2-21 神託を授かろう!


「ククク……余の名はオルトモルト!」


 黒ずくめの〝へんなやつ〟は外套のマントを翻しながら言った。


「偉大なる暗黒龍の血を受け継ぐ、闇の一族の末裔である……!」


「「…………」」


 なーにいってんだこいつ。

 とは言わなかった。ほら、一応初対面だし?

 あと3分後には言っててもおかしくないけど。


「ククク……あまりの恐ろしさに声も出ぬか……!」


 致し方あるまい、と【オルトモルト】と名乗った男は片手を顔の前にあてた。


 髪の毛は瞳と近い濃紺で、前髪は長く片方の目が隠れている。

 言葉の強さの割には肌は日焼けをしていないように青白く、どこか虚弱な印象も受けた。

 腕やら足には包帯が、なんか雑な感じで巻かれている。本当に怪我をしてるのかしら……?

 無駄にじゃらじゃらと指輪やらネックレスやらアクセサリーもしてして、モチーフは髑髏や十字架のものが多い。

 

 ひと癖どころか、癖しかなさそうな見た目なのだが……

 しかしこれも例に漏れず――その顔だけはバッチリと整っていた。

 

(かっこいいよりは〝可愛い〟の方が近いのかも……人を小馬鹿にするような微笑みと病弱そうな眼のクマと鬱陶しい前髪髪を切って〝イメチェン〟すれば光りそうね。まるでダイヤの原石みたいな――)


「はっ! いけないいけない。無駄な時間を過ごしちゃったわ」


 きっと目の前のヤバそうな男はイメチェンを薦めても絶対に断りそうだもの。

 なんだか黒ずくめの服装からしても、あんまり見た目とかそういうのに執着がなさそうだし。


「ふむ。この服装に挙動――絵にかいたような〝中二病〟だな」


 ミカルドが言った。


「中二病?」


 聞いたことあるような、覚えのないような……不思議な言葉ね。


「ああ。十歳頃に訪れる思春期から、々抜け出せないでいる者のことだ」


 ミカルドがなぜか遠い目をしながら続ける。


「男なら誰しもが通る道だが……ここまで重症なのは見たことがないな」


「へえ……って、男って思春期にはみんなこんな感じになっちゃうの!?」


「当然だ。だれひとりとして例外はなくこうなる」


 目の前で『クハッ! 機関の影響か? 余の中で力が騒いでおるわ……!』と大げさな身振り手振りで話す彼の様子をあらためて見てあたしは思う。


 ――男子って、大変なのね。


「それで、ええっと……」


 中二病患者の名前を思い出そうとしていたら、クラノスが助け船を出してくれた。


「さっき聞いたのに忘れちゃったの? 〝オットモット〟だよ」


「うーん、なんかそんなお弁当屋さんみたいな名前じゃなかった気がする」


「〝オラガオラガ〟じゃなかったべか?」とイズリー。


「それはあんたの口癖でしょう!」


「んあ? 〝オオオオオオ〟じゃねーのか?」とアーキス。


「冥界のたみの叫び声か! 怖いわよ!」


「ふん。お前らは馬鹿だな」最後にミカルド。「我はきちんと覚えているぞ――〝ゲリベンベン〟だろう?」


「原型留めてないでしょうがああああああ! って思い出した、オルトモルトだったわね」


 なんて、いつもの感じでやっていたら。


なんじらめ……散々余の真名まなを愚弄しただで済むとは思うなよ……クハッ! 沈まれ、余の左腕……!」


 がたがた、とどう見ても自分で震わせているようにしか見えない左腕をオルトモルトは必死に抑え込むようにしている。


「逃げろ! まだ余の理性が残っておるうちに……このままでは抑えきれなくなるぞ……!」


 彼はその茶番にしか見えない自分の左腕とのやり取りを終えたあと。


「はあ、はあ……危ないところであったな。あと一歩で余の中の邪龍が目覚めておった……さすれば、汝らの命はなかったぞ」


 などと息を荒げながら、一仕事終えた後のように包帯だらけの腕を額に当てた。


「なーにいってんだこいつ……はっ、いけない。遂に本音が出ちゃったわ」


 あたしは誤魔化すように掌を口に当ててから、ひとつずつ疑問を解決していくことにした。


「一体あんたは、ここでなにをしてたわけ?」


 勝手にひとんちの屋上に魔法陣を描きつけて、訳の分からない言葉を叫んで……一体どういうつもりよ。


「ククク……深淵の招待すらまともに捌けぬ汝らには到底理解わからぬであろうな」


「あ? はっきり喋れや」


「邪神様に神託メッセージを送っていました」


 あたしがちょっと眼に力を込めてすごんだら、すぐに話してくれた。なによ、やればできるじゃない。


「いや、今のカグヤめちゃくちゃ怖かったけどね……たま取られるかと思った」


 などとクラノスが怯えながら言ってるけど、うーん、なんのことかしら。あたしはか弱いふつうの女の子なのに。


「邪神様にメッセージ?」あたしは再び尋ねる。


「ウム」オルトモルトは誇らしげに頷いた。「何せ、近いうちに世界は――への道を歩むのだからな!」



「なーにいってんだ、こいつ」


 3度目が出てしまった。



 

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