2-20 7人目の王子様……!


「カグヤ、大変だ!」


 8階リビングでアルヴェとティータイムを嗜んでいると、殲滅のイカ王子ことクラノスが飛び込んできた。


「どうしたの?」


 あたしは顔を向けずに声だけで訊く。


「それが屋上に――〝へんなやつ〟がいるんだ!」


 クラノスはそんなことを必死の形相で訴えてきたので。


「あら、このクッキーもうまく焼けたわね~」


 聞かなかったことして、あたしは引き続きお茶会を楽しむことにしたのだった――



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【塔の上のカグヤ様☆】


  第2章20話 

    『7人目の王子様……!』の巻


       ~  完  ~


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「ってカグヤ! 勝手に終わらせるなよ!」


 クラノスが引き続き叫んだ。


「そんなに大きな声を出さないでちょうだい、アルヴェがびっくりしちゃうでしょ」


 あたしと一緒にティータイムを嗜んでいるのは、メイド姿の可憐な男の娘・アルヴェ。

 家事がひと段落したあとは、こうして優雅にお茶会を開くことが日課になっている。

 お騒がせ王子様ーズの喧噪からも解き放たれるささやかなリラックスタイムなのだ。


「せっかくの憩いの時間を邪魔しないでよね」


「だからそれどころじゃないんだって! 〝へんなやつ〟が出たんだよ!」


 あたしはゆっくりと腕をあげてクラノスのことを指さしてやった。


「……なんでボクを指さすんだよ! ボクは〝へんなやつ〟じゃない! むしろから比べればずっとマシでしょ!」


 クラノスは8階の隅で〝無限耐久サドンデス腹筋バトル〟を行っている残念王子ーズを指さした。


『うおおおおお、オレ様はまだまだ余裕だぜ!』『勝つのはおれだもんねー!』『我はお前らには、決して負けん!』『おら、頑張るべよ……!』


 などと4人の王子が白熱している。

 意外にも訛り王子ことイズリーも筋トレブームにすっかりハマリ、かなり前向きに取り込んでいる。

『身体さ鍛えるに、こしたことねえべ』とのことだったが、確かにあの理不尽な魔界村での生活のことを考えると筋肉を鍛えておいて損はないかもしれない。


「ここ最近、塔内のむさっくるしさが上がってる気がするのよね……なんか物理的に熱い気がするし」


「あれだけ二酸化炭素を吐かれた上で筋肉を燃焼されたらそりゃ室温も上がるよ……」


 はあ、と一足先に筋肉ブームから足を洗ったクラノスが息を吐いた。


「あんたもお茶菓子食べる?」


「いただきます……ん、これ美味しいね」


「でしょー! これはアルヴェがつくったのよ」


「へえ、さすがじゃん」


 アルヴェはなんだか照れたようにあたしの背後に隠れて(こういうところも可愛い!)、小さく呟いた。


「あり、がと」


 そしてクラノスも頬を染めて返す。


「……どういたしまして。いや別に、作ったのはアルヴェだし。むしろボクの方こそ御礼を言うよ。ありがと」


 などとしているところを見ると、まるで貴族と使用人の禁断の恋のように見えなくもなくて。

 きゃあ、とあたしの中のリトルカグヤが黄色い声をあげたのだが、冷静に考えるとそのメイドさんの方は男だった。


 あたしの中で、別の性癖担当のリトルカグヤが雄叫びをあげ始めるのを抑えていると――


「あっ! また誤魔化されるところだった!」クラノスがぶんぶんと頭を振ってあらたまってきた。「それどころじゃないって! 屋上にへんなやつがいるんだよ!」


「へんなやつ、ねえ」あたしはティーカップを置きながら言う。「それってあたしが行かないとだめ?」


「当たり前だろ、家主なんだから!」


 うーん、散々理不尽なことに巻き込まれてきたあたしからしてみれば『もう疲れましたどうぞご勝手に』という感じなんだけど……。


「そういうわけにもいかないか」


 あたしは溜息をついて重い腰をあげた。

 そして念のため右手の〝運命の指輪〟を確認してみたけれど。


「あれ? ……今回は光らないみたいね」


 前例たちが酷すぎたせいで信頼はとっくに失われているけれど。

 〝もしかしたら今度こそ真の王子様かも……?〟と期待があったことは正直に告白しておく。

 残念な気持ちと安堵した気持ちの半々で、あたしは屋上への階段を踏みしめた。



     ☆ ☆ ☆



「さっきも言ったけれど、この塔にはすでに〝へんなやつ〟がたくさん住み着いているの」


 階段をのぼりながら後ろをついてくるクラノスに言う。

 ちなみに筋トレをしていた他の残念王子ーズも『なにやら面白そうだな』とこぞってついてくることになった。『む? 塔にへんなやつが棲みついているのか?』と全員して首を傾げてるけど、安心して。完璧にあんたたちのことを指してるから。


 そんな彼らのズレた様子を見てあたしは確信する。


「今更どんなやつが目の前に現れようと、動じない自信があるわ」


 本来なら身につけたくはなかったそんな自信をみなぎらせながら、あたしは屋上へとつながる扉を開け放した。


 そこには――


『デクムビヴセビヹハテヷムボゥケパテ――』


「……は?」


 全身を黒い衣装に身を包んで。

 巨大な杖を手にし。

 屋上の床に謎の幾何学模様の魔法陣を描きつけ。


 なにやらした大きな蜥蜴に乗りながら――


『ヤフラエィドヲエゼルレノジロジドワ――クルッポ!』


 天に向けて、謎の言葉を叫んでいる男がいた。



「へんなやついたーーーーーーーー!」



 思わず叫んでいると、唐突に。

 指輪の宝石が光った。


「やっぱり光ったーーーーーーーーーーー!」


 ――もうやめて! とっくにあたしのライフはゼロよ!


 そんな心の叫びは叶えられることもなく。


 今日もあたしのもとへ――



 一目みただけでヤバイと分かる王子様候補が、現れた。


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