信じ込んでいるらしい。


「うっ! 瞳が眩しい……!」


 汗をかきながら無垢な少年のように夢を追いかける姿を、あたしは止めることなんてできなくて。

(というかぶっちゃけ色々面倒くさかったから)放置しておくことにした。がんばれ、アーキス!


「そうなると次の攻撃は……」


『(どうやら私のようですね――)』


「あ、そうそう、あんたね。って、」


 あたしが振り向いた先には、ふよふよと空に浮かぶ【桃】が居た。


「空飛ぶ桃きたーーーーーーーーーーーー!」


『(微力ながら、私も力になれればと思います――)』


「めちゃくちゃふつうに脳内に直接語りかけてきてるーーーーーー!」


『(月を地球に落とす――長く生きてきた私にとってもはじめての経験です)』


「え、あんたそんなに長く生きてきたの!? ていうかやっぱり生物だったの!?」 


『(昔から言いますでしょう? 桃栗、柿8年――と)』


「桃栗〝三年〟じゃなかったっけ!? 1万年前って石器時代とかだから! あと勝手に〝栗〟まで巻き込まないでちょうだい!」

 

『(これで謎は解けましたね。そろそろ攻撃に移らさせていただきます――)』

 

「いやいや大量の謎が残ったままだからーーーーーーーーー!」


 やけに丁寧過ぎる口調の桃は、数多あまたの謎を残したままふよふよと空を漂い、地面にできた超巨大クレーターの中央まで飛んでいった。


『(私にできることは少なく恐縮です。ささやかではありますが――いかせていただきます)』


 そう言ってかしこまった態度で念話を飛ばしながら。

 奇想天外で正体不明な謎の桃は、やがて光を発し始め……。


『(――――――――!)』

 

 ちゅどおおおおおおおおおおおん。

 と。大地を穿うがつ超絶威力のビームを放った。

 

「「……………………」」

 

 刹那。放出された莫大な光の明滅に対して。

 世界のすべての音が響いた。

 発射音。轟音。爆音。破壊音。


 そして――

 

「……すんごいビームでたああああああああああああああああああああ!」

 

 あたしのツッコミ。


「なによこれえええええええ、完全に大量殺戮さつりく兵器とか、そういう規模の威力じゃない……!」


 あたしの目はたまらず広がり顎は外れ、がくがくと身体は震えている。

 まわりの王子たちも似たような感じだった。


 天を裂き、空を割り、大地を砕く。

 万物すべてを滅する威力の超光線は、今度こそ明確に

 

「(――と、まあこんなものです。お役に立てたでしょうか)」


「いっちばん立ちましたーーーーーー!」


 ありがとうございます、ありがとうございます――と。


 世界を滅ぼしかねない攻撃を発した【大桃様】をあがめるように土下座しながら人間や使い魔連中が感謝をするという、もはやなにかの宗教染みた光景がしばらく続いた。

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