1-16 モンスターを倒そう!(クラノスの記憶①)


~前回のあらすじ~

 バッティングセンター(バットはメモリー君、ボールは王子様☆)でスッキリしたあと――

 カグヤたちはクラノスの記憶の中に飛び込んだ!


     ☆ ☆ ☆


「「「うわあああああああああああ!!!!!」」」


 ――ゴンタロ、クラノスの記憶を見せて☆


 そんな冗談は、冗談にならなかった。


『ガッテンデイ!』


 と気前よく快諾してくれたゴンタロの魔法によって、あたしたちは〝見知らぬ場所〟に飛ばされたのだった。


「あれ……ここ、どこ?」


「カグヤ! 目が覚めたんだね~」


「マロン……え? あなた、?」


「我らだけでない、お前も浮いているぞ」


「へ!?」


 あたしは自分の身体を見た。

 確かに。あたしの身体は空を飛ぶようにぷかぷかと浮いていた。

 全体的にも薄くなっている気がする。


「どういうことーーーー!?」


「……どうやら、本当にボクの記憶の中みたいだね」


 上から声が聞こえた。あたしたちがいるさらに上空に。

 クラノスが浮かんでいた。どこか神妙な面持ちをしている。


「クラノスの、記憶……?」


 こくり。クラノスが頷いた。


 空に浮かんだ状態であたりを見渡す。

 見下ろすとそこには――〝巨大な島〟っていえばいいのかな。

 海の中にどかんと、そんな円形の島が浮いていた。


「すごい……! 島ひとつが、まるで大きな都市みたいね」


 まず目につくのは、島の中心部にそびえ立つ巨大な白い塔。その頂点からは水が溢れるように流れ出し、太陽の光を反射してきらきらと清々しく輝いている。

 滝のように落ち行く水はそのまま運河になって。街中を網目状に走るその水上を、人々を乗せた小舟が行き交っている。やがては海に合流し、その海上も数多の船で賑わっていた。

 建築物はシンプルな白で統一されていて美しい。青空の下、ところどころで市場が開かれ街全体がとても活気に満ちているようだった。


「……すごい。塔の外には、こんなところがあったんだ」


 あたしは思わず感嘆の息を漏らす。

 そこで行われるひとつひとつの人間の営みと街の美しさに目が離せない。

 心臓を高鳴らせ食い入るようにしていたら、


「海上王国【カーテイク】――ボクの故郷さ」


 クラノスが未だ半信半疑のように言った。

 

「あれが、クラノスの故郷……っていうか! あんたもっと下に降りてきなさいよ!」


 あたしは叫ぶように言う。


「うん? こうやって上から見下ろしてた方が落ち着くんだよね。本来の立場を理解わからせられるっていうかさ」


 まーた意地の悪いこと言っちゃって。

 この性悪王子め……と苛立っていたら。


「あれ……? あのどこかで見たような……」


 都市に向かって猛スピードで海の上を走る〝巨大なイカ〟の姿が目に入った。

 まわりにもいくつかの船が追走しているが、追い付くのがやっとのように見える。


 そして――その巨大イカの上には見知った顔の男が、ひとり。


「――クラノス!?」


 正確には〝記憶の中のクラノス〟だろうか。

 何かを見据えるような表情で腕を組み、堂々とその頭部に立っていた。

 

「……ほう。なかなか面白いことになりそうだな」とミカルド。


「いってみようぜ~!」とマロン。


 当のクラノスも、ちっ、と舌打ちをして降下を始めた。

 

「クラノスの故郷のねえ。あれ? そういえば【カーテイク】って確か――あ! ちょっと、あたしもいく!」


 ぐんぐん遠ざかっていく3人に置いていかれないように。

 そう言ってはみたものの。


「あれっ? なんで……うまく、飛べないわっ」


 うまく飛べない。そんなものは人間として生まれてきた以上は当然のことなんだけど。

 その場で空気をかくようにジタバタしてみても、あたしは3人のように空をすい~っと移動することはできなかった。


「なんであいつらは簡単に飛べて、あたしはできないのよ! ……あ、よかった。身体が動き始めたわ」


 しかし。

 ぐんぐん加速して海上に近づいていくあたしは、途中で気づいた。


 ――あ。これ、だけじゃない?


「ひ、や、あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ――!」


 落下する感覚がなんだか懐かしい。

 そういえばあの時の自由落下フリーフォールもクラノスのせいだったっけ。


 って。


「なんで塔に閉じ込められてるあたしが、二回もことになるのよおおおぉぉぉ――――」



 あたしの叫び声は海風に紛れて、だれの耳にも届くことなく消えた。


==============================

 【塔の上のカグヤ様☆】

 第16話~

    『クラノスの、記憶。』の巻

==============================


「海上王国の、王子様ぁぁぁぁぁぁ!?!?」


「大きな声出さないでよ、カグヤ」


 やれやれ、といつもの感じでクラノスが両掌を空にあげた。


 あたしは自由落下フリーフォールの末に海に落ちてびしょ濡れになった身体のまま、クラノスに詰め寄る。

(ちなみに泳げないあたしはミカルドに助けてもらった。助けてもらえたのは嬉しかったけど、あたしの心配よりも先に『我の服が濡れる……』と自分の服の心配をしてたの、一生忘れないからね)


「ど、どういうことよ!? 聞いてないわよ!」


 そんなことよりまさかの〝王子様発言〟だ。


 クラノスはなんてことないように、「別に。言ってないからね」


「なんで言わないのよ!」


「聞かれなかったし」


 はあああ、とあたしは呆れて溜息を吐く。


 ――ねえねえ、クラノスって海上王国の王子様なの?☆


 なんてピンポイントな質問をするやつがどこにいるのよ。

 それくらい自分から話してくれてもよかったじゃない。


「あんたたちふたりは知ってたの?」


「いや、初耳だな」とキザ王子・ミカルド。


「おれも~!」とバカ王子・マロン。


 そしてもうひとりの腹黒王子・クラノスが故郷――海上王国【カーテイク】。


 まさしく海の上に浮かんだ街並み美しい王国の〝リアル第三王子〟が、クラノスこと【クラノス・カーテイク】らしい。


「まさか本当の王子様だったなんて……」


 あたしは自分の感情を持て余すように頬を膨らませていると、


『クラノス王子が戦より帰還なされた!』

『なんでも、西海を根城にしていた海賊の大艦隊を』

『たったおひとりでさせたとのこと!』


 街の人たちが騒ぎ出した。どうやら戦(海賊退治?)から帰ってきたところらしい。


 ちなみにあたしたちの存在は、記憶世界(と呼ぶことにした)の人たちからは見えていないみたい。

 確かにクラノスがふたりいるのが見つかっちゃったら大変だし、都合は良かったのかも。


「……って、え? たったひとりで壊滅させたって、あたしの聞き間違い?」


 さっきから新しい情報が多すぎる。

 ほかのふたりもだけど、あたしは王子様たちの過去をあまり知らないでいた。


 詳しく聞いても『過去のことはいいだろう。大切なのは我らが生きる現実いまではないか?』と謎にいなされてきたのよね。

 ……ていうかほんとに謎ね。あんたたちの現実いまは〝食っちゃ寝〟してるだけじゃない。


「はあ」思い出してため息が口をつく。


 もしかしたら『過去の記憶がないあたしのことを気遣って』その話を持ち出さないのかな、なんて思ったこともあったけれど。

 食後に人前で容赦なくげっぷをかましてくるような彼らに、そこまで気遣いができるようには思えなかった。


『な、なんだ、この音は……!』『地震……?』『あ、あれは――!』


 あたりが騒がしくなった。みると海面が巨大な山のように盛り上がりはじめている。

 その下から――鋭い牙を持つ〝細長い龍〟のような怪物が複数現れた


「きゃっ! なによ、あいつ……!」


『海賊どもが飼い慣らしていた海竜シードラゴンだ!』『ここまで追いかけてきたのか!?』『しかも仲間を引き連れている……!』


「ちょ、ちょっと、これって結構ヤバいんじゃないの……?」


 あたしはここが記憶の中なことも忘れて、クラノスに訴えた。


「まあ、みててよ」


 空に浮かぶクラノスの言葉に続くように、今度は【記憶の中のクラノス】が――


『大海の化身よ。水を統べる神よ。我に力を――最上級水魔法≪ 極 貫 水 雷 アルティマ・ウォーターボルト ≫!!!』


 魔法の詠唱とともに。

 空から途轍とてつもない威力をもった〝水の雷〟を降らした。


「――きゃあああああああああ!」


 あまりの衝撃にあたしは両手で顔を覆う。

 轟音と水飛沫、空気を痺れさせるような鳴動がんだあと――目を開けると、


「……す、すごい……」



 巨大な海竜の群れは、文字通りにしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る