3-40 好みを明かされよう!


「カグヤの好みは、どうしようもなく〝残念な奴〟だってことが分かったんだ!」


 クラノスの〝衝撃の研究結果の発表〟によって。

 

「「――っ!」」


 思わず空気が固まった。

 塔の外では暗く染まった森が不気味にざらざらと揺れている。

 その音の中に紛らわせるようにクラノスは語っていく。

 

「名付けるとしたら〝残念専ざんねんせん〟ってとこかな。ボクの全身全霊をかけたカグヤの観察と分析、研究そのほかの結果として――そんな事実が浮かび上がってきたんだ」


「ちょっと待って、つっこみどころがありすぎるわ」


 あたしの言葉を無視してクラノスは続ける。


「だいたい不思議には思わなかった? カグヤのまわりには――〝残念なやつら〟が集まってきたことに。引き寄せの法則ってやつかな。それは実は、カグヤが意識的にも無意識的にも、残念なやつらに心を開いてポジティブな態度をとって引き寄せて、そうでない普通の人たちにはそれなりに接して深くかかわりあうこともなく距離を置いてきた――その結果ともいえるね」


「ごめんやっぱりつっこみどころが多すぎる」


 その言葉も徹底的に無視された。

 え? なんなの? あたしのこと見えてないの? そのへんに転がってる石かなんかとして認識してる?


 ――っていうか!


 クラノスの言うことが正しいとすれば、あたしのまわりに〝残念な王子様〟ばっかりやってきたのは、あたし自身が〝残念なやつら〟を呼びよせてたってこと……? そんなことってある!?


「あるよ! そうでしかないよ!」

 

 クラノスがあたしの心を見抜いたように突っ込んできた。

 

「とにかく! カグヤの好みは〝残念専〟――それが分かったら、やることはひとつだよね」


 彼は続く動作で片方の掌を顔の前にあてながら言った。

 

「そう。カグヤの前で、ボクは自分なりに〝残念なやつ〟を演じるようにしたんだ。でも……悔しいことに、それじゃ――〝本物〟にはね」


「ほん、もの……?」


「本物の残念なやつらにさ!」


 どーん、とクラノスは指を突き立てながら言った。

 てっきりそれは〝ガチ残念〟筆頭のミカルドのことをさしたのかと思ったら――

 なんと指の方向的に、あたしとミカルドを示しているようだった。


「え!? ちょっと待ってよ、あたしも……?」


「当たり前だろ!」


 間髪入れずに当たり前だろ、と言われた。

 がーん、とショックを受ける暇すら与えてくれずクラノスは続ける。


「まずはミカルドさ! さっきはみんなバカだから、カグヤの本当の恋心に気づけてないって言ったけど……その〝みんな〟には【ミカルド自身】も含まれてるんだ! カグヤからちゃんとのに、ミカルド本人はそれにまっっっっっったく気づいてなかったんだから。『我はカグヤに振り向いてもらえるのだろうか……?』とかって帝国皇子らしからぬ弱気な悩みを月に打ち明けながら、夜な夜な乙女みたいに『好き』『嫌い』の花占いをしてたけど、めちゃくちゃ愛されてるから! その花びら『好き』と『大好き』しかないから! 心配しなくてまったくいいから! ……それが残念以外のなんなのさ!」


「~~~~~~っ……!」


「どうしたの、カグヤ? いきなり身体を折り曲げて」


「ご、ごめん……ミカルドの花占いしてる様子を思い浮かべたらツボに入っちゃって」


 話が話だけに笑っていいのか分からなかったため、苦肉の策で表情を見られないようにしたのだが……クラノスにはバレてしまったようだ。

 

「ってか、そういうカグヤこそ! せっかくまわりの〝残念王子〟から好意を向けられてるのに……特に自身の【意中の人】でもあるミカルドからもされてるのに、それにちっっっっっっとも気づいてないんだもん! なにが『みんな社交辞令で〝好き〟って言ってはくれてるけど……いつか本当にから〝好き〟って言ってくれる王子様は見つかるのかしら』だよ! みんなの〝好き〟は心の底からの〝愛してる〟だよ! とうとう最後のあの〝全員からの告白タイム〟の時まで〝本当に愛されてる〟って気づかなかった時にはさすがにどん引いたよ! 別にほかの王子達やつらはバカだからなんにも気にしてなかったけどさ!」


 話を聞きながらあたしの頬は真っ赤に染まっていった。

 これはどちらかというとロマンス的なやつじゃなくて、羞恥心からくるやつだ。

 うう、恥ずかしい……。前のあたし、どれだけだったのよ……?


「確かにそれは申し訳ない気持ちもあるけど……」あたしは胸の前で指先をこすりあわせながら言う。「で、でもそれくらいだったら可愛いものじゃない?」

 

 一応はあたしにもプライドがあったので抗議してみた。


「そうだ、さっきから失礼だぞ。人はだれしもそれくらいの〝勘違い〟はある。それを残念だと決めつけるのはいささか人としての器が小さいのではないか?」


 抗議には渦中のミカルドも参戦してきた。これで2対1の構図だ。数的には有利ね。

 このままクラノスの主張を引っ込ませましょう、と思っていたら――


「他にもまだあるよ!」


「他にもまだあるの!?」


 クラノスの暴露はしかし止まらなかった。


 それでもあたしはここで負けるわけにはいかない。

 


 ――クラノスによって着させられた〝残念少女プリンセス〟の濡れ衣を返上するためには。

 

 

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