1-18 みんなの過去を知ろう!
「……はっ!? 戻って、きた?」
あたりを見渡す。
見慣れたテーブル。見慣れたソファ。見慣れた天井。
――塔の8階、共用部。いつもの景色だわ。
そして床には見慣れた男たちが3人。
くんずほぐれつしながら転がっていた。
「え? なにがおきたらそうなるの……?」
くんずほぐれつ、というのはまさに言葉そのままだった。
「マロンとミカルドの手足が……めちゃくちゃ
「痛っ! 動くな、マロン!」「助けて~!」
あたしは複雑に絡まったふたりの手足をあやとりのように解いてやる。
「っていうかコレ骨とかどうなってるのよ!?」
「ふ~、助かった~! ありがと~カグヤ!」
額の汗を拭いながら、あっけらかんとマロンが言う。
「む? なんだ、もう〝あの塔〟に帰ってきてしまったのか」
あたりをきょろきょろと見回して、ミカルドは残念そうにしている。
「また〝あの塔〟って言ってるし……」
名前をつけようって言いだしたのミカルドでしょ、というあたしの嫌味を気にせず彼は続けて、
「もうしばらく見ていたかったのだが――〝イカ王子〟の活躍を」
ぴくり。クラノスのこめかみが動いた。
「……その名前で呼ぶなって言ったよね? また
どうやら、さっきの手足ぐるぐるはミカルドの魔法によるものだったようだ。
ってか魔法怖! あんなことまでできるの!?
――さすがは世界最高の魔法使いね。
魔法の使い先間違ってるような気もするけれど、とクラノスの方に視線を向けると。
彼はやはり〝二つ名〟のことを引きずっているようで口元を歪ませていた。
「――
「いやいや、めちゃくちゃ気にしてるじゃない」
あたしは一応突っ込んでおく。
……あれ? そういえば根絶じゃなくて〝殲滅〟のイカ王子じゃなかったっけ?
ま、どっちでもいっか。面白いのには変わりないし。
「なぜそんなに怒る必要がある? 信頼する国民が名付けてくれた誇れる名であろう」
ミカルドが至って真剣な顔つきで続ける。
「我は素晴らしい
「違うよ~、【灼熱の炙りイカ】じゃなかった?」
「あんたたち、クラノスのこと馬鹿にしないのあははははははは!」
「だからカグヤが一番爆笑してるじゃないか!!!!」
クラノスが顔をさらに赤くして叫んだ。
ミカルドは思案して、「あんなインパクトのある名を忘れるわけがない――【激烈なイカの匂い】だったな」
「違うってば! 【ぬるぬる触手王子】だよ~!」
「もはや原型留めてないじゃないあはははははははははははは!」
「ボクの二つ名で大喜利するなーーーーーーーーッ!」
☆ ☆ ☆
「それにしても……本当に記憶が覗けるだなんてね」
覗けるどころか、その世界にまるまる入り込めちゃったわけだけど。
あたしはゴンタロのことを撫でながら、誇らしげな気持ちになった。
「もしかしたら本当に〝あたしの記憶〟も――」
正直〝怖い〟という気持ちもある。
だけどこのまま、閉じられた世界で
(すこし訂正。目の前のお騒がせ三馬鹿王子がいる限り〝のうのう〟とは無理だ)
「「「カグヤ――」」」
そんなあたしの気持ちとは裏腹に、噂の三馬鹿はあたしに、
『そう不安になるな』『大丈夫だよ~』『ボクがついてる』
みたいな視線を向けてきた。まったく、どこまでもお気楽なんだから。
それでも。
「やるっきゃないわね……!」
一歩を進めるのに、彼らの能天気な態度はひと役くらいは買ってくれた。
あたしは大きく深呼吸をして――
「ゴンタロ! ――〝あたしの記憶〟を見せて」
核心に迫るそのお願いを、した。
……んだけど。
「あれ? うそ、光が……」
ぽわわわわ、という輝きはいつもより弱々しく。
一瞬のうちに消えてしまう。
「「…………」」
そのあとしばらく待ってみたものの。
――それ以上、なにも起こることはなかった。
☆ ☆ ☆
「なんだか肩透かしをくらった気分だわ」
〝本人が覚えていない記憶〟を引っ張り出してくるのは、やっぱり無理だったのかな。
「そう気を落とすな。カグヤ」
ミカルドに慰められた。
「大丈夫だ、じきに記憶は戻る。我らがついているからな」
あんたらがついてるから不安なのよ、とは言わずにおいた。
「ちぇっ。カグヤの恥ずかしい記憶を探れると思ったのに……」
クラノスが悔しそうに爪を噛みながら言った。
大丈夫。あんたの二つ名を越える恥ずかしさはそうそう無いから。
「じゃあ、次はおれの番だね~!」
続いてマロンが子供のような笑顔で手を挙げた。
「……む? なんだ、マロンもやるのか」ミカルドが眉を寄せる。
「うん~! 面白そうだし!」
「カグヤ、いいのか?」
「別にいいんじゃない? まだゴンタロの魔力には余裕があるみたいだし。それにあたしもあんたたちの過去には興味があるしね」
ちょっぴり(かなり?)イレギュラーな方法ではあるけれど。
彼らの背景を知れるまたとないチャンスだ。
「それじゃゴンタロ――〝マロンの記憶を見せて〟!」
『ガッテンデイ!』
今度は勢いよく返事があって。
ぽわわわわわわわ。
激しい光の中へと。
ふたたびあたしたちは巻き込まれていった。
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【塔の上のカグヤ様☆】
~特別篇~
『マロンと、記憶。』の巻
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生まれついてこのかた。
――
それ、だとか。あれ、だとか。
至極どうでもよさそうに、おれは呼ばれた。
冷たい視線。浴びせられる罵声に――暴力。
そんな家庭で育ったおれだけど。
両親に気にかけてもらえるだけで、おれは嬉しかった。
終わりのない暗闇のような生活の中で覚えたのは、ひとつだけ。
――
どれだけ蔑まれようと、笑顔を浮かべて馬鹿のふりをしていれば。
両親は優越感を得たようにして、醜く笑ってくれた。
『やっぱりお前は馬鹿だな』
そう言って浮かべる歪んだ笑顔を見ると、なんだかおれはとっても安心できて。
『そろそろ
与えられるのは、いつもと同じ。
腐りかけの残飯。
おれは今でも思う。
――あの頃の食事と比べれば、どんなご飯でもすっごく美味しく思えるんだ。
☆ ☆ ☆
「ちょっと待って、背景が重たすぎる」
「あ、これ、おれが昔読んだ童話の記憶だった~」
「あたしの同情返せやああああああああ!!!!」
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※実際はたくさんの美味しいご飯を食べてマロンは育ちましたのでご安心ください……!
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