最終話 塔の上のプリンセス★
エヴァの掃除や後片付けも一段落したあと。
あたしは自分の部屋に戻って、窓辺で本を読んでいた。
読んでいるのは――ピアノの下に隠されていた例の【昔の
カギ付きだったそれは、結局アーキスの
「あのあと、ちゃあんと
ちゃりりん、とあたしの右手で金属音が鳴る。
日記帳のカギはアルヴェが見つけて持ってきてくれた。
どうやらピアノの下の部分に隠されていたらしい。
灯台下暗しというかなんというか……日記帳とそのカギを〝同じ場所〟に隠すなんて……。
当時のあたしは色々なものを差し置いても、やっぱり〝残念〟なところがあったのかもしれない。
「……あたしも書いてみようかしら」
そこに今のあたしの
そんなことを考えながらぱらぱらとページをめくっていると……。
「あら?」
それは冊子の最後の方。
何か水分を零して乾いたのか、ページとページがくっついて張り合わさってしまっている部分があった。
「うまく
ぺりぺりぺり、とくっついてしまったページを慎重に剥がしていく。
「どれどれ……」
中を開くと、そこは【自己紹介】のページであるようだった。
自分の名前やら、生年月日。趣味や好きなもの、嫌いなもの、得意なこと、などなどが書かれている。
「へえ。こんなページがあったのね」
あたしは興味深くそこに書かれていることを読み進めていった。
ほとんどが『あー! 分かる分かるー!』というのものであったが(書いているのは〝過去の自分〟なのだからある意味では当たり前なのだけど)、時折『へえー! 前のあたし、そうだったんだ』という新鮮な情報も混じったりしていた。
そんなページの最後に。
「……あ」
特に目を引く一文が書かれているのを見つけた。
「えへへ……これで、
あたしは照れくさそうに笑って頬を掻く。
――なんだ。やっぱり昔からそうだったのね。
なんて微笑みながら。
あたしはふたたびその日記帳を机の上に開いた状態で置いた。
窓から柔らかい光が差し込んで、照らされたページの最後。
――自分にとっての【理想の人】の欄には。
〝自分のことを偽らない、自然体な人〟
なんてことが、書かれていた。
「……ふうん」
多分それは、あたしがみんなのことを。
どこまでも正直で素直で
――【王子様候補】にした、理由なんだと思う。
確かに前の
幸福なことに、今のあたしのまわりには〝自然体で残念な王子さま〟がたくさん居てくれるのだ。
そのうち、ダレカのことが〝すき〟から〝あいしてる〟に変わるのか。
今のあたしにはまったく分からないけれど。
――いつか絶対に変わる日が来る。
そんな予感が、強くしたのだった。
ぱたり。日記帳を閉じて。
窓辺に近寄ると心地よい風があたしの黒髪を揺らした。
「……ふう」
あたしは小さく息をして。ゆっくりと目を閉じて。
――これから待ち受ける未来の音に、耳を澄ませた。
☆ ☆ ☆
あたしの名前はカグヤ!
どこにでもいる
――じゃなくって。
実は月の光に導かれて異世界にやってきた
――だったわけだけど!
今は地球に帰還したはいいものの……やっぱり
まわりには〝白馬の王子様〟には随分と程遠いけれど。それでも。
腹黒で。
お馬鹿で。
訛ってて。
筋肉信者で。
中二病な。
どこまでも
それぞれが信頼する相棒たちがいて。
どこにもなかった――
たとえ塔の外に連れ出してくれなくても。
――あたしは今、とっても、幸せですっ
==============================
ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回の『エピローグ』をもって物語は完結となります。
最後までカグヤのことを見届けてくださると幸いです。
よろしければ作品フォローや♡、★評価などもぜひ……!
(今後の執筆の励みにさせていただきます――)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます