3-27 月について訊いてみよう!
カグヤの記憶にまつわるいろいろなことが明らかになった〝あの夜〟から一晩が明けた。
――今夜、青い星がよく見えているうちに
あたしは屋上の端壁に立って、王子たちに向けてそう言った。
空に浮かんでいた青い星を見れば、この場所が自分たちの知る
なのにそのことを少しもあたしに言わないなんて……どうして隠したのか、そもそもそれで〝なに〟を隠したつもりだったのかは分からないし。
それを詳しく知ろうという気にもなれなかった。(あたしはひとかたまりの〝真実〟を記憶世界の探訪から知ることになって、その情報量の多さにいささか疲弊していたことも大きいかもしれない)
とにかく、次に空に浮かぶ月――ならぬ〝地球が満ちる〟3日後の夜。
過去のあたしが最後に残した〝指輪の魔法〟が解けて、この森からの帰り道はなくなってしまう。
色々なことが明らかにはなったけれど、たったそれだけが変わらない事実なのだった。
「だからもう、あんたたちの顔も見たくないし……なによりこれ以上引き留めても仕方ないと思ったんだけれど……」
場所はエヴァの8階。
見慣れた
「なんであんたたち、帰らずにふつうにここにいるのよ!!!!」
そう。
あれだけシリアスで
「カグヤ~! おかわり! ご飯5倍盛りで!」
「オレ様もだ。良い筋肉には良い食事が不可欠だからよ」
「ククク……! 余の腹で飼う邪龍が〝此れでは足りぬ〟と吠えておるわ……!」
彼らの食欲の方も、いつもとまったく変わらない。
「もー! 雰囲気が台無しじゃない!!!」
文句を言いながらも慣れた手つきでキッチンから追加のおかずやらを運んでしまう状況になんだか悲しくなった。
ま、それを見越して最初から
あれだけのことがあったあとだもの。もう少しくらい〝おセンチ〟な空気になっても良かったじゃない。
「う~ん、やっぱりカグヤのご飯は最高だね~!」
ひととおりの苦労も、王子たちの幸せそうにご飯を食べる姿を見るとすこしは報われた気がする。
これもいつもの感情だ。あたしは料理が好きだし、料理を食べてもらうことも好きなのだ。
「……でも。あのふたりは今日もいないのね」
あのふたり、というのは例のごとく――ミカルドとクラノスだ。
あたしが記憶を取り戻したことで彼らを巻き込んだ〝いろいろなこと〟が明るみになってしまったのだ。
――あたしは過去に、最愛の人として【クラノス】を選んでいた。
その事実は未だにあたしの心の奥の方に
待ち合わせ場所を決めたあの夜に、クラノスが待つ屋上へ向かう足取りは軽く、そして彼を見つけた輝夜はなんとも幸せそうな表情でその胸元に飛び込んでいったのだ。その時の自分自身の
「……って、そういえば、記憶!」
「んあ? 記憶がどうしたっつーんだよ」
筋肉男・アーキスが骨付き肉にかぶりつきながら尋ねた。
「あんたたち……〝あたしとの記憶〟をどこまで知ってたの……?」
変に間を取れば言いにくくなると思って、あたしは単刀直入に訊いてやった。
「「………………」」
しかし、無言。
彼らは首を傾げたり、目を細めたり、ご飯を胃袋にかきこんだりと思い思いの無言をあたしに向けた。
「なに言ってやがんだ? カグヤがあの夜に、どんな記憶を思い出したかは知らねーが」
アーキスは前置いて、食べ終えて太い骨だけになった腿肉を鉄の皿にがらんと置いた。
「カグヤとは
「……え?」
「おれも~」「おらもだべ」「当然、余もである……!」「――俺も、そう」
他の王子たちもなんなく同調した。
「で、でも!」あたしは納得がいかなくてみんなに言った。「〝青い月〟のことはどうなのよ? 空を見れば、そこに浮かんでいるのが〝月〟じゃないってまさしく一目でわかったでしょう?」
「んあ?」しかしアーキスは、楊枝で歯の間をほじくりながら当然のように言った。「確かにいつもの月とちと違うようにも見えたけどよ……
「……は?」
そのなんてことのない些細な回答に。
あたしの顎は大きく外れた。他の王子達も続く。
「場所によって月の見え方も変わると思ってたべ……なにしろ、おらが村から出るのは初めてだったべよ」顔を掻きながらイズリー。
「ククク……邪神様の降臨の日は近い……空の星の異常も想定内である……!」大げさな身振りでオルトモルト。
「俺は――きづいてたけど、なんだか――はずかしくって、いえなかった」頬を赤らめてアルヴェ。
「あはは~ふだん空とかそんなに見ないから気づかなかった~」あっけらかんとマロン。
そんなふうに、それぞれの王子たちは〝塔から見上げる空に浮かぶ蒼い月=実は地球だった問題〟をなんてことないように無に帰した。
「は、ははは……」
思わず乾いた笑いがあたしの口をつく。
そういえば忘れていた。目の前の王子たちは、見た目は理知的でどこまでも整っているが……中身は徹底的に〝残念〟だったのだ。
「あたしも懲りないわね……あんたたちのこと、想像以上に
あたしの呟きは、彼らが必死にご飯をかき込む音に紛れて消えた。
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