1-15 想い出す、記憶。【旅立ち篇】



「それで、どうかしら――記憶は思い出せておいで?」



 床に転がる男たちの頭には、巨大なたんこぶ。

 あたしの肩には、巨大なハンマー・メモリー君。


「「「……う、ぐぅ……」」」


 いくら言っても言うことを聞かない悪い王子たちに、あたしはちょっとお仕置きを――

 じゃなくて。メモリー君の使い心地を先に試してもらった。


「く……我らに試しても意味がないだろう……カグヤのためのメモリー君だぞ……」


 床に這いつくばったまま、ミカルドが命からがら言った。


「何を言ってるのよ。記憶を思い出すどころか、今ある記憶を奪いかねない代物じゃない」


 こんなもの、秘密兵器じゃなくてただの〝撲殺兵器〟だ。


「……カグヤは、試さないのか」


 あたしは舌を出しながら言ってやる。「試しません」


「せっかく用意したのに……」クラノスが沈んだ声で言う。「開発には結構な金額がかかったんだよ?」


「散りばめられた無意味な宝石のせいやろがあああ!」


 マロンも肩を落として言った。「試させてくれないの、残念すぎるよ~……」


「残念なのはこっちの台詞じゃあああああああああ」



     ☆ ☆ ☆



「う~……記憶が戻るかもって、ちょっとは期待したのに……」


 床に座って、膝を抱えて。

 あたしはその間に顔をうずめる。


「まあまあ」「カグヤ~」「そう凹むな」


 頭にぐるんぐるんの包帯を巻いた3人が、慰めるように言ってきた。


「だれのせいだと思ってるのよ!」


 まったく。どきどきしてたあたしの期待を返してほしい。


「それにしても――これでまた、カグヤの〝記憶捜索〟は暗礁あんしょうに乗り上げたな」ミカルドが悔しそうに言う。


「え? ……ちょっと待って。もしかしてこの数週間の成果ってメモリー君だけ?」


「あ? そうだが?」


「なんでちょっと逆ギレ気味なのよ……」


 キレたいのはこっちよ――っていうかもう何回かはキレたかしら。

 撲殺兵器【メモリー君】によって一撃――ならぬをこいつらに喰らわせたことで、あたしの心は結構スッキリしていた。


 うん。ストレス発散の道具としてはいいかもね。


「しかし、なにか手軽に記憶を思い出させる方法がないものか……」


「それができたら苦労してないわよ」あたしは溜息を吐いて、「クラノス、あんたの〝魔法〟でどうにかできないの?」


「できるわけないじゃん。人の記憶に干渉する魔法なんて、トップレベルの〝禁術〟だよ? ……このボクですら、未だ無理なのに……」


「え? なにか言った?」


「べつに、なーんにも」


 クラノスがふてくされたように、包帯頭の後ろに両手を回した。


「ふうん――だけど、魔法ってのも万能じゃないのね」


 あたし自身は魔法は使えないけれど――リビングの奥を振り返って、頼れるあたしの相棒・ゴンタロのことを見やる。


 身近な魔法がとても便利だったから、もっと色々なことができるのかと思ってた。


「でたでた! 魔法があればなんでもできるって誤解してる人のせいで、世の中の魔術師に苦労が絶えないんだよね」


 やれやれ、とまるで当事者のようにクラノスが両手をあげた。


「ごめんごめん、あたしの中の魔法の基準がゴンタロだったから」


「な!」クラノスの眉間がぴくりと動いた。「ふつうに馴染んじゃってるけど……本来、あれは国宝級の魔道具だよ……どんな基底術式が起動しているか未だに検討もつかない。ねえ、ちょっと分解してみてもいい?」


「だめに決まってるでしょ!」


 さらりととんでもないことを言うクラノスをたしなめる。


「ほら、予備もたくさんあるしさ」


「そういう問題じゃないわよ……」


 まったく。ミカルドといいあたしの大切な相棒パートナーを……油断も隙もあったもんじゃないわ。


「けちー」とクラノスは頬を膨らませる。「……ま、その国宝級が倉庫にいっぱい転がっていること事態が異常事態なんだけどさ」」


 うーん。クラノスにそこまで言わせるってことは、やっぱりゴンタロの魔法はすごいらしい。


「っていうか、それなら」


 ふと思い立って、あたしは言ってみた。


「ゴンタロ! ――!」


「なっ!?」


「とかお願いしたら、できちゃったりして☆」


 びゅうん。窓から風が吹き抜けた。


 大広間に少しの沈黙があって――


「……ふはは。さすがにそこまでではないだろう」


 ミカルドの苦笑をきっかけに、全員で笑いあった。


「あはは、そうよねえ! そんなことができたら最初からあたしも――」


 しかし。

 その予想は見事なまでに裏切られて、否――


 


『ガッテンデイ!』


 と。

 あたしの頼れる相棒ゴンタロは、をしたのだった。


「――え?」


 ぽわわわわわわわわわわわわわ。

 と。


 これまでにないほどの光量でゴンタロが輝き始める。


「な、なによこれ!」


 光の奔流ほんりゅうは止まらない。

 激しく明滅する光は一瞬にして周囲を埋め尽くし、世界が真っ白になった。


「んなあああ!?」「うわ~~~!!」「ええええええっ!?」


 あんなに近くにいたはずなのに。

 叫び声をあげる3人の姿は光に包まれ、輪郭すら見つけることができない。


「きゃああああああああああああああああ!!!!!」


 やがてあたしたちは煌々こうこうと輝く光の渦の中に。

 身体ごと飲み込まれるようにして。



 ――消えていった。



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作品公開記念! 本日このあとも連続更新となります。

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