塔の上のカグヤさま★~記憶を失くした幽閉令嬢、理想の王子様と同棲が決まりましたが毎日ハチャメチャで困ってます。え、これって彼らなりの溺愛なんですか!?どう考えても夫婦漫才にしかみえません!~
1-17 あだ名を広めよう!(クラノスの記憶②)
1-17 あだ名を広めよう!(クラノスの記憶②)
~前回のあらすじ~
なんかクラノスがすんごい魔法をぶっ放した!
☆ ☆ ☆
『――さすがはカーテイク王国が誇る
海竜の群れを一瞬で壊滅させたクラノスは。
なにもなかったかのようなクールな表情で、巨大船――ならぬ巨大イカから降りてきた。
彼を迎えるように街の人たちの歓声がより強くなる。
『やはり〝世界一の魔法の使い手〟は伊達ではない!』『加えて容姿も端麗……!』『我が王国は安泰だ!』
「すごい! みんな、クラノスのこと大絶賛じゃない! ――っていうか、あんた世界一の魔法使いだったの!?」
帰還したクラノスに、街の皆がきらきらとした羨望の瞳を向けている。
「はあ。自慢するつもりはこれっぽっちもなかったんだけど、知られちゃったらしょうがないかな」
わざとらしい溜息をついて謙虚ぶってはいるけれど、誇らしさを滲ませてクラノスは言う。
「ふん。つまらん」ミカルドが不機嫌そうに目を細めた。「この国の民は
「それは言い過ぎだよ~!」マロンがたしなめる。「人間だれしも間違うことはあるしさ」
「おいマロン。それはフォローになってないぞ?」クラノスが笑顔のままでこめかみをひくつかせた。「ボクのことはどう言ってくれたって構わないさ。でも――カーテイクの民を
「……へえ」
あたしはちょっぴり感心した。
ちゃんと王子様っぽいところあるじゃない。
……と思っていたら、まわりの民たちが、
『おまけに優しくて!』『爽やかで!』『裏表もない!』
と叫び始めたので、逆に〝洗脳されてるんちゃうか〟とかそっちの方の心配をするようになった。
そういえばどこか顔が虚ろで瞳の焦点もあってない気がする……気のせいよね?
浮かんできた悪い考えを、ふるふると振って否定する。
さすがに一国の王子が、住民を洗脳なんてするわけないわ。
「どう? 少しはボクのこと見直した?」
「うん、すごく慕われているのね。あんたが魔法かなにかで、みんなを洗脳してるのかなって少し心配になっちゃったくらい」
「ふふん、そう言ってくれたらボクも誇らしいね」
あたしの皮肉には特になにも答えずに、クラノスが胸を張った。
え? 待って? なにも言わないってことはガチで洗脳してるの? え?
『クラノス様は素晴らしい』『ああ、やはりあの【二つ名】にふさわしいお方だ』
鼻高々だったクラノスが、そんな洗脳疑惑のある街人の会話にぴくりと反応した。
「――へえ。二つ名なんてあるんだ。なんて呼ばれてるの?」
「……き、気にしなくていい。そろそろ行こう」
なぜかクラノスは慌てるようにして腕を引っ張ってきた。
「何をそんなに焦るのだ?」とミカルド。
「二つ名! かっこいいやつ~?」とマロン。
民をだまくらかした結果ついた異名だ。
どうせ聞いてるこっちが恥ずかしくなるほど賛美されたものだろうな。
なんて思っていたら、
『カーテイク王国が誇る』『クラノス様が』『二つ名!』
彼の二つ名が、明らかになった。
『――〝
「「「…………!!!」」」
あたしとミカルドとマロンが揃って目を見開く。
「殲滅の……!」とミカルド。
「イカ……!」とマロン。
「王子……!」とあたし。
街の住民はきらきらと羨望の眼差しを向けている。
一方クラノスはふるふると羞恥からその身を震わせている。
そしてあたしたちも――肩を震わせていた。
クラノスとは違って〝笑いを堪える〟意味だけど。
「ぶはははははは!」ミカルドが我慢できずに吹き出した。「これはこれは、たいそう立派な二つ名だな!」
「せ、殲滅の……ぷっ! イカ……ぷふう! ……おう、じ、ぷふうううう!」
ほっぺをぷくぷくと膨らませながら、マロンが繰り返した。
「ちょっとあんたたち! せっかく自慢の国民がつけてくれた二つ名を笑うんじゃないわよあはははははは!」
「カグヤ! 自分が一番笑ってるじゃないか!!!!」
クラノスが顔を真っ赤にして叫んだ。
はー。絶妙な異名ね。
まさにで聞いてるこっちが恥ずかしくなるほどだったわ。
「あ、ちょっと! そうこうしてたら、クラノスたちが行っちゃうわよ!」
みると【記憶の中のクラノス】が豪勢に装飾された箱型の小舟に乗り換え、島の奥へと進もうとしていた。
あたしの言葉は届いていないようで、ミカルドたちはクラノスの渾身の異名を未だいじり続けている。
「もー。別に二つ名いじりなんて、戻ってからでもできるでしょうに……ぷっ」
とはいえあたしも余韻に浸るように一笑い入れてから。
自分ひとりだけでも、その小舟を追うことにした。
☆ ☆ ☆
「へえ、意外と中は広いのね……って、あ!」
舟の中にこっそり乗り込むと【記憶世界のクラノス】と目が合った――ような気がした。
「……うん、気のせいよね」
今のあたしは記憶世界の人からは
当のクラノスも不思議そうに首を捻ったように見えたけれど。
深追いされることはなく、周囲との会話に戻った。
『それで……〝例の件〟は順調?』
心なしか、いつもよりトーンの低い声でクラノスは言う。
『は、はい』どこか怯えるように、まわりの貴族風の人が答えた。『クラノス様のご指示通り、着々と完成に向けて近づいております』
『そう、よかった。進捗があればすぐに教えてね』
『ですが……本当に良いのでしょうか。
ぎろり。クラノスが笑っていない瞳で、その男のことを見た。
(え? 今、なにか言った? 水の音でよく聞こえなかったわ――それにクラノス、なんか怖い顔してない……?)
そんな風に一瞬見えたけど。そのあとは、にこり。
いつも通りの爽やかな微笑みを浮かべた。
『あはは、心配しないで。あくまでこれは――魔術の〝研究〟の一環さ』
『は、はあ。それでしたら……』
(気のせいかしら。記憶がどうたらって言ってなかった……?)
あたしはふたたび聞き耳を立てる。
――急がなきゃ。ボクにはもう、時間がない。
最後にクラノスが呟いたところで。
ぐらり。世界が揺れた。
「きゃっ!? なによこれ、クラノスたちがどんどん遠くに……あたしの身体が引きはがされてる!?」
やがて、この世界に来たときと同じような光が周囲を満たして。
あたしの意識と身体は、ふたたび生じた光の
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